20 監禁
レムが海砂のノートを持って来た。
「海砂を解放する為に、レムも手伝ってくれる?」
「ああ、海砂の為ならな」
海砂に入れこんでいるレムを使えるのは便利だ。
ヨツバキラを作らなければならないので、必ず報道されて行く犯罪者を裁く事を条件に応じる、ある程度地位があって出世欲が強く、その為にノートを使うであろう人間に渡すよう、レムに言う。そして、ノートの譲渡を繰り返し、レムとリュークの憑くノートを変えた。
そして、リュークには嘘のルールを追加させる。
「海砂がそのキラに近づくことになるかもしれないが……絶対にレムは手助けをしたら駄目だよ。それをすると、キラの計画が狂うんだ」
必ず海砂の命は助けるからと、真剣にレムに告げた。
ばさばさ、と飛んで行ったレムを見送り、リュークはこれからどうするのかと俺に尋ねる。
「月が警察に出頭してくれると嬉しいのになあ」
「犯人じゃないのにか?」
「んー」
何も自分がキラかもしれないと言い出す必要は無い。
そもそもキラじゃない月はそんなことは絶対に言わないし。
やっぱり登場人物が増えるとほころびが出来る。そもそも主役が不在なのだから、いつこんな風になってもおかしくなかった。ふう、とゆっくりと深いため息を吐いた。
しかし俺は今、月と一緒に事情聴取へ向かっていた。
月がキラとして疑われている事はLや父、本人からも聞かされているし、海砂とも会ってしまっている俺は月の次に怪しいのだ。
まだまだこんな序の口の段階で自分がキラだと認めるつもりは無いから、しらばっくれる気はあるのだが、如何せん俺はLや月に匹敵するほどの知恵は無い。
「こんにちはくん月くんお久しぶりです」
「どうも」
「やあ竜崎」
まさか本部にまで足を踏み入れることになるとは思わなかった。
「くん、大きくなったね」
「どちらさま?」
松田がにこにこしながら声をかけてくる。名前は知ってるけど、会った事あっただろうか。家に連れて来たって月も粧裕も知っているような描写があったけど、俺の記憶には無い。
「あ、ああ……忘れられてる?」
「うちに来た事ある人?」
「うん!」
思い出してくれたのかい!と嬉しそうにしてるけど、記憶には無い。はあ、と曖昧な返事をしていると、松田よりも先輩と思われる相沢が松田を嗜めた。
「仲良くお話しに来てもらってる訳じゃないんだぞ」
「あ〜すいませーん」
ぽやぽやしてるなあ、この人。
「では別々に個室で」
Lはまず月を別室へ案内して行き、俺は父たちの前に残された。
「何か飲むか」
「貰おうかな」
適当にソファに座り、くつろいでいると父が声をかけてきた。自分で淹れようと立ち上がれば、松田が僕が淹れますよと手を挙げてくれたので俺はまたソファに座る。うちのソファも中々良いソファだけどこういう高級ホテルのソファはまた違う。足をゆったりと組み、松田が淹れてくれたコーヒーの香りを堪能する。
「くんクッキー食べるかい?」
「いただきます」
おやつまでもらえたのでありがたく受け取る。
ぴりっと封を破って中のバタークッキーを食べた。
俺が緊張してると思っているのか、それとも細い身体を心配してるのか、父と松田は俺に更なるお菓子をいくつか寄越して来る。
まともなのは相沢だけか、と思ってちらりと見ればルームサービスのメニュー表を俺に渡して来た。美味しいそうなケーキの写真にきらりと目を輝かせてお礼を言うと、決まったら電話してやるからと優しい事を言われた。俺はそんなに小さい子供ではないのだけど、これはもしかしていきなり可愛がられているのだろうか。
暫くしてやってきたルームサービスのケーキを食べている途中で、Lだけが部屋を出て来た。
「餌付けされてますね」
「月は?」
Lのコメントは無視して、Lの後ろのドアを見るがそこが開く気配はない。
「月くんには牢に入ってもらいました」
「ええ?」
思わず眉をしかめる。何でいきなり月が牢に入ることになっているんだろう。そもそもノートを持っていない純粋な月ならそこまでしない。Lだって自分から言う様子はなかった。でも、原作通りになってる。この世界はなるべく原作に沿おうとしているのかもしれない。それはそれで好都合だけど、もしかして俺も閉じ込められるのだろうか。
「月、それ了承したの?」
「はい、しました」
了承した、ということは自分から言ったのではないのだろう。捜査協力として、暫く監禁されることをよしとしたのかも知れない。
Lは月が映るモニタを見る。警察関係者の人たちはこれを分かっていたのか、苦い顔をした。
「信じられない……」
Lは犯罪者を捕まえるから、一見正義かと思いきや結構えげつない事をする。そう言えば探偵というだけで別に人の為に動くとかではなかった。
「父さん、いいの?こんなの」
過労で倒れたのに、こんなストレスを与えられて本当に可哀相。
俺がノートを手に入れた時点ですでに父さんの寿命は短くなったはずだ。銃撃を防げても、きっと身体はぼろぼろになっているだろう。
俺の視線が咎めるような色を含んでいたからか、父は捜査本部から外してくれと願い出た。
辞職だけは考えるなとLは言うけど、もう話している内容が高度すぎて俺にはついていけない。本で読んだ通りなんだろうと思って聞き流しながら、ケーキの残りをもぐもぐと食べた。
図太いな、とリュークが後ろで言うので鬱陶しい。いつの間にか父は自分も監禁してくれと言い出し、それを読んでいたとLはそそくさと父を監禁した。もうやだここ。
その後Lがじいっと俺を見てくる。俺の性格上、自分も監禁してくれなんて言い出す事は無いとLなら読んでくれてると思ってたんだけど。
「帰って良い?」
クリームがついたフォークをぺろりと舐めてから、Lに尋ねる。松田や相沢がざわっとなる。監禁を望むと思っていたのか、それとも用も聞かずに帰って良いか聞いた俺の面倒くさがりっぷりに動揺したのか、はたまた呆れたのか。
「だめです。そう言うと思ってました」
「あそう」
「ほら、コマ一つ空いてますよ」
監視モニタが四つに分かれているからと言って無理に俺で埋めようとするな。
「俺は月や父さんみたいに精神力ないんで」
はあ、とため息を吐く。
Lが食べてる生ハムメロン美味しそうだな。生ハム避けてるけど、食べないのかな。
「そうですか?此処に居る誰より強そうですけど」
「ねえ、生ハム食べて良い?」
「……どうぞ」
辛い状況から逃げるのはいつも死だった。耐え抜いて耐え抜いて勝利を手にしたことはない。死が待っているレールの上を歩くのは得意だけれど、光に向かって一歩一歩進む人生は送ってこなかった。
生ハムのはんなりとした柔らかさ、冷たさ、瑞々しさを舌で甘受する。ああ、美味しい。
まあ今の人生も死に向かって歩いて行っているようなものだから、そう考えると監禁なんてどうって事無いかもしれないけど、嫌なもんは嫌だ。
おう、一コマ空いてるやんけって漫画読みながら思ったけど、入らない。
feb-may.2014