45 弾丸
今のキラが、少し俺に似ているとLが言った時、結構な衝撃を受けた。そして、やっとか、と長年の疲労とともにため息を吐いた。しかしその場ですぐに言うつもりはないし、Lも証拠は掴んでいないはずだ。これはようやく始まっただけの話だ。
テストをすると言われて、漫画で見た、Lが月に出したものと同じ資料を渡され軽く説明を受ける。知っていることを言わないように、怪しまれないように答えるのは難しい。俺なりに見当違いなことを言ってみたり、いっそ普通に聞いてみたりして躱した。
「くんは、死神って信じますか?」
その言葉に、先ほど見ていた『死神は』と頭文字に記されている手紙の写真をつまみ上げた。
「死神?」
「はい」
聞き返せば、肯定される。
「俺、幽霊とか信じない方」
本当はゴーストの居る世界を生きた事があるし、魔法生物も見て来たし、現に死神が俺の頭上でプカプカ浮いているのだが、すっぱりと嘘をついた。
「俺はここにいるぜ」
真顔で嘘をついていると、リュークは決まって茶々いれてくるのでいつも無視してる。
「私もにわかには信じがたいのですが」
そうして、Lはノートの話をした。まさかそこまで話して来るとは思わなかったので、自然と少し驚いた顔をした。
「なにそれ……竜崎は嘘つきだからあんまり信じてないけど……そんな嘘言うとも思えない……」
「本当の話です」
「だとしたら、メロとニアに肝心な話してない」
「どうせ調べてますよ」
こうしている間も俺の反応を見てるのかもしれない。社会にでて多少表情が変わりやすくなったとはいえ、精神面は年々鍛えられて行ってるので知らんぷりすることは出来る。発言には気をつけなければならないけど。
「十三日のルールか……俺、ニアとメロに二週間後に火口が死んだって言ってある」
「その辺も調べればわかることですから平気です」
俺は数字をきっぱり告げてないので、そこだけ報告しておく。俺が詳しく覚えていたら変だからだ。
「今犯罪者が殺されてるってことは、そのノート、とられちゃったの?」
「いえ、金庫に入れて監視中です。複数ノートがあると考えられます」
「そういえばなんで捜査本部にいないの」
「くんに会うためです」
こうもすんなり認められると思わなかった。
「え、監禁するとかいわないよね」
いつかは疑われると危惧して一ヶ月分は予定を立てているけど、それよりも仕事があるんだと考えるあたり、俺の考えはすっとぼけてる。犯罪者という自覚が薄いのだと思う。
「さすがにそんな人権を無視したことできませんよ」
これは突っ込むべきか。現に五十日にわたって海砂と月を監禁した男の台詞とは思えない。
「じゃあまた来るってことで良い?」
「はい。……変な顔になってますよ」
「笑いをこらえてるんだよ」
「こらえないで笑った顔が見たいです」
「口説いてる?」
とうとう笑みがこぼれた。Lは自分の唇を指先でもてあそびながら、立ち上がった俺を見上げていた。
口説いて欲しいですか、と問われたのでその質問には無視してドアの方向へ行く。そして、じゃあね、と一瞥してから、家に帰った。
それからLとは頻繁に対面して会話をしたが、聞かれない限り自分の意見を言わないので俺はおそらくぼろは出していないと思う。
いつも後頭部に銃が突きつけられているような気分だ。
その銃に果たしてどんな弾丸が詰め込まれているのか、トリガーは引かれているのか、俺にはさっぱりわからない。今までは教科書通りに動いて来たから、応用編の今は怖くて仕方ない。けれど、その気持ちを少しでも出してしまえば俺はLに捕まる。
この世界は俺がノートを持っている事によって多少変わったけれど、大まかなところは変わらない。メロやニアがこれから動きだし、父や粧裕が巻き込まれないとは限らないからそれを見届け、できれば避けたい。それとも、俺が捕まれば全て終わるのだろうか。
「——先生?」
呼びかけられ、肩に手がかかったことにより、我に返る。清美が訝しげに俺を見ていた。
「大丈夫ですか?」
清美はあれからこの英会話教室に通う事になった。俺を講師にと指名もしてくれたがこれは俺の実力と言うよりも兄の七光りと言ったところだろうか。
しかし清美はあからさまに月の話をしてきたりはしない。英会話、ということで会話を広げる為にほんの少しプライベートなことや、仕事の話、世相なんかの討論をしたりする。アナウンサーということもあってか為になる話を沢山してくれたので助かる。
「すみません」
「どうかされたんですか?珍しいですね、気を散らすなんて」
俺が先生と呼ばれている方だけど、清美が先生みたいにちくりと咎める。
「今週は少し忙しかったもので。高田さんの授業は落ち着くので気が抜けてしまったみたいです。ごめんなさい」
「そうでしたか。たしか、明日はお休みですか?」
「はい。明日十分休息をとります」
当たり障り無く誤摩化して苦笑する。最近はLに頻繁に会うから気疲れしているのも事実だ。清美は本気で憤慨しているわけではなく、多少呆れつつも心配してくれた。
「高田さんは来週で最後でしたよね」
「ええ」
話題を、清美が教室を辞める話に変えた。ここに通って三ヶ月で、充分流暢に喋れるようになったし、彼女のアナウンサーとしての人気が上がり始めている為通えなくなるとのことだった。
「イタリアンは好きですか?」
「え」
「銀座にあるイタリアンなんですけど、今月いっぱいで閉めるらしくて……よく連れて行ってもらっていたところでとても美味しいんですよ」
俺の唐突な質問に、清美はたじろぐ。
「卒業祝いってことで、どうですか?」
「よろしくお願いします」
今まで一度もプライベートな誘いをしなかったからこそ、応じやすかったのだろう。
「来週、授業の後に予定は入ってますか?」
「いいえ、大丈夫です」
「じゃ、来週」
清美を誘ったのに、他意はない。昔奈南川がよく連れて行ってくれたイタリアン料理のレストランが本当に今月いっぱいで閉店なのだ。奈南川とも親しいシェフだったし、当時高校生だった俺は覚えられており、この間銀座の店の前を通りかかった時にシェフと再会した。そして、今月で店を閉める話を聞き、食べに行く約束をしていたという訳である。
奈南川とは自然消滅()
feb-may.2014