harujion

Last Memento

24 隠れ蓑
(L視点)

キラは夜神月だと確信していた。人物像、環境、性格から何まで、全てキラと合致していたからである。
以前自分から監禁を提案していたが、疑っている本人からの提案は受け入れないと答えると納得していた。だから、今度は私から監禁を提案した。しかし、彼は自分がキラではないのだからそんなことをしても意味がないと撥ね除けた。
意見が変わる事もあるし、自分から言い出した時の監禁は、半分は冗談で言っていたのだろう。
弥は急に頭がおかしくなったように関係ない事ばかり言い続け、捜査が難航していた。夜神月には、キラを捕まえるための協力としてなんとか牢に入ってもらう事になったのだ。
毎日毎日、夜神月は早く出せと言い続けた。キラは自覚無しに殺人なんか行っていない、自分は殺人を行っていない故に自分はキラではない。確固たる意志を持って言っていた。とても演技だとは思えない。
誰かに嵌められている、と夜神月は言ったが、殺人が再開された時、本当にその通りかもしれないと考えた。キラが、夜神月を疑うようにしむけているのだ。
夜神月を監禁したことを知っているのはこの本部の者以外では夜神のみ。それは夜神月が連絡をとれない状態になると怪しむ可能性があるからである。夜神月は表面上にはあまりださないが、弟の夜神を溺愛していた。たとえ父の夜神総一郎と不仲になって連絡を取れないようにしておくと言い訳をしても弟にだけは連絡をするだろうと、私は考えた。夜神も兄に充分好かれていることは分かって居り、長期で連絡が来なくなれば違和感を感じる筈だ。夜神月がキラとして疑われていることも知っていたのだから、監禁する事実を秘匿しても意味が無いだろうと言う結論に至った。
つまり、夜神がキラだったら、夜神月が監禁されるのを知って、殺人を止めたかもしれない。
夜神月の性格を分析し、隠れ蓑にしている可能性が出て来た。
だが、夜神月が解放される前に殺人は再開された。夜神ではないのか、と首を傾げざるをえない。そもそも、夜神であるという確率は限りなく低い。性格が分かりにくいが、夜神は犯罪者を……いや、そもそも人を、殺すような人物ではない。善人だというわけではなく、彼は無関心、無干渉なのだ。
夜神をもっと知る必要があると思って、友達になりましょう、と空々しい提案をした。

まだ疑ってはいるので夜神月とは手錠でつながったまま数日が過ぎた。やる気が無いだろうと指摘をされ、自分の考えをぼんやりと吐露した。
「警察関係者の月くんをキラが操り、その月くんを疑う様にしむけていたのだったら、私だって悔しい……正直ショックです」
「その考えで行くと、操られていたが僕と海砂はキラだったってことか?」
「そうですね。ですがふりかもしれないというケースも出てきました」
「僕のふり?」
「はい。月くんが監禁されて二週間までは月くんがキラであるというふりをしていた。そしてその後からはもう月くんのふりを辞めた。そう考えることもできます」
しかしそれは極論である。監禁して二週間は本当に夜神月がキラだったが、第二のキラのビデオにも能力を分けるという言葉があったとおり、その能力は人をわたって行き夜神月がキラではなくなったということも考えられた。
「このどちらかです」
「面白い考えだが、キラがそんな事を出来るとしたら捕まえるのは容易じゃないな」
だから参っているのだ。
やる気を出せと言われても、あまり頑張らない方が良いという結論に至った私を、夜神月は殴った。私は、推理が外れたというよりも夜神月がキラで弥海砂が第二のキラでは事件は解決しないと思いガックリきたのだ。夜神月に、自分がキラじゃないと気が済まないという言い方だと指摘されて肯定すると、再び殴られる。私の諦めに対して熱くなるというところはやはりキラではないように思えた。しかし、何らかの形で能力を分け、自分はしらばっくれている可能性はゼロではない。
どんな理由にせよ痛い思いをしたのでやり返していたら乱闘になるが、途中でかかって来た電話により中断した。その電話の内容が松田からの、弥の映画デビューのニュースだったのでしらける。
いつものボケだと電話を切ったすぐ後に、また受話器が鳴ったので仕方なくもう一度でる。また松田。私のうんざりした顔は見えているので、開口一番に今度はちゃんとした報告ですと前置きがついた。
くんが来ましたよ』
「はい、ではここに来てもらってください」
今度は普通に受話器を置いた。もう一度夜神月が何だったんだと尋ねるので夜神の来訪を告げると、嬉しそうに表情を明るめた。
の分のケーキを出そう」
「私もおかわりを」
「お前食べ過ぎじゃないか」
「頭を使っているので食べ過ぎじゃありません」
いそいそと夜神の来る準備を始める夜神月に続きケーキの追加をする。


