37 ニア
(ニア視点)
私たちの尊敬するLに二度も負かしたキラ。興味が沸いたし、キラを必ず捕まえたいと思った。
Lが私たちにコンタクトをとるとき、ワタリかロジャーを通せば済む話だった。けれど、この時は見知らぬ少年がやって来た。メロと同じくらいの年頃。
Lは彼から事件の情報を得ても良いと言った。彼が話す内容はある程度事件に関係はあれど、捜査をしていくのに重要な点は知らない様で全く役に立たない。本人もそれを分かっているようだし、Lの言い放った言葉に少し驚いていた。
会話をするのと、説明をするのでは、話し方が変わるものだ。会話は自分の言いたい事を言えば良いのだが、説明は相手に理解をさせることが重要であって、順を追わねばならない。彼にはそれが苦手らしく、一言で言うとへたくそな説明だった。
愛想はないようだが、人当たりが悪いというほどの態度ではない。しかし表情が変わりづらいようで感情は窺えない。私が素直に分かりづらいと言っても、瞬きをしただけで、反論も怒りもない。本当にどうとも思っていないタイプだ。
分かりづらい説明を頭の中で要約すると、Lは容疑者を二人"くらい"あげていて、一度"捕えている"。そして火口という男がその後キラと断定され捕えられた。どうしてキラと断定されたのか、そしてどのように死んだのか、容疑者の解放はどのタイミングなのか、彼の説明が本当にわかりにくすぎる。火口が、己はキラであり容疑者二名"程"は全くの無関係であると証明できなければ、あのLが解放するとは思えない。
疑問が湧き出てくるのは私だけではない。メロも彼に、何故容疑者が解放されたのかと詰め寄る。
「俺、一緒に捜査してた訳じゃないから」
彼は事件の内容を知らなさすぎると思っていたが、その逆だ。知りすぎている。
どう見ても捜査官ではなく、彼本人も捜査していないと言う。話を聞けば、あのL自らが彼に捜査内容を語り意見を言わせていたと言う。どういうことだか全く分からない。彼との今までの会話を思い出してみても、良い案や鋭い事を言うとは思えない。
ようやく彼本人に少し目を向ける。説明や報告に慣れていないあたりは一般人、東洋人の年齢は図りにくいがおそらく十代後半から二十代前半、しかし非常に落ち着いており些細なことでは動じない精神力はありそうだ。優秀ではないが頭が悪い訳ではない、しかし、メロや私の話にはあまりついてきていないようにも感じる。
「参考にはしてないって言われてたけど」
Lが彼を傍に置く理由が全くわからない。理解できない。何故だろう。
「わけがわからない」
思わず呟くと、彼も苦笑した。
「で、捕まえられた奴らってのは誰なんだ?今どうしてんだよ。キラ復活したんだからまた疑うべきだろ」
「知らない」
話を戻そうと思ったのかメロがいっぺんに尋ねるが、帰って来た答えは一つ。全てを知らないということか?ああ、駄目だ、一つずつ聞いて行かないとこの人はちゃんと答えてくれない。もしかしてLはヒントと同時に私たちに試練を与えたのかもしれない。
『馬鹿』よりも『厄介』という言葉を彼に贈呈する。しかし悪口を言いたいくらいに厄介なのでやっぱり彼は馬鹿。
その馬鹿はじいっと私のパズルを見て、綺麗だねと話をそらした。そらしたというよりも、自分勝手なのだ。一応形だけ礼を言う。あなたがするべき話はそれではない。しかし、これ以上聞いても碌な事を言わないような気がする。
「絵が無いのに作れるなんてすごい」
馬鹿に正直をつけくわえて馬鹿正直。
彼は自分がどれほど使えない奴だと扱われても腹を立てる事無く、純粋に人を褒める人物。メロとはまったく正反対。そして私ほど乾いておらず、優しさや暖かみも持っている。私の頭を撫で、逃げればメロの頭を撫でる。
「甘い匂いがする。チョコレートだ」
そして、目だけで笑った。
結局メロにも逃げられているが、そんなことは気にしていないらしい。好きな様に動いて、好きな様に生きている。人を掴んで引っ張らないわりには、人を振り回すのが上手。
「ではさようなら」
彼は持って来たノートパソコンを撤収し、あっさりと帰り支度を済ませた。それには思わず私も驚く。
頑張って、と覇気のない声で労って部屋から出て行った。一応貴重な情報源だったのに、まんまと見送ってしまった。
しかし行動力のあるメロはすぐに彼を追いかけた。あとで聞いた話だが、そのまま孤児院を出て行ってしまったらしい。私よりも先に、私よりも多く情報を得ようとしているのだろう。
私は行動力がないので、名も知らぬ彼を見つける事は現段階では無理なので自分一人で調べるしかない。まあ、彼もある程度の情報はくれたのでここから先は良いだろうと諦めた。
ニアは心の中でも口を開いても酷い
feb-may.2014