harujion

Last Memento

35 ワイミーズハウス

Lのお願いはウィンチェスターのとある養護施設に行って、ロジャーという男性にLが喋るノートパソコンを渡して来ること。ワタリに行かせればいいのではと思ったが、バイト代を出すというので引き受けた。
面倒なので顔も隠さず、ワイミーズハウスを訪ねた。ワタリから連絡が行っていたのかロジャーはすぐに俺に会ってくれた。
「君がLの代理の子だね?」
「はい」
「メロとニアを呼んで来るから待っていてくれ」
そう言うとロジャーは立ち上がって部屋から出て行く。Lに渡されたパソコンにはLのロゴが表示されていて、既に通信は始まっている。Lは、何か言ってくる様子は無い。

メロとニアらしき少年を連れたロジャーが部屋に入って来た。俺は、二人に会うことになるとは知らなかった。ノートパソコンを渡し、Lの言葉を届けて帰ってくれば良いとだけ聞いていたのだ。
ロジャーのデスクにノートパソコンを置いて部屋を出て行こうとすると、ロジャーに引き止められる。
「君もここへ居るようにと」
ロジャーはあらかじめ、俺にも話を聞かせるようにと承っていたのだろう。仕方無く、メロの隣に立つ。だれ?という顔をされるけどとりあえず無言でいた。

「私は二度、キラに負けました」
Lがようやく喋り出した。負けたと言う事に、ニアはぴくりと身体を震わせたのをぼんやりと見つめた。メロの方はつかみかかりそうな動きを見せたがぐっと堪える。
ニアは一呼吸置いて、パズルをひっくり返して全て崩した。知っていたけどそのパズルには図はなく、全て真っ白だ。
「一年の間を置いて、キラはまた現れた———私はもう一度捜査をします。そして、二人にも捜査をしていただきたい」
ニアとメロはパソコンの画面を見つめた。
「キラを捕まえた方が、次のL?」
ぽつりとメロが呟く。
「いえ、キラは私が捕まえます」
ですが、テストだと思ってくださいとLは言った。口を変なふうに歪めて笑っている顔を思い出す。
「キラが捕まった後、次のLを決めます」
つまり、どれだけ活躍できるかにかかっていると言う事だろう。
「今までの捜査内容は、彼に聞いてください」
Lが言う彼は、おそらく俺だ。二人はぐるりと首をまわして俺を見上げる。捜査内容と言っても、肝心の殺しの手口やルールなんかも知らない。俺に聞くだけ無駄だと思う。まあ、一般市民や警察関係者にコンタクトとる前に俺に話を聞いて、次の段階は自力でってことなのだろう。
もしくはLが、俺が知る筈の無い事を漏らすのを待っているのか、ってところだ。
むやみに喋らないでおこう、と心の中でLの意思に反することを考えた。
それきり、Lは話は終わったとばかりに通信を切ってしまったので、メロとニアは俺をじいいいっと見つめた。

