harujion

Last Memento

23 開放

月が監禁されてから二週間ほど経って、再び犯罪者が殺され始めた。レムはちゃんと火口にノートを渡せたのだろう。火口である確信はないけれどおそらく大丈夫だ。

粧裕と一緒にスナック菓子を食べながら犯罪者が殺されるニュースを見た。キラだとは気づかれていないようだが、企業の社長や重役などが事故死した報道もされているので順調だということは分かる。
「なんか……日本の死亡率とかって高そうだよね」
「でも犯罪率は低いだろうね」
粧裕はうへえ、と眉を顰めながらテレビから目を離して俺を見る。
俺の答えに納得して、流河旱樹がゲスト出演しているバラエティ番組が始まるからとチャンネルと変えた。
キラとしてする事がなく、ノートも特に触る必要のない生活はとても平和だった。リュークとマリカーしたり、粧裕の勉強を見たり、友達と遊びに行ったりしていると、また普通の子供に戻ったような気分だ。マリカーの相手は死神なのでちょっとおかしいけれど。
そうして、月が監禁されて一ヶ月以上が経ったある日、俺の携帯電話に父から電話がかかって来た。電話口の相手は父ではなく竜崎と名乗る男、Lだった。
「明日、月くんが監禁から解かれる予定です」
「へー。で?」
「会いに来てください」
「え、面倒くさ……」
俺も大概、人の話を聞かないし勝手に行動するけど、Lも勝手に押し進めるのでホテルの場所と部屋の番号を言われて電話を切られてしまった。行かなくたって怪しまれたり怒られたりすることはないけど、父の体調も心配なので見に行く事にした。

解放された月にぎゅうぎゅうと抱きしめられる。一ヶ月以上も監視をされたまま過ごした月を労ってやろうと思い背中をぽんぽんと叩くと予想以上に感動された。早く風呂に入って来いとシャワー室へ蹴り入れ、海砂にもおつかれさまと声をかけた。
最後に一番疲れていて、一番心配な父に向き合う。
「大丈夫?父さん……あんまり無理はしないって約束したのに」
「すまん。……だが居ても立ってもいられなくて」
「感情的なんだから」
呆れ半分に笑いながら父の背中をさする。父はキラのお陰でずいぶん白髪が増えた。それにやつれたし、皺も増えたし。一気に老けてしまったと実感する。
「で、俺に何か用があったのでは?」
ただ単に父や月に会いに来いと言う訳がないことくらい分かっているので、指をくわえて俺たちを見ていたLに目をやる。
「いえ、月くんが監禁された途端殺人が止まったので、それを知るものが嵌めたのではという事になりました。すると、容疑者はくんになります」
「俺がキラだったら月が解放されるまで殺人しないけど?」
月が監禁されて二週間で殺人は再開されている。
「はい、そうなりますね。でもくんのことは少し気になります」
「キラかもしれないって?」
俺は眉を顰めた。今の所まだLの中でのキラは幼稚で傲慢でわがままな子供のままの筈なんだけど、まさか俺もそれに当てはまるような性格だろうか。
「りゅ、竜崎、月くんの次はくんまで……!局長の事も考えてくださいよ!」
松田さんは慌ててLを咎める。
「いえ、キラとして疑っているとまではまだいきませんが」
Lの言葉に、一同がほっとする。気になるということは疑われ始めたのかとも思ったが、どういう事だか俺にはさっぱりわからない。
疑っているとまでは、まだ、いかない。と言ったのも引っかかる。
じいっと俺を見つめるので俺も見つめ返す。
目が大きい。肌が白い。唇の色も悪いし、白目は青白く、目の下の隈も酷い。髪の毛もぼさぼさで猫背だから余計に不健康でだらしなく見える。
くんの思考があまり読めません」
顔のパーツを観察していると、唇がおもむろに動いた。溜めてから発言した内容がこれか。
「何回かしか会った事の無い人に読まれる程単純ではないつもりだけど」
「そうですね。くんは単純ではありません。複雑な思考をしています」
あなたのことがわかりませんと言われても、俺にだって俺のことは全部わからない。俺はこういう奴だって示す言葉も定義もなく、俺はただの夜神だ。面倒くさがりだけど自分のしたいことはするし、昔より甘い物が好きになった。怖い人には怯えるし、頭の良い人は純粋に尊敬するし、馬鹿な奴は笑える。長年生きていると考えている事が変わる、というよりも積み重なって色々な事に発展する。多少の事では腹を立てない、でも、我慢強い訳でもなく、短気でもない。自分という人間を現すのにこんなに言葉を借りても語り尽くせない。
「皆そうでしょ、実際に付き合ってみないと分からない」
「はい」
デスノートを持った月は自分がノートを持っていない演技をしていたけれど、本当にノートを持っていない純粋の月はまた違う。だからLもキラではないとそのうち月を判断するだろう。いや、もしかしたらもうそう判断しているかもしれない。
Lは最初は月をキラだと疑っていたが接触して行くうちにキラではないのではないかと思い始めたのだ。そして監禁したが、最初のうちは殺人が止んだのでやはりキラかと疑う、けれど月の言ってることはおかしくはないし、キラの殺人が再開されても月は知らないままだった。だからわからないのだろう。
「私とお友達になってください」
「は?」
くんのことが知りたいです」
月にも友達になりましょうみたいな事を言っていたが、それと同じことなのだろうか。Lの発言に俺も、周りの皆もぎょっと驚く。リュークも微妙な顔をしているので、変な想像をしているんだろう。
友達になるのを了承した訳ではないが、Lが今後俺にコンタクトをとり俺を知って行こうとすることになったので、シャワーから戻って来た月が認めないと駄々をこねる。
「なんでくんとお友達になるのに月くんの許可が必要なんですか」
「結婚する訳でもないのに」
「け、結婚?、お前はまだ十六歳なんだぞ」
「たとえ話だってば」
月の頭をチョップした。
「月くんは本当に時々気持ち悪くなりますね」
「これが無ければ良い人なんだけど」
月がブラコンを暴走させて、捜査本部の皆が引いた顔をしていた。特に松田さんなんかは月の気持ち悪さに驚いているだろう。ただの爽やかな好青年だと信じていたのだから。
「相変わらずの愛されっぷりだなあ、
俺の背後でリュークはクククっと笑っていた。

next



時々リューク忘れそうになるんですよね。あと月のブラコン度合いをぎゅんぎゅんさせてしまう
feb-may.2014