harujion

Last Memento

40 兄弟妹
(月視点)

キラが再び現れてから、半年程経ったが捜査に進展はない。僕はほとんど捜査には参加していないが、推理力を買われているのでキラの動きは見せてもらっている。竜崎とも顔を合わせていたのだが、つい先日から突然留守にすると言って捜査本部をあけた。理由も用事も言って行かなかった為、僕らが詮索しても意味の無いことだと思っていた。
しかしとのテレビ電話により、竜崎がと接触していることが判明した。
「だから、竜崎にお使いを頼まれたんだって」
「なんでそっちにいるんだ?」
「俺に会いに来たんじゃないの」
画面の向こうでお菓子を食べながら、は目を伏せたまま喋る。カメラ目線ではなく画面の僕の顔を見ているということだろう。
「お使いって?」
「……言って良いのかなあ?」
「やめておく。竜崎が帰って来た時に、必要であれば言うだろう」
「ん。粧裕は?」
納得したように頷いて、は首を傾げて僕の後ろを見る。僕の部屋なので粧裕が見えることはないが、姿を探しているようだ。
「粧裕はお風呂」
「月はもう入ったの?」
「いや」
「じゃあ粧裕が出たら一回交換してね」
イギリスは昼過ぎで、日本ではもう夜だ。は相変わらず粧裕を可愛がっているので、そう言いたい気持ちは分かるが、いつまでたっても僕を当然の様にないがしろにする。慣れているが傷ついていない訳じゃないんだぞ。
「粧裕が出たらな」
「うん」
文句を飲み込んで、に良い格好をする。満足げに目だけで笑う、この顔が見たいが為だ。
「最近どうだ?」
「普通だよ」
「女性に言い寄られたりはしていないか?」
「うちの大学、女の人少ないし」
「じゃあ男に言い寄られたり」
「ないない」
ぶんぶん、と手を振るはあっけからんとしているが、自分が女顔だと言う事をはそろそろ自覚しても良いと思う。粧裕に似ていることは分かっているのだろうけど、海外で男の多い大学に居るという時点で少し危険度が高いことまでは考えていない。
もともと人に好かれやすいタイプなのに警戒心が無さすぎる。
「気をつけて「お兄ちゃんお風呂〜、あ!くん」
「粧裕っ」
粧裕が僕に知らせに来た瞬間、の嬉しそうな声がパソコンから聞こえる。モニタにはふんわり笑うが居た。
「月、粧裕と変わって」
しっしっと手で追い払われて、僕は着替えを持って粧裕に席を明け渡した。

風呂から上がって部屋に戻ると、粧裕はにこにこしながらと会話を続けていた。昔から僕たちは仲の良いきょうだいだったが、の粧裕への可愛がりっぷりはまるで祖父と孫だ。普段クールなが粧裕の前では百倍甘ったるくなるので僕はそのギャップをいつも目の当たりにして来た。僕にもは甘い所があるが、粧裕と比べると月とスッポンと言っても良い。
「戻ったぞ、粧裕、変われ」
「え!早っ!髪濡れてんじゃん……!」
「ちょっと……十分しか経ってないんだけど」
ぽん、と粧裕の肩に手を置くと、生乾きのしっとりとした髪の毛が手に触れる。と同じ髪質だ。
粧裕もも、不平を漏らす。そもそもに連絡をするって言ったのは僕で、この部屋もパソコンも僕のものだ。
「もっとくんと話したい!」
「粧裕は明日も学校だろう?」
「お兄ちゃんもじゃんっ」
「僕は三限からだから、朝はゆっくりなんだ」
「大学生だからってずるい!」
「月、粧裕、うるさい。近所迷惑」
小競り合いをしていると、がわざわざカメラ目線で僕たちを嗜めた。
「粧裕、今度休みの日に話そう。今日はもう寝な」
「え〜くんまでブラコンになっちゃったの?」
「粧裕が夜更かしして明日の朝起きられなくても、俺は粧裕を起こせないんだよ」
は粧裕に優しく喋りかけ、先ほど僕を追い払っていた手を、優しく振って見送った。
「相変わらず粧裕には甘いな」
「そう?」
ギィ、と椅子を軋ませて座りながら、少し拗ねたことをいうとは苦笑した。
「今日は月を優先したのに。粧裕や竜崎よりも」
結局僕は、こんな言葉と、ほんの小さな笑みだけで、絆されてしまうのだ。

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粧裕はあと一年くらいしたらおしとやかになる。
feb-may.2014