03 中学生
両親が私立の中学を受けなさいって言うから受けた。未だに漢字は危ういけど問題文を読むのはなれてきて、国語以外はあらかた点数をとれた。長文問題が壊滅的なことをふくめても、合格点には達していたようで月と同じ中学へ通う事になった。
俺が入学したときはもう三年生で、兄弟が入るって教えるなよと釘を刺していたにも関わらず入学式後、教室に戻った俺に親しげに声をかけて来た。さようなら俺の静かな生活。入学式で在校生代表の挨拶をしていた男がいきなり来たとあればクラスの視線は俺に集中する。そういえば苗字一緒だよな、なんてひそやかに推理され、あっという間に俺は兄弟だとバレた。容姿は似ていないから話しかけさえしなければバレないのに。ゆるすまじ夜神月。
「話しかけんなっつったじゃん」
「可愛い弟のクラスが知りたかったんだ」
「……」
「うわっ!」
無言で腹パンしてやった。吃驚したよなんて大袈裟にリアクションとってから、何も用事を言いつけることなく去って行った。
席に戻ると何人かがそわそわと俺に話しかけたがっていたので机に突っ伏す事に決めた。
それからも兄はことあるごとに俺に声をかけた。廊下を歩いててすれ違うときにぽんと頭を撫でたり、雨が降りそうだからと折り畳み傘を持って教室に来たり、テスト前に一緒に勉強して帰ろうって誘いに来たり。一人で勉強できると断れば、定期テストは今までと勝手が違うんだぞと脅され、図書館へ一緒に行くはめになった。塾はないと言われたけれど、テスト前だからこそ塾に行けばいいのにとこっそり思う俺は間違ってない。
別に構われるのが嫌な訳でもない。本人を嫌っている訳でもない。兄の面倒見の良さは助かる所もある。
迷惑な時も多いけど。
とりあえず来週からテストなので復習を始める。
数学は数字だから、楽。社会や理科は日本語での名称を覚えなければならないから少し面倒。それに日本の歴史を学ぶ事が多いから初めて聞く事が多かった。でも小学校のときから繰り返し教えられれば覚えられた。国語は難しかった。日本人特有の言い方とか、誰かがどう考えているかとか、結構大変だった。漢字は覚えつつあるけど、日本人ですら全て書けない程に範囲は広く、奥が深い。しかし一番困るのは英語だ。小学校では英語の歌を歌ったり、簡単な英会話をするばかりで文法のことはやらなかった。だからこそ楽に過ごしていたけれど中学に入って英語の文法を勉強すると、正直チンプンカンプンだ。
「月、ここの」
「ん?」
「since most people who shout into their .……どうしたの?」
俺が聞きたかった所の英文を読み上げながら尋ねれば、月は目を丸めて俺を見下ろす。驚愕に満ちた様子に俺も読み上げるのをやめて首を傾げれば、はっと我に返ってから表情を和らげた。
「あ、いや、ずいぶん発音が良いんだな……」
「字幕で映画観てるから」
「すごいじゃないか」
純粋に褒められて、複雑な気持ちでお礼を言う。俺にとってはこっちが母語だ。褒められる程の事ではない。むしろ、日本語で月たちと暮らしていることこそが褒められた事だ。赤ん坊からやり直してなかったら、違和感が際立ち家族を戸惑わせていただろう。
月は丁寧に俺がわかるように勉強を教えてくれて、とうとう中間考査の日になった。始めが肝心だぞと言われたので意気込んだが、月の教えた所が問題に多くでるのですらすらと答えられた。相変わらず国語だけは苦手で、読むのに時間がかかってしまったけれど、結果は五十点だったので赤点にはならなかった。他の教科に至ってはほとんど九十点以上とってしまって、先生や親に褒められた。月のように頑張れと言われて、今後の成績を期待されるようになったのだ。
月が教えてくれたからあんなに点数がとれたので、今後テストの前には月に頼らなければならなくなりそうだ。これは月の陰謀か。
私の書く『兄』は大抵ブラコンです。時々気持ち悪いです。
feb-may.2014