harujion

Last Memento

41 低温
(メロ視点)

ベッドは小さな一人用のものだけ。狭い一人暮らしの一室にソファなんて洒落た家具は無い。そうなると必然的に床で眠る事になる。もちろん家主がベッドで、居候の僕が床。ヒーターが効いているので夜でも寒くはないが、薄い布団は少しだけ心もとなかった。
夜中までユーに質問を投げかけ続け、キラの情報を頑張って引き出したが、彼は途中で返事をしなくなった。眠っているのか、疲れたから無視しているのかのどちらかだけど、僕は確かめずに諦めた。
次の日の朝早くから、けたたましいアラーム音に安眠を妨害され気分が悪かった。思い切り不機嫌な顔で毛布から顔を出して一番に見えたのは、生気のないユーの顔。アラームの鳴る携帯電話をピッと止めて、身体を起こしたはいいがぼんやりと動けないでいる。
「—————、……」
深く深く息を吐いたが、苛立ちを含んでるようにさえ聞こえる。朝は機嫌が悪くなる性質なのかもしれないが、昨日ニアや僕に対して一切そういう感情を見せなかっただけに驚いた。
目を開けた僕を見下ろして、数秒、間をあける。しぱしぱと瞬きをしているが、僕は瞬きも出来ずに固まった。
「はよ」
聞き取れないくらいぼそりと挨拶を零し、僕を跨いでユーは洗面所の方へ行き、シャワーを浴び始めた音がする。僕は勝手にユーが寝ていたベッドに潜り込み二度寝を決め込んだ。仄かに香る人の匂いと、石鹸の香りに包まれて浅い眠りに落ちる。途中で匂いは食事の香りに変わった。
「ーーロ、メロ……起きて」
わしわしと頭を掻き混ぜられて、目を覚ました。
細い指が僕の頭の地肌を揉む。爪がかすかにひっかかった。
「ご飯食べて、出かける準備して」
「あー……」
もぞりと起き上がって、そういえば勝手にベッドを使っていた事を思い出したが、互いに何も言わなかった。
トーストにハム、簡単なサラダとコーヒーがテーブルに二人分用意されている。きっぱり拒否をしたり、突き放したりするわりに、さりげなく寝かせてくれたり、食事を用意していたりする。冷たいんだか優しいんだかわからない奴だ。
そして寝起きのあの恐ろしいほどの無表情は、僕が昨日夜中まで質問攻めをした所為なのだと、ちくりとさされた。
「早く住む所決めておいで。なにも一緒に住んでいないと情報聞けない訳じゃないんだから」
ドアの前でちょっと悪びれた僕の頭を撫で、おまけにぽんぽんと叩いて笑ったユーは鍵を閉めてアパートから出て行った。
僕は夕方十八時まで家に入れないので、ぶらりと外へ出かけるしかない。尾行しようかとも思ったが、それよりもホテルをとるために、ユーの行方はたどらなかった。いつまでも床で寝ていたら身体が凝り固まってしまう。
自分の口座からいくらか金を下ろし、ある程度の荷物を買いそろえてホテルをとった。パソコンも設置して、情報収集や金稼ぎもできるようにする。一眠りしようと思った頃には時計は十八時を示していたのでユーのアパートへ戻った。今日からはユーの言った通りホテルを拠点にしてユーの所へ通おうと思っている。部屋のドアをノックするとすぐに開けられて、ユーの家の匂いがして、暖かい空気に髪の毛が少しだけ揺れる。
「遅かったね」
「ああ、色々準備してたから」
「そう……ご飯もうすぐ出来るよ」
「んー」
部屋に着くなり、眠気が襲って来る。確かに睡眠時間は少なかったが徹夜なんてよくしていたのに、何故か今日は眠い。疲れが溜まっている訳ではなくて、ただ、この部屋の空気が僕をそうさせている。
ユーの静かで柔らかな声と、料理中の音と、部屋の匂い。全てが、僕を襲うのだ。
料理を手伝わされるのは面倒なので質問はせずに大人しく、またしても勝手にベッドに寝転がれば、僕の意識はベッドに沈んでしまった。

ぼんやりと目を開ければ部屋は明るい。電気ではなく、日の光だ。
「朝か……、!」
視界がクリアになったと思ったら、黒い後頭部が目に入る。かなりの至近距離で、一緒のベッドに入っていることを瞬時に理解して身体を起こした。
ユーが眠っているのを見下ろす。
確かに僕は勝手にベッドを借りて眠っていたが、まさか一緒に眠るとは思わなかった。
僕は太ってないし、ユーなんか女みたいに細いが、さすがにこのベッドは小さい。目覚めたときの距離からして、僕とユーはかなり密着して眠っていたのだと思う。疲労や倦怠感はないのに、朝から気力をそがれて、ぐったりしながらユーを跨いでベッドを降りた。折角ホテルをとったのにユーの部屋に泊まってしまった。そして腹も減ったしシャワーも浴びてないから気分はあまり良くない。
勝手にシャワーを借りて部屋に戻れば、ユーは朝食をとっていた。
「おはよ」
「おはよう……シャワーかりた」
「うん」
僕が何をやっても嫌がる様子は無い。無関心なのではなく、心が広いのだと思う。本当に無関心だったら、僕の分までコーヒーを淹れたりしないし、角砂糖の入ったポットも棚から出してはくれない。
「ありがとう」
「昨日、床で寝たの辛かったみたいだね」
「……まあ。悪かったな」
「うん」
僕の謝罪にこくりと頷いて、携帯のワンセグに目線を戻した。ニュースでは犯罪の報道がされている。
一昨日の晩は、火口がどうやってキラと突き止めたのか聞いた。
第二のキラと噂をされていた人物に頻繁にコンタクトをとろうとしたらしい。馬鹿な奴だと感想を述べればユーもまあねと同意していた。そして、火口達の目の前で死んだ筈の男がテレビに出て、狼狽え暴走した所を押さえたという。その場に居なかったから詳細は分からないというが、とにかくそんな話を大まかに聞いた。
キラは報道された犯罪者を殺していたという話をその時に一緒にしていたので、僕はニュースを見てふと思い出し、口を開いた。
「今のキラは報道されても殺してないんだろう?」
「え、そーなの?」
「知らないのかよ」
思い切り呆れた。何故そんな事も知らないんだろう。
「や、気にしてなかったし」
「はあ……馬鹿だよな、あんた」
「賢くないのは知ってる」
ユーは気分を害した様子も無く、カンパーニュにかぶりついた。
「俺は捜査はしてないんだよ。見学してるだけだって」
「僕と立ち位置を変わって欲しいくらいだ……」
思わず頭を抱えた。僕がユーの見て聞いたもの全てを知れたら、もっと有益な捜査ができたのに。
「俺はメロとは変わりたくないから嫌だな」
……そう言う事言ってるんじゃない。

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メロ、調子を狂わせられる。メロ飼いたいな。
feb-may.2014