05 漫画
俺は中学三年生になった。国語もようやく慣れつつあって、成績も上がり、母も嬉しそうにしていた。母には月と同じ高校を勧められるが、別に同じ学校なんて行きたくない。中学時代は小学校時代に比べると女子の力が弱かったけれど、月と居る事でまた弟くんだ〜とかいって可愛がられるのは御免だ。
制服を脱いだところで本棚にある本に目がいく。こんな本、あっただろうか、と思いながら一冊手に取れば、漫画本だった。俺は漫画なんてほとんど読まない。粧裕が部屋の本棚に入りきらなかったから俺の本棚に引っ越しさせたのかと思いそのまま部屋を訪ねた。
「粧裕、今平気?」
「なあに?」
部屋を開けると、ベッドに寝転がってお菓子を食べながら雑誌を読んでいた。
面倒くさがりで昼寝とかだらだらするのが好きな俺は、人の事を言えないので粧裕の格好に関してはノーコメントだ。
「これ、粧裕が置いた?」
「え〜なにこれ?」
あと十冊くらいあったよと言いながら持ってた漫画本を差し出すと、ぱらぱらと捲る。
「この小説?くんのじゃないの?」
「小説?漫画じゃなくて?」
碌に中を確認しないまま来たけれどこれは漫画だった気がする。俺がぱらぱらみても、日本語でかかれた漫画だ。
「漫画ぁ?見てみなよ!普通に小説じゃない」
「え?え?」
粧裕は漫画をぱらぱら捲る。見えていないのか。粧裕がこんな風にすっとぼけるはずないし、不思議なことが起こっているのだと瞬時に理解して、ごまかして粧裕の部屋から出た。一応念のため月の部屋を訪ねてみると、粧裕とは違って机に座って勉強していた。
「ごめん、勉強中?」
「いや、いいよ。なに?」
「月これ読める?」
人当たりのいい笑みを浮かべて、月は俺が差し出した漫画を手に取った。
「小説か?おい、いくら国語が苦手だからって僕が読んでも意味ないだろ」
嘘を着いている様子も無いし、粧裕と同じ反応だった。形だけのお礼を言って、本を持って部屋の外へ出る。おかしいな、と思いながら俺は自分の部屋の中に戻って漫画をきちんと見てみた。
表紙には鎌をもった少年がたっている。後ろには薄暗い色の化物みたいなのもいる。それからタイトルは、DEATHNOTE−デスノート−と書かれていた。下には原作と作画担当の二人の名前。どう見ても漫画だ。
すごくうろ覚えだけど、俺が最初に生きていた頃、日本の漫画でこんなのがあった気がする。英語版に翻訳されて自分の国でも売っていたのを見た事が無くもない。本当にうろ覚えだけど。
ぱら、と捲って行くと、この作品はフィクションですと書かれている。その癖、数ページ読んで行くと思いっきり実在の人物が登場した。
「夜神、月……十七歳?」
兄の月ではないか。死神とかデスノートとか、どういう事だろう。月は高校二年生で二月生まれだからまだ十六歳。この漫画の中の月はおそらく高校三年生だろう。最初はぱらぱらと捲って絵と簡単な文ばかりを読んで行く。
いきなり落ちて来たノート、デスノートの存在と、死神、それからこれから沢山の人を殺して行く物語だ。
「くん、ごはんだよー」
こんこん、とノックされるまで、漫画を読みふけっていた。
「ん、今行くよ」
粧裕の後に続いて階段を下りれば、ちょうど帰宅した父と顔を合わせる。仕事で家を不在にする事が多いから久々に会った筈だけど、たった今漫画の中で父の様子を見ていたからそんなに久しくは感じなかった。
「おかえり、おつかれさま」
「お父さんお帰りなさーい」
「あ……ああただいま、粧裕」
一言そえて労うと父は一瞬吃驚してから、笑った。真面目で少し厳しい時もあるけれど、いい人だと思う。
漫画の中でも、最後までは読んでないからまだ分からないけど、きっと苦労するんだろう。月の所為で。
夕食の席では、母が俺の成績について父に報告していた。
「、学年で二十位以内なんですって」
「えーくんすごい!粧裕は絶対むり」
「粧裕はもう少しを見習えよ。漫画ばっかり読んでないでさ」
「高校はどうするんだ?大国学園か?」
父も母も当然同じ高校に行くような顔をしている。
「んー、月が居ればテスト対策できるだろうからそうしようかなあ」
さっきまで別の学校へ行く気満々だった俺は、あの漫画を読んでいたからか、同じ高校へ行く方向になりつつある。全て読み終えていないから家族の最後を知らないけど、傍に居た方が色々出来るとは思った。
なにをするにしても。
主人公はやれば出来る子。
原作知識有りで行きたくて、ずるいけど漫画設置しました。
feb-may.2014