15 監視
年末年始も泊まり込み調査をしている父のために、粧裕が着替えを持って行くよう母に頼まれた。初詣に行く約束のある粧裕は渋り、月が行こうかと腰を上げる前に俺が声をかけた。面倒くさがりの俺の行動にぎょっとされるけど、本屋に行こうと思っていた事を告げれば納得される。俺は面倒くさがりでも、自分のしたい事はするので出不精ではない。
紙袋を持って警察庁へ向かいながら、念のため父に電話をするも留守番電話サービスにつながり、父とコンタクトを取る事は不可能だ。おそらくLと会っているのだろう。
受付へ行くと、二人いる職員のうち一人は黒髪のロングヘアーの女性の相手をしていた。レザージャケットやパンツ、ブーツや手袋まで全て黒い。この人が南空ナオミだろうと思いながら顔を見る。
俺は南空ナオミの推理がどこまで進んでいるのかも本名も聞き出す必要は無いので、受付の人と軽いやりとりをして警察庁から出た。月は受付の二人の前で彼女とやりとりをしていたけど、もし万が一目撃証言が入ったら一発でばれるのに、よくやる奴だ。まあ、仕方の無い状況だったけれど。
監視カメラのない所まできて、南空ナオミの名前をデスノートに書く。
南空ナオミ、自殺。
受付で情報を言わずに、また改めて来ると言い残し、人に迷惑がかからぬ様自分の考えられる最大限の遺体の発見のされない自殺の仕方だけを考え行動し、四十八時間以内に実行し死亡。
書き終えてすぐに警察庁の出入り口が見える所まで戻れば、前から南空ナオミが歩いて来た。まっすぐとした、けれどどこか焦点が合っていない眼差しで俺を目にとめる事無くすれ違った。
罪悪感は無いけれど、空しさはあった。
南空ナオミが死んだ後、Lは夜神家と北村家に監視カメラを取り付ける筈だ。
俺はバイトをしていないけれど、高校に入ってからは小遣いも増えた。お菓子を買うのも家族や月が買ってくれる事が多いので、今手持ちの金額は少なくない。このときの為に取っておいたと言っても良いくらいだ。
南空ナオミを見送った足で電気屋へ向かい、一番安いワンセグテレビを買った。ニュースのチャンネルにして、音量をオフにしてから俺のチョコスナックの中に仕込み、テープでデスノートの切れ端を貼る。小さい鉛筆まで入れてから、リビングの戸棚に仕舞った。
「くんお菓子かったの?」
「安売りしてた。粧裕食べちゃやだよ?」
「はいはーい」
開封済みなのが分からないように奥の下の方へしまい、後ろから覗き込む粧裕に牽制した。
あとは部屋の小物や俺の手持ちの雑貨にノートの切れ端を忍ばせるだけだ。
一月八日、学校から帰宅する前にスーパーに寄ってリンゴを買う。後ろのリュークがうきうきと、その一番赤いやつ、それじゃねえ、そっちの奥の奴が美味そう!と口を出してくる。
リュークが選んだリンゴを購入し、人気のない公園に入ってリンゴをあげると嬉しそうにガツガツほおばった。
「なんで急にリンゴ買ってくれたんだ?」
いつもは部屋で食べているから、外で食べさせるのは初めてだ。リュークは首を傾げながら俺に尋ねる。
「今日から家の中に監視カメラが着く」
「!」
「リュークがリンゴを食べている所は、多分傍から見てるとあやしい」
「なるほどな。空中でいきなりリンゴが減って行くからな」
「それから、家の中では会話は出来ない」
「……まてよ、それじゃあ俺はリンゴを家で食えないってことか?」
「そうなるね」
ぼうっと遠くを見つめながら、リュークに返事をする。
食べられないと禁断症状が出るとか、ああだこうだ言うリュークに早く家で食べたいならカメラの位置確認しておいてねと笑顔で言い放った。
俺の清々しく笑った顔をみて、リュークはひくりと口元を引きつらせた。似合わねえ、と言われてもそれは俺が一番わかってる。愛想笑いが似合わないって結構酷いことだな。下手くそ、ということだろうか。
「お帰り」
「月、帰ってたんだ」
「ああ、一緒にならなかったな」
家の中に入ると、月が階段を上っている最中で顔をひょっこりと出していた。同じ学校で、部活に入っていない為帰りが一緒になる事は多いが、さすがに毎日一緒に帰っている訳でもないし、今日は俺が寄り道をしてきたから、こんなことも珍しい訳ではない。とん、とん、と月を追う様に階段を上りながら、二言三言のやり取りをする。
部屋のドアの下部分に紙を挟んで、誰かが部屋に入ったのか確認する月を見下ろして、つい何やってんのと声をかける。
「特に意味はないけどやってみたくなって」
「あそう」
「はやりたくならない?」
「さあ。俺は月みたいに、部屋の本棚にグラビア雑誌隠してないしなあ」
「!!!」
「図星?」
ぐっと押し黙り、怒りやら羞恥やらでぐるぐるしている兄を見るのがちょっと楽しかった。監視カメラにこのやり取りは写っているだろうけど、俺がこんな風に兄をからかう人間だと思われても何の不都合も無い。
「粧裕に見つかったら騒がれるから気をつけなよね」
なでなで、と軽く頭を撫でて部屋に逃げる。
「いい性格してるよな、本当」
リュークと月が俺の背中にそう呟いた。
人の事を平気でからかう奴。たとえカメラで視られていようとだ!
feb-may.2014