harujion

shy

04 赤い髪

カフェに通い初めて一年くらいが経った。
アルバイトまでの時間や学校の課題に集中したい時はよく此処で時間をつぶすから半年程前からは前以上に頻繁に来る店になっていた。
居心地がいいのもそうだけど、仲のいい茶飲み友達というものが出来たのだ。

軽く声をかけながらアイスカフェラテを持って隣に座ると、本を読んでいた彼は顔を上げた。
近くの大学院に通うセブルス・スネイプは俺の財布を拾ってくれたカフェの常連さんだ。

俺の身分証を見て名前を知ったらしい彼は確認するように俺に話しかけ、コーヒーは確かに受け取ったと報告をしてくれた。話しかけてくれるとは思ってもみなくて、ちょっと嬉しくなった。あなたは、と尋ねるとセブルス・スネイプだとぶっきらぼうに自己紹介をしてくれた。
前ほど壮絶な人生を歩んできたわけではなさそうで、幾分か人当たりはよかった。
そんなこんなで、挨拶を交わすようになった俺たちは最近では会えば必ず会話をするようになっている。
「珍しいんじゃない、こんな日曜日の昼間に居るなんて」
「ああ、今日は本屋に寄ってきたついでだ」
セブルスは大学院に行ったついでに来ているから休日は滅多に会わないので、俺はストローで冷たいカフェラテをすすりながら視線を向けた。
「へえ、何買ったの」
「お前には難しい本だ」
「嫌な言い方。俺だって結構本は読む方だよ」
前世の名残で、よく本を読む俺はセブルスと時々本の貸し借りをする。やっぱり専門的に学んでいる人の本は難しくて読めないけど人格の形成が早かった俺にとっては普通の本より難しい本の方が楽しいことがあるのだ。
「知っている。……政治の本は好かないだろう」
確かに、政治は正直興味が無い。セブルスは守備範囲が凄く広いから、ついて行けない所は山ほどある。
「ミスター・スネイプは俺のこと良くご存知のようで……」
「気味の悪い呼び方をするな」
本の表紙で軽くはたかれた。
最初こそ、このように呼んでいたけど、仲良くなりフランクに話すようになると自然と名前で呼ぶようになった。もう今では、気味の悪い呼び方になってしまった。俺、なんでスネイプ先生なんて呼んでたんだろう友達のこと、なんて思うときがあるのが驚きだ。

「どうした」
「え?」
ぼうっとしていたからか、セブルスは怪訝そうに俺の顔を見つめた。
どうもしないよと笑ってみせようと思ったところで、ドアが開く音が俺の考えを遮った。
「あらセブルス」
そして鈴のような声が背中から聞こえた。目の前にいるセブルスは俺を通り越して声の主に視線をやり、呟くように名前を囁いた。
「リリー」
「休日に居るなんて珍しいじゃない」
「本屋に行って来たんだ」
俺はぴくりと指先だけ動かした。ゆっくりと振り向いて見上げると、たっぷりとした赤髪の綺麗な女性が笑顔で手を挙げていた。
綺麗な緑色の眸は遠い過去に見たことがあった。
「ね、あなたセブルスのお友達?」
「え、あ、ああ、はいそうです」
「こんなに若いお友達がいるなんて、びっくりだわ」
私はセブルスの幼なじみでリリー、この近くに住んでいるのよ。とリリーは笑って自己紹介をしてくれた。
それに倣って俺も軽く自己紹介をする。
ミスリリーと呼んだら、ミスなんて要らないわと笑顔で断られた。とても可愛らしい人だ。
「ねえ、これから一緒にランチしない?」
「構わないが……」
も!」
「俺も?え、いいの?」
てっきりセブルスだけかと思っていたけどリリーは俺まで誘ってくれた。
「もちろん!私今まではセブルスのお友達って苦手だったけどあなたは全然そんな気がしないの」
「ははは」
「……」
セブルスは眉を顰めて何も言わない。おそらくスリザリンみたいな人たちとつるんでいるんだろう。
「私ともお友達になりましょ」
「ありがと、喜んで」
セブルスの友達を想像して、そしてセブルスの眉間のしわを見て思わずくすりと笑ってしまいながら返事をする。リリーは、ジェームズも驚くでしょうねと笑っていたので多分二人は結ばれているのだろう。セブルスはここへきても報われないらしい。
それでも交友関係は続いていて、ジェームズともそこまで啀み合っていないような雰囲気なのでよかった。

「セブルスは横恋慕してるわけだね」
……!!」

リリーを見る眼差しはとても優しくて、ジェームズの名前が出たら嫌そうな顔をするセブルスにこっそりと小さな声で呟くと鬼みたいな顔をして俺をにらんだ。
「でも、よかった」
「何がだ」
「何でも無い」
セブルスにとってはどうかわからないけど、俺から見たらとても幸せな光景だった。
カフェには、時々リリーがコーヒー豆を買いに来て、暇つぶしとリリーに会う為にセブルスは足を運び、幸せな姿を見たいが為に俺は通うのだ。

next



短く少しずつ。
Mar.2013