02
少し前、柱阿腐郎という隊士が入って来てから真選組全体の様子が変わったようには思う。
柱阿腐郎という男自体が異例中の異例で、採用試験の実技では30人抜きした上に三番隊の隊長である斉藤終と一時間にも渡る手合わせを繰り広げた男だった。そして三番隊への特別副官としての抜擢。柱以上に特別な待遇で一番隊に配属されたが言うのも変だったが、柱は人心掌握に長けており、真選組に馴染み信頼を勝ち取るのが早かった。まさに三番隊となるべくしてなったかのように思える。
ただ優秀なだけならもあまり違和感は感じないのだが、それだけではない。
「———俺の私物が、いくつか見当たらないのですが」
「は?」
自身の所属する隊の隊長であり、最も年齢の近い総悟にこぼせば、きょとんという顔をされた。
「私物って?」
「シャツが一枚足りなくて」
「誰か間違って着てるんじゃねえのか」
傍に居た土方が煙草を咥えながら興味無さそうに答える。
「いえ、他にも筆とか腕時計とか、少し目を離した隙に無くなってることが多くて」
「隊士の中にこそ泥が居るってわけかィ」
「あまり疑いたくはないですけど……」
言葉を濁しては眉を垂れた。
無くなったものは、さほど高級なものではなかったといえど、回数が続けば迷惑である。
「こういうのって、三番隊にも報告すべきなんですか?」
「そうだな、内偵を担っている分もしかしたら尻尾掴んでるかもしれねえ」
「じゃあ後で行ってみます」
はお邪魔しましたと礼儀正しく頭を下げてから、斉藤の元へ向かう。縁側を走る柱とすれ違ったが、声をかける暇もなかった為にやはり隊長に声をかけるかと部屋を覗いた。
「失礼します、一番隊隊士の松平ですが———どうしたんですか?」
斉藤は縁側の方を見て固まっていた。それも、頭から血を流して。
無口な男であることは周知のことだった為はそっと斉藤の傍にゆき机の上の割れた湯のみと零れた茶を見て状況を判断した。
「湯のみぶつけたんですか?」
返答はないが、は気にした様子もなくポケットティッシュを斉藤に差し出した。そして恐ろしい程怖い笑顔で笑って受け取る斉藤に、若干は顔を引きつらせたが逃げるまではしなかった。
その後一応私物が無くなっていることや、もし誰か見かけたら粛正する前に報告が欲しいと伝えて部屋を去った。
「あの人動じませんでしたね、銀さん」
「お、おう……」
物陰に潜んで眺めていた万事屋の会話を、は聞いていない。
二週間程が経った頃、の私物は斉藤の私室から出て来ることとなった。
本人が知ったのはそのことだけで、どういう状況だったのかは不明だがそれ以外にも斉藤は職務怠慢、職権乱用等の噂があったことで牢屋に入れられている。
「おい、下着まで盗まれてたのかお前」
「あ、はい」
「それを早く言えェ!!」
私物の確認の為に呼び出されたは、被害者なのに怒られていた。
斉藤の私室から出て来たものは間違われないようにとの名が入ったシャツと、それと一緒になっていた小物類だ。中には過去が言っていた筆や腕時計等もある。それに加えて下着まで一緒に見つかったとあって土方はことの重大さを改めて感じた。
「これ、回収してって良いんですか?」
「は?あ、いや、お前それで良いのか?」
「見つかったなら別に……ちょっと、離してくれません?」
「これは重要な証拠品なのですぐには返せない!」
服を掴んだに対し、第一発見者らしい柱が反対側を掴んで放さないため回収できない。
「証拠品って……指紋採取でもしてくれるんですか。斉藤隊長の部屋から出たけど」
「む、いや、そうではないが」
少し手が緩んだ隙に、は服をひったくる。
「犯人探しは三番隊にお任せしますが、俺のシャツと下着は無くても良いでしょ。ね?副長」
「ああ、そうだな。持ってって良いぞ。念のため筆と腕時計は預からせてもらうが」
「はい」
