harujion

Last Memento

47 誘拐
(松田視点)

火口が死んで、月くんもミサミサも解放されてから四年が経った。僕は相変わらずキラの捜査本部に身を置き、夜神次長や相沢さんらと調査を続けていた。
キラの殺人は一年間行われなかったが、今となってはまた始まり、当たり前の様に犯罪者が次々と死んで行った。以前と違うのは挑発やメッセージがないこと、それから衝動的な殺人も無い。以前はLのふりをしたリンド・L・テイラーやFBIを殺したが今それはなくなっていた。ただ淡々と犯罪者を殺すのみ。
この三年間で、随分犯罪は減った。そして、公にキラは正義だという者だけではなく、キラを認めると表明する国すら現れた。


四月になって、月くんは警察庁に入庁した。
竜崎と共同で捜査しているキラ捜査本部に配属となり、四年前のように捜査をすることになった。
少し違うのは、時々遊びに来ていたくんや、いつもいたミサミサがいないこと。それから、竜崎が居場所を移してしまった事。

「もちろん、キラは必ず捕まえますし、捜査もします」
「ならキラだけに専念すべきだろう?」
月くんが説得するが、竜崎は首を縦にふらなかった。
「私が今から行う捜査も、キラに繋がります」
「なら僕たちも協力する」
キラの捜査なのなら、こちらですればいいと月くんも、僕たちも詰め寄った。
「いいえ、駄目です。邪魔になります」
「足手まといということか?」
相沢さんが苦虫を噛み潰したような顔で尋ねる。
「そんな事はありません。ただ、なるべく少人数でやりたいのです」
「一人では危険だ」
「元々危険は承知の上です。今回は犠牲になるべき人が少ない方が良いでしょう」
もう一つ理由はあるが、私はあえてそれを言いません。と竜崎は答えた。
竜崎は別の事も調べる傍らこちらの捜査にもきちんと参加すると約束し、僕たちの引き止めも届かずに出て行ったしまったのだ。
もちろん、今何処で何をしているのかは知らない。また、竜崎はLの名を、月くんに貸した。Lという名があれば捜査がしやすいからだ。

十月になったが、結局捜査は大きな進展も見られず、竜崎も帰って来ない。次長と月くんに誘われ、夜神家にお邪魔してリビングでキラについての会話をする。
奥さんがお茶を出しながら、そんな話しは辞めてくださいと嗜めた。確かに、一般家庭のリビングでするには酷く不似合いな話だった。

「ただいま」
そのとき、リビングのドアを開けて顔を出したのは粧裕ちゃん。思わず見惚れてしまう。高校生のときのくんにも少し似ているが、くんよりもふっくらと柔らかそうで、可愛らしい。
「お兄ちゃんもお父さんもお休みなのね」
「ああ粧裕おかえり」
「松田さん?でしたよね、お久しぶりです。いつも父がお世話になってます」
ぺこりと会釈をされて、慌てて返事をする。
「さ、粧裕ちゃん、お、大人っぽく、き、きれいに……ま、前あったときはこんな……」
親戚のおじさんみたいなことを言ってる割にはどもりすぎている自覚がある。
「松田さん顔真っ赤ですよ……ハハ」
月くんに指摘されて狼狽える。次長も奥さんも、刑事の嫁にはやらんと言い出し、僕はポロポーズも告白すらしていないじゃないかと項垂れる。
「でも、松田さんって素敵だと思いますよ」
「ええーっ!ほ、本当かい?粧裕ちゃん」
「はい、松田さんがもう一回り若かったらお付き合い考えてもよかったかも」
粧裕ちゃんの言葉に少し興奮したが、粧裕ちゃん自身によってあしらわれてしまった。粧裕も言うようになったな、なんて月くんも笑ってる。
「言っておくけど、もう一回り若かったとしても、俺の許しがなければ粧裕には近づかせないから」
項垂れる僕の頭に落ちて来たのは、抑揚があまりなく、透き通る、懐かしい声。
くん」
粧裕ちゃんの笑みを含んだ声が、声の主の名を呼ぶ。僕が顔を上げれば粧裕ちゃんの肩を抱いたくんが、僕を見下ろしていた。高校生の時からあまり変わらない、中性的な顔立ち。隣に立っていると本当に粧裕ちゃんに似ている。ただ女性特有の丸みは少ないので、粧裕ちゃんよりも青年らしい。月くんと並ぶと充分女の子みたいに見えそうだけど。
お帰り、今日仕事じゃなかったのか?」
「ただいま。今日授業がないっていうから午前までにした。ついでに粧裕の迎えに行ってたんだ」
くんは留学から帰って来てすぐに、英会話教室に就職したらしい。僕は彼が英語を喋るところを見た事がないが、とても流暢に喋るらしい。基本的にやる気の無さそうな、動物的な子だったけれど、働き始めてから少し柔らかくなったのか、表情は明るめだ。
「そういえば、松田さんお久しぶりです」
くんはあんまり変わってないね……」
「身長はのびたはずなんですけどね」
ふい、と顔を背けられる。愛想は身に付いたようだけど、相変わらず素っ気ないのは信頼されているのだろうか。嬉しいような寂しいような気分だ。
そんなとき、次長の携帯に電話がかかって来た。話している内容的に相沢さんが相手であり、「誘拐!?」と口にしたことから、僕たちはただ事ではないと知る。
詳しい話をで聞く為、次長と月くんと共に夜神家を後にした。

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松田に牽制するシーンを書きたくて帰国させたといっても過言ではないです。
feb-may.2014