「殴り合いしたんだって?」
暫くして、夜神はやってきた。
、ケーキ食べないのか?」
ソファに座って紅茶を飲んでいる夜神は一向にケーキに手をつけない。夜神月が訝しげに尋ねた。うん、と頷いた夜神に、私も夜神月も少し驚いた。甘いものが好きで、唯一彼の表情が自然と優しくなる食べ物がケーキであり、出されて断ったことは一度も無い。
「体調悪いんですか?」
「や、ここに来る前に丁度ケーキ食べたからもういらない」
捜査本部に来ると大抵お菓子を出されて嬉しそうに食べている夜神が、ここに来る前にケーキを食べたというのも珍しい。私は首を傾げる。
「お財布拾ったらお礼に一割って言われたんだけど、断ったらお茶しようっていわれて」
「おい、それナンパじゃないか」
がば、と身を乗り出す夜神月。確かにそれはナンパになり得る。どうしても一割渡す必要はないのだ。そうでなければ相当助かったのか、とても親切だったのか。
「どんな方だったんですか?」
「三十歳くらいの男の人で、高そうな財布とスーツだった。ヨツバにつとめてるんだって」
かちゃん、とティーカップを置く音が響く。
夜神月ははあと深く長いため息を吐いて頭を抱えた。きっとモニタを見ている夜神総一郎も頭を抱えているに違いない。
「えーくんそれってエンコーじゃん」
「お財布のお礼でしょ?」
弥と夜神が頭の軽いやりとりをする。
「まさか携帯番号教えてとか言われてないよね?」
「言われたけど」
「教えちゃ駄目だよ?」
「駄目なの?」
今日分かったことは、夜神の危機管理能力が低いこと。夜神月は小さい頃からこれだと肩をすくめる。今まで危険な目には遭っていないそうだが言いよられたり、ふらふらついて行こうとした事はあるようだ。その度に夜神月が阻止していたらしい。
くんそれヤバいって、ちょー狙われてるじゃん」
「相手に不自由してなさそうな顔だったけど」
くんが好みだったんだよきっと。男の子にしては可愛い顔してるし」
「じゃあ粧裕が危ない……俺に似てるし俺より可愛い」
「今危ないのはくんだってば!」
弥海砂のほうがマシだとは思わなかった。夜神は馬鹿なのか。
学力では夜神月程とまでは行かないが、優秀だと聞く。勿論弥海砂よりも断然知性もあるが、彼はいかんせん鈍い。見ていて分かってはいたが、夜神は世話を焼かれる体質をしているようで、兄はもちろんの事、この捜査本部でも非常に可愛がられている。好意を向けられ慣れ、受けることに抵抗のない性格をしているため、まるで野良猫。ある意味したたかである。
くんって恋人いますか?」
「いないけど」
まともな恋愛経験は無いだろうと思い、尋ねてみるとけろりとした顔で答えられる。
「では今までは?」
「居たこともあるよ」
「意外です」
夜神月は知らなかったと横で騒いでいるが無視をした。
「それ以上は月や父さんの前では言いたくないから」
家族に恋愛事情を赤裸々に語れる程図太くはないとすっぱり言われて、これ以上は聞く事ができなかった。確かに弥海砂などに頬を赤らめる程露骨ではないが女性の扱いには慣れている様子も窺える。ただ彼が誰かを選ぶということが、少し意外だった。
「言っておくけど、男と付き合った事はおろか、告白だってされたことないから」
牽制するようにそう告げて、夜神は紅茶を飲み干した。

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人間的に好かれるのですね。大丈夫、HOMOはIFでしかやりませんし基本的に主人公は応えてくれなさそうです
feb-may.2014