harujion

Last Memento

11 死神の目
(リューク視点)

退屈しのぎに、拾った誰かのノートを人間界に落としてみた。拾ったのは、細っこい子供。そいつは俺の姿を無感動に見上げて、一言も声をかけずに着替えたと思ったら、俺を丁重に迎えた。リンゴが美味くて身体をねじりそうになった。
表情は豊かじゃないが、無遠慮に顔を歪めたり、柔らかく笑う目元は素直で子供らしさを醸し出している。
ただし肝っ玉に関してはそんじょそこらの大人より据わっていた。たった五日で、ノートにびっしりと名前を書き込み大量殺人を犯す十五歳は初めて見た。落ち着いた言動、幼い顔、弱っちそうな体躯の内側に、とんでもない狂気を隠し持っていそうだ。

新世界の神となる、なんて言ってみせたがすぐにけろっとして冗談なのだと訂正した。数日見ていて気づいたのは、こいつは退屈をしのぐような人間じゃないことだ。面倒な事を嫌い、労力を惜しみ、のらりくらりと生きている。そういう奴はたいていノートを拾わないし、拾っても捨てるか放っておくかしてしまう。おかしい、と思いつつもその心の中にある感情は俺にも読み取れない。
もうひとつ気になるのは、こいつの名前である。
夜神だと堂々と俺に偽名を名乗った。あえて指摘はしなかったが、家族と過ごしているうちにそれが本当の名前だとすぐに分かった。しかし俺の目に映る名前は、夜神なんかではない。

「なあ、
「ん?」
キラが警察の捜査状況を知り得る立ち位置に居るとわざと醸し出し、Lもそれに気づき警察関係者の身辺調査を内密に行われ始めたその日に、切り出した。
しかしこいつの勘は良く当たる。兄の月を見張っている人が居ないか見て来てくれと、リンゴを差し出されて頷いた俺はちらっと兄貴の周りを飛び回ったが、本当につけられていた。
「どうして死神が人間の名前をノートに書くかわかるか?」
「さあ」
尾行を知っても、俺が変な質問を切り出しても、こいつの表情は大きく変化しない。死神の眼球のしくみ、取引の方法を教えても、は興味無さそうに頷いた。
こいつは話しを聞くのが下手だと思う。相槌に温度が無い。その癖人に嫌われないのだから変な奴だ。
「要らない」
「!」
「っていうか言うの遅くない?俺が損をする所を見て退屈しのぎたいんだ?リュークは」
こいつの笑った顔を見た事が無い訳ではないし、変化の幅は狭いが感情の起伏は分かるように表情をつくっている。しかし、今微笑みを浮かべているは今まで見た事も無いくらいにどす黒い。こわ。
「……そ、そういうわけじゃない」
「まあ眼球は要らないから、いいけどね」
ふい、と顔をそらす。もう他にルールは無いのかとこちらを見ずに尋ねられて、多分だけど無いと答える。
「ああでも、ひとつ……お前の名前に関してだ」
「俺の名前?」
って知ってるか?」
今まで無いくらいにの目が見開かれ、ゆっくり立ち上がった。珍しく動揺しているのが面白くて、俺はにやりと笑う。
その様子じゃ知ってるな、と呟くと、の薄い唇が震えた。
「それが、俺を殺せる名前だね」
「そうだ」
震えを隠すように、は唇を噛んだ。
「お前、養子か?」
「いや、正真正銘日本人で、夜神総一郎と幸子から生まれたよ」
は正真正銘、夜神という人物だが本当の名前は。戸籍や身分証明書を見せても絶対に出てこない名前だろう。しかし、いつどこでその名前がついたのか、俺にも検討が着かない。俺が分かるのはただ本当の名前だということだけだ。

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一番最初の名前です。ややこしくてすみません。
feb-may.2014