harujion

Last Memento

51 散歩
帰国するなり、粧裕と母が泣いて俺を出迎えた。
残されたものも、不安だっただろう。粧裕なんかは自分の代わりに兄が攫われトイレで何時間も一人で助けを待ったのだから。

夜神家は警察に警護され安全を約束された。粧裕はしばらく暗い面持ちをしていたが漫画ほどふさぎ込む様子はなく、俺の送り迎えのもと大学に通った。俺は可哀相なことに仕事は休職させられた。それは月と粧裕の強い希望であり、父も母もそれを止めなかった。俺は一日中家の中でじっとしていたら気が狂いそうだと言ったのだが、外出は咎めないという理由で受け入れることになった。
粧裕がふさぎ込むのは阻止できたが、兄妹が過保護になってしまったみたいだ。

「俺がノートを拾ったのも、こんな季節だった」
「そういえばそうだな」
人の居ない土手を散歩しながら呟く。
「死神はノートを一冊持ってる……予備のものなんかはない、と思う。でなければ今頃世界にデスノートは溢れている」
「だろうな」
「リュークがはじめに落としたノートの持ち主は……どんな死神だった?」
遠回しに、シドウが来ただろうと問いつめる。リュークはクククと笑った。
……お前時々ものすごく鋭いよなあ」
「あのノートの死神、寿命はまだあるのかな?奪われちゃったから死んじゃうね」
くすくす笑うと、たらりとリュークは汗を垂らす。シドウが慌ているのか、ただ単にリュークが俺の笑みを気味悪がっているのかわからない。
「あーそのことなんだけど、そいつの寿命がやばいらしくてこの間来たぜ」
「へえ。今はいないの?」
「や、ずっとここにいる」
「うわ……。まあ、捜査本部見てるよりはマシかなあ」
リュークはロスで一度消えて以来俺の近くから移動してないので、おそらくシドウと話すのは俺が寝ている間だけだろう。
「俺はノートをもう一冊持ってる。でもこれをあげたくない、だって俺が頑張って手に入れたものだから。君がノートを落としたのは自分の所為、それを奪ったリュークが悪い、俺は恨まれる所以はないね」
リュークがここにいる、と言った時に差した指の先を見て、何も無いところに言う。まるで一人芝居だ。まわりに人が居なくて本当によかった。
「でも、元持ち主のよしみであのノートを取り戻す為に協力してあげる。持ち主の目星は大体ついてるけど断定はしていないから君がそれを見て断定してよ。それから俺がその人を殺してあげるから、その瞬間にノートを奪え」
この計画に従うなら、死神がついてないこのノートに触れるよう、死んだレムのノートを取り出した。そして、一秒後に虫みたいな顔をしたシドウが現れた。
「リューク、こいつすげえ」
「そうだろ?こいつすげえんだ」
小学生みたいな会話が目の前で繰り広げられた。
マフィアの顔のデータはハッキングすれば見つかるし、カル・スナイダーにノートの権利が行くまで少し待てば良い。
メロがSPKの人数を絞ったり、マフィアの粛正を行ってくれるし。
「お近づきの印に」
シドウにチョコレートを渡すと、これうめえ!とリュークがりんごを食べた時みたいにはしゃぎ出した。

計画を話し終えたところで、Lから電話がかかってきた。
家から十分程歩いたところにある土手にいるのだと告げれば、迎えに行くと言われて電話を切られた。Lは俺の扱い方を段々分かり始めている。ワタリが迎えに来るのならなかなかすっぽかせない。来いと言われれば行かないが、迎えはそうもいかない。約束が入ったときはきっぱり断ってはいるのだが如何せん今そんなことはないのである。
ものの十分で高級車は迎えに来て、仕方なく俺は乗り込んだ。
前とは違うホテルの一室へ案内されると、Lがモニタに向かってこちらを見ずに声をかけた。
「おつかれさまでした」
何に対して言っているのかは分からないけど、どうもと答えておく。
勝手にソファに座れば、ワタリが紅茶とケーキを出してくれたのでありがたく受け取り、Lが口を開くのを待つ。
「ノートは取られてしまいました」
「メロだよね?Lのところにあるって分かってたのになんで欲しがったんだろう」
原作ではLの死後日本捜査本部が所持していたノートだったけれど、今Lは生きているしLも居る日本捜査本部にあった。奪い取るという発想にはならないかと思っていただが、誘拐やメロとニアの接触は行われた。
「今、Lという名前は月くんにお貸しして、捜査本部の指揮を執ってもらっています」
「へえ」
「その捜査状況を見て、Lが私ではない誰かがやっていると思ったのでしょう。現に私のやりかたとは少し違います」
背中を向けたまま、Lは答えた。
「日本捜査本部は緩い、というのがメロやニアの見解です。したがって、ノートと情報を渡していただき独自に捜査をすべきだと思ったのでしょう」
「ニアも?」
「はい、ニアも動いています。くんに事情聴取をしたのはニアですよ」
「そう……。まあ、確かに日本捜査本部は緩いかもね」
「なぜそう思いましたか?」
「Lは真実を追い求めてるけれど、日本捜査本部は安寧を求めているのかな」
勿論捜査本部だって犯人を捕まえて平和を手に入れるのだが。
Lは警察ではなく探偵だからかな。人命救助を優先してもそこに情が見えない気がする。
「捜査本部は人を救うけど、Lは世界を救ってくれるんだね」
ぼそぼそと俺の見解を呟き終えて、少しだけぬるくなった紅茶をひとくち飲んだ。
「口説いてます?」
「どこをどうとったらそうなる」

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Lとのやり取り書いてるとどんどん話が逸れてってしまうから軌道修正に時間がかかる。
feb-may.2014