52 シドウ
(リューク視点)
は死神の目なんて持っていないが、人の名前や未来、感情や行動が見える不思議な目を持ってると思う。
俺が人間界に落としが拾ったノートの、本当の持ち主が現れてすぐに、言い当ててみせた。まさかこいつ死神の姿も見えてるなんて言わないよな。
「あのノートの死神、寿命はまだあるのかな?奪われちゃったから死んじゃうね」
ころころ笑った顔にぞっとする。こいつの楽しそうな笑みは大抵えげつない事を考えてる笑みだ。少なくとも俺はそう思ってる。
シドウは俺たちについてればノートはそのうち見つかると踏んだのか今も傍に居て、の言葉に動揺し、俺にすがりついた。
「どうしようリューク……俺死んじゃう」
「あーそのことなんだけど、そいつの寿命がやばいらしくてこの間来たぜ」
今もついて来ていると正直に答えれば、うわ、と嫌そうな顔をした。さすがに死神の姿が見えている訳なかったか。
鋭いにも程があるってもんだ。だが、この鋭い理由を知ってしまえば今後が楽しくない。最後には教えてやるとは言ったから、俺はそれを待っているのだ。
は自分に協力すれば、もう一冊手に入れた時にノートをやると交換条件をだした。のもつレムのノートは俺も触っていないので、死神は居ない。シドウは、つく死神の居ないノートについて、その持ち主に返してもらうか死を見届けなければならないルールのことをふまえてレムのノートに飛びついた。
これからに良いように使われるんだろうなあ。こいつは頭が良いレムさえ欺いた。人間に使われるなんて馬鹿だなと思いつつも、そんなことする人間と死神たちが面白くて、俺は笑いながら眺めるのだ。
「シドウ、ノート持ってると思しき人見つけたよ」
「え……ほんと?」
はパソコンを弄っていたと思ったら、急にそんな事を言った。俺たちが覗き込めば、数人の男の写真。その中に一人寿命の見えない奴がいる。ジャック・ネイロンという表記がされているが本名はカル・スナイダー。
「この、カル・スナイダーっていう男だけど……」
「お前目の取引してるのか?」
「さあね」
まただ。または本名を言い当てた。前も海砂がデスノート持ってることを知っていたり、ほとんど会話をした事の無い女の名前を当てたりもしてた。
「で、寿命も見えないからこいつを殺せば良いわけ」
「うん」
はシドウを上手い事誘導して、持ち主であることと本名を確認した。
カル・スナイダーがノートを手にしていない可能性があり、殺してもすぐに次の者に所有権が移ってしまう事、そうならない為にはノートを一時的に人の手から離す必要がある事を説明する。
「どうやって離すんだ?」
「ちょっとくらいノート触れるでしょ?がんばって」
「え!」
死神任せだった。
「別にこの所有者、俺は殺さなくたっていいんだよ。俺が死ぬまで俺についてる?俺の寿命と君の寿命どっちが長い?競争しようか」
「ううう……」
シドウの寿命はよりも短い。まあ、ノートを手にする前の寿命なのだが。
葛藤する様子を見てはうっすら微笑んだ。邪気を一切孕んでいないからこそ、恐ろしい。
「が、がんばる……」
「良い子だ」
そう言って、は時間を指定して、カル・スナイダーの名前をノートに書いた。
「ついでにその場に居た奴らやっちゃいなよ。寿命ほしいでしょ?」
すらすらと書き連ね終え、顔を上げながらは言い放つ。本当に上手い事利用してる。
シドウはそうすると返事をして外に飛んで行こうとしたが、が一度引き止めた。
「チョコレート食べてる子は、俺の獲物だから残しといて」
「うん、わかった」
ひらひらとは手を振って、シドウを見送った。
チョコレートを食べているのはおそらくメロだ。殺す気があるのかないのか分からない物言いだが、Lをまだ殺してないところを見るとメロもまだ殺す気がないのだと思う。
「なあ、上手く行くと思うか?」
「さあ?」
飛んで行ったシドウをもう忘れたかのごとく、犯罪者を殺す予定をたてる。さっきから淡々と人の名前を書いて行ってる。
こいつは初めて会った時から眉一つ動かさずに人の名前を書いていた。それは何年も経った今でも変わらない。まるで人の名前を書く機械だ。
キラの崇拝者が増えようと、Lにとうとう疑われようと、誘拐されようと、変わらない。
普段の表情は此処数年で柔らかくなっているのだが、相変わらず薄っぺらい感情ばかり見ている。正直、家族への愛情と、甘いもの食べてるときの嬉しい顔くらいしか人間らしさを感じない。
「もし失敗しても、ま、別にどっちでも良いかな」
ぎぃ、と背もたれに寄りかかって、は静かに目を瞑った。
薄い唇をほんの少し開いて、ため息を吐く。
「幸せ逃げるぞ」
死神の俺が言うことではないが、あまりに深いため息に突っ込めばは目を開いてからうっとりと細めた。
「逃げていく幸せなんかない」
リューク視点で書くと主人公が腹黒……。
feb-may.2014