そう言ってはあっさりと部屋を出て行った。
ほどなくして、隊士たちが柱に影響を受けてアフロ頭になり始め、とうとう目に見える形で真選組が変わった。
も隊長である沖田からアフロのカツラを支給されて沈黙せざるを得ない。皆嬉々としてそろいの髪型にして出掛けて行くのだがは頑にそれを被らなかった。
斉藤が局中法度の下に処断されると聞き及んだは、牢屋にいる斉藤の元を訪ねながら銀時が斉藤を諭すのを聞いていた。その口ぶりからするに、柱のほうが黒であり、斉藤が嵌められたことが分かった。正直な話には斉藤も柱もさほど人柄を知っているわけではない。が、柱のほうが怪しいことは分かっている。
暢気に居眠りしていた斉藤は一度銀時に見捨てられかけたが、牢屋の鍵を開けてが侵入して肩を揺さぶると一応目を覚ました。
「やややや、やばいですよ銀さん!ますます斉藤さんの地位が!」
「落ち着け新八」
隊士に見つかったとあって新八は狼狽した声を上げるが、の落ち着いた様子に銀時は確信を持っていた。
「こいつはアフ狼の味方だろ」
「まあ、そうなるんですかね……」
は頬を掻いてから斉藤を見下ろす。
「斉藤隊長、俺の私物が盗まれたときのことは何か知りませんか」
「あ!それ……!」
新八は小さな声をあげる。
桂は斉藤にあらぬ噂を立てる際に濡れ衣も着せてあると言っていた。それが確か、私利私欲に走り懇意の隊士の私物を盗んだという罪で、斉藤の私室にその物品を仕込んだと。
斉藤は当初何の弁明もしなかったというが、今回はどこからともなくそっと冊子を取り出し開いて渡した。
「———桂が柱と偽り忍び込んいるわけですか」
無表情でその冊子、内偵日記帳を読んでいたはすぐにそれを返却しながら結論づけた。
「なんでわかんだよ」
「いえ、顔もそうですけど、手口が」
「は?」
「奴がうちで家政婦してたときも、俺の私物がなくなったんです。身につけてたものとかが特に多くて。あのときは返ってきませんでしたけど」
「何アルか?ヅラはお前のストーカーアルか?」
「さあ?今回もやけに俺の私物に執着してるように見えますけど」
「完全にアウトじゃねえかあああ!」
神楽と新八が突っ込みを入れる。
「できれば、追い出すか正体を暴くかしてほしいので、宜しくお願いします」
は結局顔色一つ変える事無くお仕事おつかれさまですと何気なく労ってから牢屋から出て行った。
当日は大勢の隊士たちが集まっていたがは万事屋の三人と塀の影に隠れて審議を見ていた。
「ねえ、この人なに?なんなの?真選組じゃないの?」
「俺だけアフロじゃないんで、目立っちゃうんで」
神楽と銀時が斉藤にアテレコをしている中新八が若干引き気味に聞いて来たけれど、唯一人髪にボリュームの無いの姿を見てなんとなく察した。
孤立と言う程ではなかったが、はアフロ集団のなかでは異端であったのだ。
審議は結局、柱と斉藤が戦っている間に柱がアフロのカツラを取りさって正体がバレ、桂と斉藤の戦いが始まったのでは避難することにした。
「ってオイ、何お前まで来てんだ」
「斉藤隊長も無傷では済まないでしょうし一応お迎えに。隊舎の爆弾はほかの隊士たちがどうにかしますよ。メールしときました」
「ぬかりない奴アル」
途中で次元爆弾がまだ動いているとの報告が沖田からあり、丁度決着のついた川縁で桂との会話を聞いて答えていたが、沖田が伝えるよりも先に土方と電話をしていた斉藤が寝言でZと言った所為で電話口から爆発音が響いた。
立ったまま寝ている斉藤を沈めて転職しようかなと思いかけただったが、寝こけている斉藤を負ぶってなんとか隊舎に帰った。
桂さん変態にしてごめんなさい。
桂さんの神楽ちゃんをいつまでも「リーダー」って呼んでるところとか。
斉藤さんの眉毛短い感じとか。
好きです
ちなみに主人公の年齢は19〜21歳くらいのつもりです。
Dec.2015