53 アメリカ
(メロ視点)
今のLは本当のLではない。というのが俺とニアの共通の見解だ。お互い示し合わせた訳ではないが、おそらくそう思ってる。何故かと言うと、平和的なやり方すぎるからだ。もちろん、ここ数年のキラは淡々と犯罪者を殺して行くだけで、大きな動きは見せず、警察や国からのメッセージにも一切応じなかった。前まではLを挑発していたというのに、だ。
だからこそ、しっぽが掴めず、手をこまねくのもわかる。だが、Lだったらもっと良い手を使うはずだ。しかしLは動かない。つまり、日本捜査本部の連中が邪魔をしているかLと名乗っている者が違うかだ。勿論、Lは日本捜査本部の連中に邪魔をされて縮こまるようなタマではないし、勝手にLと名乗るような人間を許しはしない。つまり、Lはあえて動かず名前を貸してやっているのだ。
何の意図があり、何の成果があるのか、俺には甚だ理解できない。
キラはLが捕まえると言った。そして、俺たちにもキラを探せと言った。捕まえるなとは言われてないから、捕まえたって良いのだ。ニアよりも、Lよりも先に。
ノートを手に入れる為に誘拐した多貴村が死んだ。次の人質は夜神総一郎の娘夜神粧裕だと指定して部下に攫わせる。そして誘拐してきた証拠に部下に写真を送らせれば、力なく座った、ユーの姿。
「!?」
「どうした、メロ」
凝視する俺に、ロッド・ロスが気づく。
もう一度写真を見た。どこからどう見ても、ユーだ。お、女だったのか。
「なんでもない」
肉の無い男だと思っていたが、肉の無い女だったとは。
必要以上に接触をしなかったし、着替えている姿も見た事は無い。一度ベッドに一緒に入ったことはあったが、寝ていたし、起きた時には背中しか見えなかった為そんなことはわからない。細すぎて男だと思っていたが、言われてみれば女に分類されても良い顔立ちをしている。
Youと呼べば良いと言ったのは粧裕のユからも来ていたのか。考えても仕方が無い。
それにしても、何度か粧裕の様子を写真越しに見たが、本当に図太い。大半が寝ていたり、テレビ見ながらだらだら過ごしていた。こんなんじゃ、ニアに俺とグルだと思われても仕方が無いんだが。
それに三年前も俺をほいほい家に置くし、ベッドに入って来るし。男だったと思えば多少頷けたが、女としてそれは無いと思う。手下の連中もこいつは本当に女かなんて言っている。ただし騒がないなら好都合だと言う事で、俺たちは特に接触をしなかった。
ノートを手に入れた事をニアに分からせるため、わざとチョコレートを食べたり粧裕にユーと呼びかけてやった。粧裕は表情こそ変えなかったが、去り際にモニタに向かって口パクをした。
(ばいばい、メロ)
読唇術を心得ている訳ではないが、おそらくそんなところだろう。
粧裕はLの使いとして俺たちの前に現れているし、もはや好都合でしかない。おそらくニアにもLにも俺がノートを手に入れたことはすぐに行く。
ノートを手に入れてまずしたのは、ニアの戦力を削ぎ、俺たちに関わるスパイや敵対するマフィアを消す事だ。そして大統領に脅しを掛け、SPKの連中が見ている映像をこちらでも見る。馬鹿な奴らで、二年も前のアジトを見張っていると見張りの連中は揶揄した。
「あとはこのノートがどの程度使えるのか試して行くしかないな」
その時俺はルールの書いてあるページを見ていた。
日本捜査本部の連中には、顔だけで殺せるキラのしくみも分かっていない。結局今のLは松田とかいう男となっているが捜査本部の意向を言わせているにすぎないようだし、当てにはならないだろう。
じいっと見つめながら考える。
手には、ノートの重みだけ。だが、するりとそれが浮いた。
弧を描き、ばさりとテーブルの向こうに落ちた。
「なんだ?ノートが……」
「うぐっ……!」
ノートが勝手に動いた、と言いかけたところで息の詰まる音。モニタを見張っていたジャックが、いきなり苦しみ出した。
俺も、その場に居た全員も、ジャックが死んで行くのを見ていた。
「これは……キラか?」
ぽつりとこぼす。ジャックの顔はおそらく警察やFBIなんかのデータにはあるだろう。関係者にきっとキラが居るはずだ。
とりあえずノートを拾おうと振り向いて、目を見開く。
「ノートが……消えた」
「あ?……ぐっ」
そして、ロッドが唐突に自分の胸を抑え、歯を食いしばる。シャツのボタンが引きちぎれるくらい。そして、息絶えた。そこから次々と周りの連中が死んで行った。
この部屋の中で生きているのは俺だけ。俺以外はどこかしらに顔が出回ってるが、偽名の奴も多かっただろう。つまり、キラはやはり顔だけで人を殺せるのか。
ぱきん、とチョコレートを噛み砕く。
「くそっ!」
折角手に入れたノートを、こんなにあっさり持って行かれた。チョコレートを地面に投げ捨る。
外には見張り中だった奴らが残っているが、ロッドも殺され大半の戦力が減った今、こいつらを使ってもメリットは無い。しかも、おそらくこいつらの殺人容疑も俺にかかるに違いない。面倒な事になった。
アジトから出て、なるべく早く身を隠す必要が出来た。
それから数日後潜伏場所でニュースを見た。デイビット・ホープの死亡と、アメリカで大量のキラによる犯罪者やマフィア殺しが行われた事を受けて、副大統領がキラに逆らわないと表明し、先進国首脳会議において他国にもそれを推奨する構えだ。
アメリカが自発的に屈した。これでキラは勢いに乗る。
「ふざけるな!」
ベッドをぶん殴ったが、憂さは晴れなかった。Lを二回負かし、命をかけさせ、何度も欺いて来たキラ。Lやニアへの勝利、それからノートを手に入れようと躍起になりすぎて、本当の敵を侮っていた。ノートを手に入れればキラを手に入れられるとでも俺は思っていたのか。いや、ノートを持っていればキラの手法を理解する事が出来た。しかし、その敵は上手だった。ノートはおそらくキラに奪われたのだ。
「くそ!」
もう一度、悪態を吐いた。
メロごめんね。
feb-may.2014