42 帰国
メロはホテルをとってしばらく俺の所に通っていたけれど、あらかた情報を引き出し終えるとぱったりと来なくなった。最後の日、また明日来るとか、来週来るとか予告をしないで出て行ったから、そうだろうと思っていた。
Lは結局一回会うのをすっぽかしたらコンタクトをとってこなくなった。キラの捜査で忙しいのだと思う。
そんなこんなで、また俺は平穏な日々が戻って来た。念のためカメラや盗聴器が着いていないか、心配だからりんごは無しだなとリュークに零せば、快く調べてもらえて安全を確認した。その日りんごパイをつくったら、また頼むと言われたので俺もまたよろしくと笑った。
月は大学を卒業したあと警察官になる為にまた色々やらなければならないらしく忙しそうにしている。キラは相変わらず殺人を続けているので、戦争は減り、犯罪率も下がったと言う。良い傾向にあるけれど、月のやったようにアメリカまでも屈服させようなんて思ってはいないので、とりあえずただただ罪を犯した人間を殺し続けた。だが、何年やっても、あらたな犯罪者は出る。この時点でなぜ月は、犯罪者殺しは無駄だと気づかなかったのだろう。人間は罪を犯す生き物なのだ。
ボールペンを唇の下で数回ノックして、目を瞑った。
俺がイギリスに来て、四年が経った。つまり、大学も卒業である。本当だったらイギリスで就職して労働ビザで滞在を続けたいが、今回は好きに生きられる人生ではないと口を結んだ。
滞り無く論文を仕上げて発表を終え、単位も間に合っているので卒業許可が降りた。日本に帰る前に、リュークがロンドンへ行きたいとはしゃぐので一緒に行って、家族へのお土産も購入して帰国した。
空港には母と粧裕と兄が来ていて、俺は手厚い歓迎を受ける。月は四年前よりも凛々しく男らしく成長していたし、粧裕も少女から女性に変わっていて美人になった。家族からすれば、十センチ身長が伸びている俺の方が変化は大きいらしくて驚かれたけど。
「父さんは?」
「捜査で、今日はまだ帰れないって」
寂しいと拗ねるわけではないが姿の見えない父の事を尋ねれば、粧裕が苦笑いして答える。まだキラの調査をしているのかは知らないけど、おそらく続けているだろう。
「ちゃんと休めてる?」
「僕が居た頃よりは休めてるよ」
月は俺のショルダーバッグを持ちながら、おどけてみせた。
「月は?あんまり首つっこんでない?」
「おいおい、僕だって刑事になる身だぞ」
詳しくは知らないけど、月はまだ刑事というくくりではないらしい。二三回説明されたことがあるけど理解できなかったし、なったらなったと言われれば納得するので覚えるつもりも無い。こつん、と頭を小突かれて、相変わらず平和な家族と一緒に空港から自宅へ向かった。
「久しぶりの部屋だな、」
部屋に着けば懐かしい家具がそのままで、掃除もされているみたいで綺麗にしてあった。窓から見る景色は、小さな頃から見ていた懐かしい景色で、こちらも自分のホームなのだと実感する。俺よりもリュークの方が楽しそうに部屋をあちこち見て回っているので、放っておいてお土産を出して部屋を出た。
母と粧裕にはロンドンの雑貨と免税店で買ったハンドクリーム、男連中にわざわざプレゼントを選ぶのは面倒だったので家族で食べれるようなお菓子などをお土産にした。
「は相変わらず僕への配慮が足りない」
「俺が帰って来たのに他に何が必要なの、月は」
お土産を強請っている訳ではないけど、ないがしろにされたと感じた月は言いがかりをつけて来る。
頭をぐしゃぐしゃにしてやれば、月は笑った。
「そうだな、がこれから家に居るのが最高のお土産だ」
「なんかニートみたいでやだなあ……」
「夏休みだと思えば良いじゃないか」
俺と月のやりとりをみて、粧裕はくすくすと笑っていた。
「そーだ、粧裕まだ夏休みでしょ?一緒に遊びに行こうよ」
「うん、行きたい」
この歳になって兄と出かけるなんて恥ずかしい、と言われなくて良かったと、心のすみでほっとしながら、粧裕の隣へ座りデートの約束をとりつけた。
警察の事情ちょっとわからないので見逃してください。
feb-may.2014