ロジャーはいつの間にか部屋を去ったので、俺はニアのようにぺたりと地面に座る。さっさと説明して帰ろう。
「キラは、人の顔と名前だけで人が殺せるらしい。あ、でも顔を見れば殺せるのもいたかな。あと心臓麻痺以外でも殺せる。一回火口って男が捕まったんだけど、二週間後に死んだ。なんでだかは知らないけど……それで一年間殺人は行われなくて、最近行われた。これが俺の知ってる捜査内容」
言っていて、捜査内容とは言えない内容な気がしてきたが引き返せない。
月や海砂が捕まったことを言い忘れたので付け加えた。
「火口の前に一回二人くらい捕まったけど殺人は終わらなくて、火口が捕まったから解放された」
うん、これで全部だ、と頭の中を整理しながら答える。充分整理できてない内容だけど、俺にそんな配慮は出来ない。順序よく人に話して聞かせるのは苦手だ。
メロがもにょ、と口を動かした。この二人は頭が良いだけあって、俺の能力の低さに呆れているのかもしれない。
「大変分かりづらい説明をどうも」
だって俺捜査に参加してないし。このくらい知ってるだけでも充分だろう。
ニアは漫画で読んだ通り辛口で社交性の無い人だった。別にそのくらいで腹は立てないけど、月がキラだったら充分殺意芽生えていたレベルの生意気さ。
「火口が死んだのに解放したのか?」
メロが首を傾げる。短気で乱暴者なイメージはあったけど、社交性もあるし子供たちと上手くやっているメロはそれなりに素直だ。
月が監禁から解放されたのは火口が捕まって、なおかつ十三日のルールで身の潔白を証明したからなのだけど、それを俺は知っている立場ではないのでちょっと考えてから、潔く答えた。
「知らない」
メロとニアは目配せをした。案外仲良しなのかな、いや、俺が駄目すぎて呆れてるんだ。
「火口が捕まったからじゃないの?」
「でも火口は死んでます」
「うん」
ニア先生とメロ先生に何故か教えられる立場になる。
「Lが捕まえた時点でほぼ決まりです。それに、そうやすやすと解放するとは思えません」
「はあ」
「火口という男が確実にキラとしての何かを持ち、二人がキラではない証拠を提示したのだと思います」
「その何かが何なのか聞いてるんだよ」
二人は俺をじとっと見た。
「俺、一緒に捜査してた訳じゃないから」
「じゃあなんで捜査内容をちょっとでも知っているんだよ?」
「……Lの……友達?だから?」
了承はしてないけど、友達になろうと言われて色々話をしていた間柄だから、そろそろ友達と認める事にした。でも一応疑問系。
「Lが時々捜査の話をして俺がそれに思った事を言う感じで」
「捜査内容をLが?何故ですか」
ニアはじろりと俺を見る。そんなの俺だって知りたい。
「参考にはしてないって言われてたけど」
「わけがわからない」
メロとニアは心なしぐったりする。
俺に会わせたことによって、二人の捜査が進展しなさそうな気さえしてきた。まあ、俺がキラなのだから、俺という存在を認識させた事は間違いではないけれど、顔を見させる程のことをするLの気持ちがわからない。
「で、捕まえられた奴らってのは誰なんだ?今どうしてんだよ。キラ復活したんだからまた疑うべきだろ」
「知らない」
俺が知らないと言ったのは、今どうしているのかを知らないと言う事だ。監禁されていたのは兄と兄に言いよっていた女性だということは知っているが、身内がキラと疑われていたことを俺が喜んで話す訳が無い。
使えないなこいつって顔に書いてあるメロ。書いてないけど多分思ってるニア。俺はニアがいつのまにか完成間近にまで仕上げていたパズルをじいっと見つめた。
「綺麗だね、真っ白なパズル」
よくみると、左上にLという文字があるけれど。
「絵が無いのに作れるなんてすごい」
素直に感想を言って、ふわふわな頭をわしわしと撫でた。迷惑そうな顔で頭を動かして離れたので、今度はさらさらなメロの頭を撫でた。
「甘い匂いがする。チョコレートだ」
チョコレートの香りがするメロもすぐに俺の手から逃れてしまった。
俺はすくっと立ち上がり、ノートパソコンを鞄の中に入れた。二人は座ったまま俺の行動を見ている。
「ではさようなら」
「え!帰るのか?」
メロがぎょっとする。ニアも声は出さないけど目を見開いていた。
ウィンチェスターは片道二時間かかるし、明日は一限から授業をとってるので早めに帰って準備がしたい。あらかた捜査内容を説明したからもう良いかと勝手に諦めて帰る気満々である。
「頑張ってね」
手をひらひらと振って部屋を出た。Lから頼まれた事はこなしたし、俺はちゃんと協力したし、大丈夫だろう。二人も、俺の言葉が全くと言って良い程参考にならないこともわかったと思うし。
別に二人を殺すつもりないのに、なぜ顔を見る運がめぐってくるんだろう。メロなんて月は顔を見ないまま終わってるのに、俺は恵まれすぎていると思う。いや、恵まれすぎて動きづらいけれど。
「もう帰んのか?」
「うん」
ワイミーズハウスの玄関から出て門に向かって歩いているとリュークが笑って尋ねる。何も言わない関係で居たかった。嘘をつくのも口閉ざすのも苦手ではないけど、難しい事を考えて行動するのは、正直面倒なのだ。

ゆらゆらと電車に揺られて、二回乗り換えて、最後の電車に乗った。ガラスをぼんやりと見ていると、一瞬だけ人の顔が見えた。あ、と思ったけどなるべく動かないようにつとめ、ばれないようにちらりと見る。メロが乗ってる。
「リュークのケチ」
このくらい教えてくれればいいのに、と小さく呟いた。リュークは気づいたかと笑う。月には尾行の事教えてあげたのに、何で俺には教えてくれないんだ。俺がFBIの尾行に気づいたから教えなかったのか、意地悪していたのかは謎だ。
しかしすごい行動力だ。いくら俺がだらだら歩いていたとはいえ、短時間で俺を追う事を決めてお金を持って出て来たんだろう。尾行だって、窓に映らなければ分からなかった。まあ、窓なんて一番注意しなければならない所だから大失敗だけど。
こっそりとため息を吐く。

地元駅で電車を降りて、改札を出て暫く歩く。人通りの少ない道を歩いて、角を曲がってすぐに壁に寄りかかる。そろりとメロが顔を出した途端に近距離で目を合わせれば、吃驚して後ずさった。
「お金足りたの」
「うん」
いつから気づいていたのか、なんでついて来たのか、なんて野暮な話はしない。
「帰りの分はあるの?」
「戻らない……僕はあそこを出て来た」
メロが養護施設を出て行くのはLが死んでニアと協力して捜査は出来ないからだった。どちらにせよ施設を出る年齢は超えていたようだ。
Lの情報が入ってくるのはあの施設が一番早いからいたのだろう。そして、今日施設を出て行くことにしたというわけだ。
「行動力があるのはすごいけど……身一つでどうするの」
「あんたんとこ居る」
はあ、とため息を吐くしか無い。断っても強引に押し掛けてきそうだし、騒がれても迷惑だし、いざとなったら施設に送り返そう。
リュークも当分家でリンゴが食べれないけど、尾行を教えてくれなかった罰だ。
「僕はニアに負けたくないんだ!ずっと二番だった!絶対にキラを捕まえて次のLになりたい!」
ぎゅうう、と力強く俺のシャツを握るメロの頭をこつんと小突く。
「住む所決まるまでだよ」
ふう、とため息を吐いて家に向かって歩く。メロが笑って頷いたのを背後に感じた。
「お人好しだな」
リュークの言葉が聞こえたが返事はしなかった。

next


主人公はお人好しっていうか、拒否するの面倒だしどうせ長居しないだろうと思ってます。
feb-may.2014