29 計画
(月視点)
海砂を使っての捜査は、父と僕の強い説得の末とりやめになった。海砂にも今後はタレントとしてしか接触しないように約束をさせる。海砂もちゃんと同意したが、ヨツバ社員の方が接触を試みようとしてくる。三人程がプライベートな誘いをかけて来て、その中でも一番しつこいのは火口という男だ。海砂には僕と竜崎で考えた内容を返信させ、上手く断りつつも今後もメールを送ってこられる程度に留める。
「ぜーったい火口がキラだよ!だって一番しつこいし、キラのことが好きかって聞いて来たのもこいつだけだし」
ウエディの家宅捜索では奈南川、三堂、火口の家のセキュリティーは普通ではない上に、火口は電波を遮断した地下室を最近作っていた。それでもウエディは侵入ができたようだが。
セキュリティーを高度にすることは一般的に見れば防犯であり、地位と権力のある者にとっては当然のことでもあった。だが、キラのいると思われる七人の中で見ると、火口が一番キラに近いのだ。
それに、海砂へのメールも、単なる下心だけとは考えにくい。海砂が第二のキラなのか確かめたくて仕方がないように思えた。
そんな話をしている中、がやって来た。学校が始まってからは週に一度くらい、がこの本部にくる。竜崎と友達になるためと言われているが、探られている気がして僕は気が気じゃない。がキラなんて絶対にありえないし、竜崎もほとんど疑ってはいないと言っていたが彼は嘘つきだから本心はわからないのだ。
本来なら捜査内容は外部に漏らさないのだが、には竜崎が時折状況を説明する。素直なの反応を竜崎は見ているのだ。
今回も、松田さんがヨツバに見つかって死亡した様に見せかけた話や、火口が海砂に執心である話をすれば、乾いた笑いがかえって来た。
「じゃ、松田さんはこの先一生テレビや雑誌なんかに写らないようにしないといけないわけだ」
「え!ど、どうしよう!外を歩けない」
松田さんの言葉に動揺して狼狽える。
「いや、キラは必ず捕まえる。そうすれば松田さんは殺されないよ」
確かに死んだ筈の松田さんがうっかり生中継なんかにうつってしまったのをキラに見られてしまえば、折角死んだふりをしたのも水の泡である。
竜崎はじっくりとの顔を見ながら発言を咀嚼していた。
「奈南川さんって疑われてないんだよね?」
は黙っている竜崎に、首を傾げて尋ねた。の雇い主は、幸か不幸か殺しの会議に参加している奈南川なのである。
「彼はキラではありません。心配ですか?」
「疑われてるなら晴らしてあげようかと」
「出来るんですか?」
「奈南川さんちのセキュリティー、俺解除できるから」
のその言葉にそこに居た全員が息を止めた。
「自由にして良いって、パスコードとかカードキーとか全部貰ってるし」
「そこまでたらしこんでたんですね」
「たらしこむとは失礼な」
「くんは諜報活動に向いていると思います」
ウエディとアイバーに弟子入りしたらどうですかとまで言う竜崎に、未成年に犯罪を勧めるなと嗜める。
「キラだったらこんなことしないでしょってね。余計なお世話だったみたい」
確かに奈南川がキラだったとしたら、がただの高校生とはいえ家中を自由に行動させるとは思えない。はそれっきり奈南川の話題は出さなかった。
竜崎はじっと黙ってから、僕に殺した事を覚えているかと問う。僕がキラだったと前提し、キラの力を分け与えたのは夜神月の意志か、他人が夜神月に力を与えておいてギリギリになって他へ写したのか。
じっと考える。僕がキラだったら、自分の意志だろう。
「その前提なら夜神月の意志だ」
「そうですよね……与えたり移せたりする人間がいるなら、あのタイミングで他に移るなんてあり得ない」
ティーカップを持ち上げたまま飲もうとせずに竜崎は推理を続けた。は相変わらず我関せずでおやつを食べているが、普通であるはずの光景がいまこの空間では異常に思える。確かにには関係ない話だが、お前はもう少し空気を読めと言いたい。
裏で操る存在なんて、この本部にそいつが居ない限り、天からでも一部始終を見られたくらいの存在になる。そんな事ができるなら今こうして僕たちが話している事もそいつには筒抜けだ。竜崎も同じ結論であり、そんな者は捕まえようが無いし、そうだとしたらとっくに竜崎は殺されているか永遠に掌の上で遊ばれ続けるかだと言った。
「でも、くんになら出来ますね」
「ん」
もぐ、と口の中に何かが入っている状態で、表情一つかえずには竜崎を見返す。
「言っただろう、あのタイミングになるのはおかしいと。僕がキラだったのなら僕の意志で能力を分け与えた」
自分がキラであることを考えたくはないが、弟を疑われるのは良い気がしない。は相変わらず動じないけど、何か言って欲しい。
「———できなくはないね。月が監禁されたことも知ってるし、この中で一番ヨツバと深いつながりがある」
唇の端についた食べかすをぺろりと舐めとってから、は冷静に発言した。
「俺が月をキラに仕立てあげるなら、そのくらいするかな」
「冷静ですね」
「月だって自分がキラだと考えて発言してるじゃん」
俺と月、どっちがキラだと思う?と竜崎に純粋に問いかける。
「今キラなのは火口です」
つまり保留というわけだ。
「二人のお陰で99%すっきりしました」
今の会話でどうすっきりできたのかわからないが。
竜崎は僕たちから視線を外し、少し俯く。まず、ヨツバのキラを捕まえる事が先決だ。父がさくらテレビで全てを暴露すると言っていた手段、それからの松田さんがテレビに出ていたら大変な事になるという発言、それが使えると竜崎は言った。さくらテレビじゃ誰も信用しないからこそ、無関係な民衆と関係している人物が分かれる。
キラは多くて二人、と考えていたがおそらく火口一人だろう。証拠という証拠はないが、第二のキラについて海砂に聞いた事、や地下室を作った事をふまえると一番怪しい。
ウエディに、火口の車六台全てにカメラと発信器と盗聴器をつけてもらい、テレビ番組の用意にかかった。
海砂は動かないからちょっと無理あったでしょうか……。
feb-may.2014<