30 密談
今日も今日とて元気に労働。学校とLとヨツバに囲われる生活もなかなかハードだ。頭を使うのって本当に疲れる。甘いものが食べたい。
仕事終わりにケーキが食べたいと奈南川に強請れば、送るついでにケーキ屋さんに寄ってもらえる。最近の頭の使い方からして、今日は二個食べれるなと思い二つ買ってもらうが、もっと買わなくていいのかと問われて家族の分も買ってもらう事にした。
「母と粧裕が喜ぶ。ありがとう」
「父と兄は食べないのか?」
「兄は家出中で父は仕事で帰って来ない」
「そうか」
兄は家出中、という言葉には一瞬困ったような顔をしたけれど、ある程度年端の行った男性なのでそう心配はないと思っただろう。
わくわくしながら車に乗り込むと、奈南川の携帯に電話がかかって来た。三堂?と呼んでいるから、あの三堂だ。社内で見かけた事も、話をしたこともある。
「、これから三堂の家に寄ってもいいか」
「仕事のことじゃないの?」
「知っておいてくれたほうが良い」
それってキラのことだろ、俺巻き込むってことだろ、つまり俺をヨツバに引き入れる気が満々で逃げられないパターンということか。いや、入社しないから、俺は絶対。
車の中でキラについての話をされる。カメラがついていようと、どうせLにはバレていると思って気にしていないようだ。いや、カメラはついてないはずだけど。
そして三堂の家について出迎えられる。
「おい、何故秘書まで連れて来たんだ」
「秘書だからだ」
「こんばんは」
一人で来いとは言わずとも、気づくだろうといった顔の三堂。礼儀正しくぺこりと頭を下げると、苦い顔をするので全て話は聞いたと俺も苦い顔で言う。三堂はぎょっと目をむいて奈南川を見た。
「高校生まで巻き込むのはどうなんだ、奈南川」
「は優秀だ。ヨツバ社員になったときの為にも知っておいた方が良いだろう」
就職先決まって良かったじゃねーかとリュークが笑う。嫌だ。絶対、社員にはならない。
三堂に案内された応接間には、すでに紙村もいた。三堂と同様のやりとりをして、奈南川の隣の席に座る。
「夜神、君の父親はたしか元警察庁刑事局局長の夜神総一郎だったね」
「元?」
俺が首を傾げる。三堂は一応俺の素性を調べたらしい。
「知らないのか?今はもう籍を置いていないが」
「家に帰って来ないから知りませんでした」
元刑事局局長の息子だということで、紙村が一瞬たじろぐ。
「以前はキラの捜査をしていたんじゃないのか?」
奈南川も俺に尋ねる。
捜査内容までは知らないということにしているのでぼんやりと答えた。
「多分。でも捜査内容は極秘だし、警察もキラから手を引いたから」
あ、だから辞めたんだ、と小さな声で呟く。つまり俺の父が今もキラを追っていることは明白。三堂と紙村はごくりと唾を飲んだ。
「の身辺調査は後にしよう。今日呼び出した理由は?」
いや、疑わしいのだからまず明らかにすべきだと思うけど。
奈南川は自分で話を一度広げておいて、すぐに本題を促した。紙村がキラにはついていけないと三堂に泣きついたらしい。キラは火口だろうな、なんて話が繰り広げられているなか、俺は奈南川が買ってくれたケーキを黙々と食べていた。上司の前であり秘書という立場だけど、俺、別にアルバイトですから。これ時間外労働だから。
ピピピピピ、と携帯電話がなる。俺のすぐ隣から聞こえたこの音は、奈南川の携帯電話だ。おそらく月がLを装って電話して来たのだろう。
奈南川は顔色一つ変えずに電話に出た。
怪しむ紙村の言葉により、この電話はLからだと暴露した。瞬間、三堂と紙村が驚愕して動きを止める。
「L、ここに三堂と紙村と私の秘書がいるが、キラとは思えないし腹を立てている口だ。何を言われても、私の様にLとキラの決着を見守るだろう」
電話口の声は聞こえないが、その後奈南川が、秘書の名前も知っていたのかと呟く。多分Lというか月が俺のことを聞いたのだろう。余計な事を言うなとどちら共に言いたい。
Lにかまをかけて得意げに笑う奈南川の足をつねりたくて仕方が無いけど、フォークをかじるだけでとどめた。電話を切った奈南川は、ふうと息を吐いてから口を開く。
「やはり火口だそうだ。今夜多分捕まる」
「何で夜神の事まで言ったんだ?会議には参加していないのに」
俺の代わりに三堂がツッコミを入れてくれたが、紙村が、報いを受けなくてはなと言うので奈南川はそちらに返した。別にもうLには目を付けられているし、そもそも奈南川たちと関わった時点で俺は変な位置に居るのでもうどうでも良い。
三堂と紙村と奈南川の四人で、さくらテレビを観ることになった。何が楽しくてやらせ番組をおじさんたちと見なければならないのだろう、と遠い目をする。番組は結局キラのことは発表せずにおわった。ということは、火口はテレビ局へ行き、そこから逃げただろう。そして、月とLに捕まるのだ。
共犯にされてる……着々と巻き込まれてる……。
feb-may.2014