harujion

Last Memento

26 体質

高校二年の夏休み、俺は半ば強制的に友達になったLに会いに行くため、都内をぶらぶらと歩いていた。あまり行きたくないというのが本音である。
俺が近づけば近づく程、Lと月に俺が犯人だとバレる恐れがある。どうせなら関わらないままで居た方が良かった。けれど、登場人物たちに関わるのは前世から受け継ぐ俺の体質か定めのようだ。

スクランブル交差点で財布を落とした人を追いかけて、人混みをかき分けてようやく捕まえたとき、俺を見下ろした人物を見て驚く事は無かった。
ヨツバキラは火口であって、キラにはあまり関わってはこない人物ではあったけど、実際にLや月と関わっている人物だ。
整った顔に長い髪は特徴的だし、絵でしか見ていなくても分かる。この人は奈南川だ。
財布の礼にと一割渡そうとしてきたが、つくづく日本のしきたりは変だと思う。義務でもないのに、何故わざわざ一割渡す必要があるんだろう。金が欲しかったら現金だけを抜いて財布は捨てるのに。
いらない、と答えると気が済まないと言われる。こんな良心的な人物だっただろうか、と漫画の中でだけで描かれた奈南川の人格を分析するけれど、そんな人物には思えない。ケチとは言わないけれど、わざわざ財布を届けた男子高校生に金を渡したがる筈は無いのだ。
おそらく俺に関わる運命になっているのだと、心の中で嘆息する。
拒否して去れば良い所だが、冷たいジュースと美味しいケーキを付けると言った目の前の人物の顔を二秒だけ見つめた。
Lに会いに行って、意図の読めない会話をするよりも、比較的無害だと思われる初対面のこの人とケーキを食べていた方がマシだ。リュークは早くLたちの所に行きたいようで、ケーキならあっちで食えるだろうと騒がしかった。

奈南川も俺を野良猫かなにかと勘違いしてるのか、ケーキを食べている俺を微笑ましげに眺めた。
「俺が食べてる所、みんな嬉しいみたいで」
「?」
「よく食べ物貰う」
「なるほど」
頷く奈南川と、確かになと笑うリューク。
猫可愛がり、という言葉が当てはまるかもしれない。
魅力的な顔立ちをしているわけでも、話をして楽しいユーモラスな面があるわけでもない。月の弟だし、粧裕に似ているのでそこそこ女受けは良いが、あくまで中の上くらいだ。愛想もないし、人の話を聞いていても大した興味がわかなくて相槌はへたくそだから良い気分で話している所をへし折る節もある。
それをある方面からみる人にしたら、味なのだと思う。勝手にふらふらして、話を真面目に聞いてなくても、何かしてても、許したくなってしまう。
奈南川には、遠回しに俺を可愛がろうとしてると警告を与えたつもりだったけれど、もう手遅れらしい。美味しいご飯を食べさせてあげるという誘いに俺は容易く乗った。
まあ、ヨツバのことを知れるなら悪くもないか、なんて思いもあった。

携帯電話のアドレスと番号を交換し、その日は別れた。時間はあまりつぶれなかったけれど、足を安め身体を冷やしたことにより、気分は少し良い。
Lの居る捜査本部へ着くころにはやっぱりまた汗をかいたけれど、エントランスは冷房が効いていたのですぐに汗が引く。
エレベーターに乗る前に金属類を全て出してチェックされ、ようやくエレベーターに乗り込む。一度本部のある部屋へ行きインターホンを押すと松田が開けてくれる。その部屋には松田以外には父と相沢。会いに来た……正確には呼び出した……人物が居ない。
「今すごい蹴って殴っての喧嘩してたんだよ、でもくんが来るって言ったから止めたみたいだね」
「そうですか」
ああ、あの場面か、と呆れた顔したまま返事をする。それから、ミサミサの映画デビューが決まりました!と喜んで報告してくる松田にため息を吐いた。
「松田さんって空気読めてないよねえ」
Lにはボケ、月には天然と言われたのであろう松田はうっと固まって、松田の後ろいいた父と相沢は苦笑いした。
海砂の部屋へ行けばぐちゃぐちゃになっている。手錠で繋がれているLと月は隣に座っているので、俺は海砂の隣に座る。ケーキと紅茶を出されたけれど、さっきケーキを食べたばかりだから今は要らない。いくら甘いものが好きと言えど、日にいくつも食べられる胃袋はしていないのだ。しかし俺がケーキを食べて来た事を知らない皆は首を傾げる。仕方なく奢ってもらった事を報告すれば、月のお説教が始まった。知らない人には着いて行くな、必要以上に声をかけるな、なるべく目を合わせるな、とまで言い放つ。まあ、初対面の人とカフェに入って連絡先を交換するのは充分危なっかしい行為だとは思っているけど、俺にとっては知ってる人だったんだから良いのだ。よって、月のお説教は無視して話しかけてくる海砂に答える。援助交際じゃんって心配されるけど、別にやらしいことはしていないし、俺が女子高校生だったならまだしも、ただの男子高校生だ。相手にそっちのケがあるのかもと余計な心配をされるけど、そうなったあかつきにはぶん殴って逃げるくらいの度胸と力は持ち合わせている。
くんって恋人いますか?」
「いないけど」
またLの唐突な質問が始まった。いないと答えると、やっぱり……みたいな顔をされるのがちょっと不愉快である。
必要じゃないというのが本音だ。 「では今までは?」
「居たこともあるよ」
「意外です」
一応、れっきとした男なわけで、過去数人と付き合って来たし、経験もそこそこある。ちなみに夜神としても一度だけ女の子と付き合ったことがある。中学三年生のときに同じ委員会に入っていたとなりのクラスの子だ。告白されて断ったけれど一ヶ月付き合って無理なら振ってと言われたので一ヶ月付き合った。可愛いと思っていたし、好きだけど、ドキドキしないしこれ以上進みたいという気にはならずに別れた。
リュークはお前彼女いたのかよと冷静に驚いていた。俺に彼女が居なさそうだと思っていたのかと後で問いつめれば、興味が無さそうだという答えが返って来てなるほどと思った。
いちいち家族には教えていないので、月の説教内容が俺の恋人関係にシフトチェンジしているが、その部屋のBGMという事にした。
世間話にせよ、俺の危機管理能力を考えているにせよ、これ以上家族の前で恋愛遍歴を語る気はない。
「言っておくけど、男と付き合った事はおろか、告白だってされたことないから」
ぐび、と紅茶を飲み干した。
俺に世話を焼くのは大抵兄や友人たちだったので周りを囲っていた男は多かったけれど、女性に可愛がられた事も、告白された事もちゃんとある。
不名誉な疑いをかけられるのが嫌なのできっぱりとLに告げればそうですかとただ頷いた。

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おにいちゃんがうるさいので彼女の事は内緒だが、粧裕は彼女のこと知ってた。
feb-may.2014