05 ハシバミの眸
リリーに誘われセブルスと三人でポッター家に行くことになった。広い庭のある一軒家の前には可愛らしいポストが立っていて、POTTERのアルファベットが並んでいる。
緑色の芝生がまぶしくて、そんな光景にセブルスやリリーがいることがもっとまぶしくて、俺はそっと目をほそめた。夢みたいな世界に、俺は今居るのだ。
けれど、今は現実で俺が心の底で繰り返し思い出す霞がかった薄暗い世界こそが夢なのだと言い聞かせた。
彼らは紙面上の人物、あるいは既に死んでいる人。
そして彼らは今目の前で生きている。
「幸せだなあ」
「あら、言い過ぎよお」
「美味い」
リリーの手作りサンドウィッチを飲みこんでほっと一息をつきながら呟くと、照れたように微笑んだ。
セブルスは満足気な顔でコーヒーをすする。あんたどんだけコーヒー飲むんださっきも飲んでたくせにと思ったけど口には出さなかった。
「そんな幸せで美味しい料理を僕は毎日食べているんだよスネイプ」
「ハリー、パンくずがついている……ここだ」
リリーの隣で、俺の斜め向かいに座っているジェームズはにやにやと笑いながらセブルスに自慢話をするけど、セブルスは背の高い子供用の椅子にちょこんと座ってパンをほおばるハリーの頬に指先で触れた。
こんな光景が見られるとはな、と思うけどきっとそれがこれから毎日続くのだ。
感動はいつだって静かに押し込めて、小さく笑顔を浮かべるにとどめる。
「これでも昔は突っかかりあって大変だったの」
笑っていたらリリーと目が合った。俺と視線を合わせるなりいっそう笑みを濃くして教えてくれた。
そうだったのかと少し目を見開いて、セブルスの方をちらりとみてまたリリーに確かめるように視線をやった。 「セブルスだけはちゃんと大人になったみたいね」
「僕はいつだって少年の心を忘れないのさ」
「食事中は静かにしろポッター」
無視を決め込んでいたセブルスはナプキンでハリーの口を拭きながら顔だけこちらを向いた。大人になって言い返しはしないけど顔では全力でイライラしているようだ。
「むあ」
「セブルス、よそ見しないでハリーが息できないよ」
「んー」
「すまん」
小さいハリーは手をぱたぱたとさせて訴えた。俺は丁度見ていたので笑いつつもセブルスを嗜める。
リリーはクスクスと笑っていた。
「、、もっかい!」
「ええ?しょうがないなあ、いくよ?」
「うん!!!」
わくわく、と目を輝かせるハリーの脇腹を両手で支えて目を合わせる。
「よいしょ!」
「ひゃーあぁははははははあははははは!!!!!!!!」
ぶんっとハリーを持ち上げてぐるぐる空中をまわした。
「あはははは!!」
「ぐるぐるぐるー」
持ち上げていた身体を上半身に寄せてぎゅっと抱きしめながら俺自身がぐるぐると回転すると、ハリーは足と手をぎゅっと絡ませて大きな声で涙が出る程笑った。
その光景をジェームズもリリーもニコニコと見てて、セブルスは少し呆れている。
「子供と遊ぶのが上手いね」
「弟いるの?」
食事を終えて片付けをしている最中にハリーの遊び相手になっていた俺に、リリーとジェームズが質問した。俺に弟は居なくて、兄がいると言うと少し驚かれた。
「でも、夢の中の俺には弟がいっぱい居たよ」
手のかかる、双子二人と、泣き虫で生意気な小さな弟。あと可愛くて元気な妹も。こんなにはしゃぐ程遊ぶのに付き合ってやらなかったけど。
どうしたら喜ぶのかとかは知っている。
フレッドやジョージやロンは勿論、ハリーやネビル、リーだって弟みたいに思ってた。正直言うと、パーシーやチャーリーも弟みたいだった。ちなみにビルはあんまりそう思ったことはない。
「お願いしても会えないところに置いて来てしまったから、今こうして全力で可愛がってるつもり」
笑い疲れて寝たハリーの髪の毛をさらりと梳かして、頬を撫でた。
ロンがこのくらいだった頃を思い出す。双子と全力で遊んで電池が切れるまで走り回っていた。電池が切れるとどこでだって寝てしまうから俺がいつも見つけてやっていたのだ。
「なんだか、懐かしい気分だ」
「ハリーはのことが大好きになったみたい。弟だと思っていつでも遊びに来てね、お兄ちゃん」
「うちの子になるかい?」
リリーとジェームズは微笑んで、セブルスも少しあきれた顔をしながらも、幸せすぎる午後のまどろみに口角を上げていた。
わりと子供好き。
Mar.2013