harujion

Last Memento

06 自慢
(粧裕視点)

「粧裕ちゃんのお兄ちゃんってカッコいいよね」
同級生の京子ちゃんと満ちゃんに言われた。お兄ちゃんって言っても二人居る。この場合、三年にいるくんのことかな。
「月さん」「先輩!」
京子ちゃんと満ちゃんは同時に二人のお兄ちゃんの名前を挙げた。ああ、どっちもか。
まあ勿論どっちも自慢のお兄様だから否定はしない。
先輩ってちょっと冷たくない?」
「月さんって優等生すぎじゃない?」
どっちも自慢なのに二人が優劣をつけようと、また同時に口を開く。
「月さんは誰にでも優しくて、本当王子さまじゃん」
白馬に乗っていても不思議じゃないよと京子ちゃんがぽやあっと上を向いた。
先輩の無口でクールな所素敵じゃん。それに粧裕にはめっちゃ優しくて、ギャップがあるよ」
あたしも優しくされたい、と満ちゃんがきゃあきゃあと叫んでいる。
確かにお兄ちゃんは愛想が良くて、勉強も運動もできるし、将来有望だし、実際女の子にもモテモテで人付き合いも上手。完璧なお兄ちゃん。時々私の事馬鹿にして来たり、からかったりするけどそれも兄らしくて良いと思う。
くんは明るく元気とはほど遠いけれど、困っている人は放っておけない優しい人だから友達も多いしファンは着々と増えて行ってる。時々普通に笑うし、甘いものが好きでクッキーとか貰うと素直に目を輝かせるし、さりげなくレディーファーストだし、うるさい事言わないし。あ、お兄ちゃん私の中でくんに負けそう。ギャップに弱い女子にとっては、くんの優しさの方が効くのかも。
「粧裕がうらやましい〜」
「そーお?あたしは断然、旱樹かな!」
「「この贅沢者!」」


「……っていう話を今日したの」
「なにそれ」
学校から帰ってくんのベッドに座って京子ちゃんと満ちゃんとした話を教えてあげた。受験生のくんの勉強の邪魔はあんまりしないようにねってお母さんに言われてるけど、今日は宿題教わりたかったから許してもらえるはず。ついでにくんも休憩中。
呆れたように首を傾げるくんに、自慢のお兄様ですーと媚を売ると頭を小突かれる。
「俺別に普通じゃない?」
「見た目の話?私と似てるらしいから、ダサいとかカッコいいとかは分からないけど」
「粧裕は可愛いよ?」
さっきはぶっきらぼうに私の頭を小突いた指先は、今度は私の乱れた前髪を優しく直す。くんはさりげなくそう言う事言うし、嫌味じゃないし、自然なんだなあ。
「粧裕に似てるなら俺も顔が良いのかもね。月にはかなわないけど」
「性格でいったら断然くんじゃない?」
「月だって優しいじゃん」
「でもなんか、くんのが大人っぽい」
「老成してるから」
ぼふ、と寝転がるとさすがにくんが、勉強しに来たんじゃないのかと嗜める。
「あ、そうそう。オーラルコミュニケーションでーす」
ベッドから起き上がり、端に置いておいたワークを掲げれば、くんは私の隣に腰掛ける。ぎし、とベッドのスプリングがなった音に混じって、涼しげな声がどこ?と尋ねるのでページを捲って英文をさす。
「We can send messages very fast.」
「もう一回言って!もう一回!」
淀みない英語が私の耳の中を通り抜ける。頭には入らなかったけれど、綺麗な発音が気持ち良い。
何言ってるのか全然わからないのを聴くのが実は好き。特にくんが喋る英語が好きで、英語は絶対くんに教えてもらうの。なんか文法とかは得意じゃなくて教えられないらしいから、あんまり実にならないんだけどね。
「粧裕、……いつもいつも、何回言わせる気?」
「だって〜」
くんがいつからこんなに英語喋れたのか知らないけど、本人曰く字幕で洋画を観てたからなんだとか。映画だけでこんな風になるなら、英会話教室なんて要らないよ。
「でもさーくん、あんまり女の子の前で英語喋らない方が良いかもね」
「何で?」
「だってカッコいいんだもん」
私の言葉に、くんは笑った。
本当に本当なんだけどなあ。

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粧裕に似た顔なので夜神家の遺伝子がアレしてソレ。
feb-may.2014