07 家族なアフタースクール
学校が早く終わった。もともとクラブには入ってなかったし、今日はバイトの予定もない。珍しくまっすぐ家に帰ろうとしていた
夏が終わり少しだけ肌寒くなって来て、俺の服装は防御力が上がった。マフラーとまではいかないけど、カーディガンを羽織るくらいには涼しい。空は橙色が覆い始め、ふわりと枯れ葉が落ちてくる。
ふと、前を歩く人物を視界にとらえた。
長いたっぷりとした赤髪の女性と、くせっ毛の黒髪の子供が歩いていた。女性は両手に荷物を抱えているので、子供は傍をちょろちょろと歩いている。
早足に歩み寄り、リリーとハリーだと確信してからハリーの後頭部をぽすんと撫でた。
「わ?」
「やあ、ハリー」
少しかがんで顔をひょっこりだすと、緑の眸は驚きのあまりまんまるになったけれど、次第にきらきらと輝いた。
「だ!」
「あら、学校帰り?」
「うん、荷物持つよ」
リリーは荷物の間から顔を出して嬉しそうに微笑んだ。俺が手を出すと袋を一つだけ、申し訳なさそうに頼んだ。
両方もつからハリーと手を繋いであげたらと提案したが、リリーが何か言う前に、ハリーが俺とリリーの手を片方ずつ握った。
「ハリーはのこと大好きだもの」
「うん!あのね、手ぇ冷たいからね、僕があったかくしてあげる」
俺は昔から手が冷たい体質なのでハリーの子供体温満開の手はあったかくてふかふかで嬉しいけど、ハリーが可哀相だと思ったからやんわりと手を離そうとするが、ぎゅっと握られる。
「ごめん、俺の手冷たいから……」
「僕がやなの?」
悲しそうな声を出して、泣きそうな顔でこっちをみるので慌てて手を握り返した。
「冷たくてたまらなくなったら離すんだよ?」
「ママの手あったかいからへーき」
「そういう問題かなあ……」
俺とハリーのやり取りをみてリリーはくすくすと笑う。
「本当にあなた達仲良し。兄弟に見えるわ」
「俺の母はこんなに若くて綺麗じゃないけどね」
「ありがと」
リリーがウインクするので、少しだけきゅんとした。リリーは美人で、とても子持ちには見えないくらい若々しい。まあまだ二十代後半だから実質若いんだけど。
「さっきから夫婦みたいにするのやめてくれる?僕の奥さんなのに!」
突如、腕が肩に回され重みがのしかかり、耳元では知っている声がした。
いつのまにかジェームズが俺たちのことを見つけて後ろを付いて来ていたらしい。
仕事が早く終わったらしいジェームズは、みんなに会えるなんてラッキーだよと笑った。
「後ろから見てたら本当に家族みたいだよ。だからこうしよう!」
「え?あ、わ」
後ろからだと顔も見えないし、身長はリリーと同じくらいあるから夫婦に見えなくもないようだ。ジェームズは宣言するなり俺の持っていた荷物を奪って、たった今あいた俺の手を握った。ポッター家は手が温かいという遺伝子でもあるのか、やっぱりジェームズの手も温かい。
大人だなあと思うくらい大きくて、少し乾燥してて、骨っぽい。柔らかくはないけど安心感のある掌だった。
「これで僕とリリーは夫婦、とハリーは僕らの子!」
ぐぐぐ、とジェームズが俺に詰め寄るので、四人の隙間があまりなくなる。ハリーが潰れないようにはしてるけど。
ハリーは楽しいみたいで、きゃあきゃあと笑っていて、リリーは少しだけジェームズを嗜めてくれた。
「あ、じゃあ俺はこれで」
「「「え?」」」
「え?」
別れ道に来たので繋がれた手を持ち上げると、三人がきょとんと俺の顔を見る。
「寄らないの?バイト?」
「夕飯食べて行かないの?」
「あそばないの?」
「よ……よってこうかな」
しょんぼりしたハリーには逆らえずへらりと笑った。そんな俺のアフタースクール。
ほのぼのターン。
Sep.2013