54 SPK
(ニア視点)
三年前から淡々と犯罪者を殺し続けているキラ。今となっては正義だと認める者たちも増えて来た。そう言う奴らは全て馬鹿か、怯えているだけの者たち。
私は情報提供をする役目のくせに、わずか数時間で養護施設から消えたあの青年に頼る事無く、Lの捜査内容を突き止めた。
もちろん青年が言っていたことは多少参考にはしたのだが。
Lがキラを個人に断定し赤いポルシェに近づくなと言う警告を発した記録から、これは青年の言っていた火口という男だろうと分かる。逮捕時に近くに居た警官が顔を知っている人間の名前を書くと書かれた人間が死ぬノートだと言ったのを聞いており、そのノートらしき物が火口の車からヘリに持ち込まれ数分後飛び立っている。Lは日本警察の一部と捜査を続けているため、そのノートは今、日本警察にあると言う事だ。そして今のLはどう考えてもLではない。やり方が緩すぎる。決して馬鹿とは言わないが、Lではないことは確かだ。
何故Lが捜査をしていないのかは知らないが、Lではないのならそのノートをこちらに渡していただきより有意義な捜査をしたい。アメリカ内では今のLがLではないことを知り、もう私につくと約束してSPKを容認した。
だが、私たちの組織内にスパイがいたらしく、ノートの事は外部に漏れてしまった。そして日本警察の長官が誘拐された。のちにその長官は殺害され、今度はあらたな誘拐が出たことが判明した。
それは夜神次長の娘と勘違いされた息子だと言う。誘拐するのに女性を選出するのはよくあることだが、間違えて男を誘拐するとは随分間抜けな奴らだ。しかしバレないに越した事は無いので、夜神粧裕の誘拐としてこちらも扱う事にした。
全指揮は仮のLに任せ、人命第一でありながらも隙あらばノートを奪おうと考えた。
だがそれは叶わずに終わる事になる。追尾できない型のミサイルでノートは運び出されてしまったのだ。
夜神次長とその息子にはロス市警で事情聴取をとらせてもらうことにした。
最初は誘拐された張本人である息子に部屋に入ってもらう。モニタ内に現れた黒髪の青年は、三年程前に見た事のある容貌。
Lの使いとして現れたあの青年だった。
「Mr.夜神、犯人の顔を見たり声を聞いたりは?」
「顔は見てないです。声はさっき話しかけられましたが———知っている人かもしれません」
以前会った時はもっと表情もなく英語だったせいか、今の柔らかな日本語で喋る夜神は少し印象が変わる。といっても、本来のやる気の無い人間性は現れているし、顔には疲労の色が浮かび全体的に覇気は全くないのだが。
おそらくメロだと、私も分かっていた。そしてそれを分からせる為のヒントをあえて渡したに違いない。夜神をおいかけてメロは施設を出て行ったことから何度か会っているのだろう。もしくは、仲良くなっているのだろう。
「犯人は俺を、一度だけユーと呼んだ」
誘拐中のやりとりは日本語でされていたのに、ユーと呼んだと夜神は言った。彼は三年前、メロに名前を名乗る真似はしなかったらしい。
これで聞きたい事はあらかた終了したが一つの疑念が浮かんだことにより、問いかける。
先ほどミサイルを持ち出したことにより我々やアメリカ自体がメロとグルではないのかと疑われた。しかしそれを証明する術はなかった。それと同様に、夜神がメロと繋がっていないとは言い切れない。
「貴方は犯人とグルではないですか?」
そう尋ねれば、その音声を聞いていた仮のLが何を言っているんだと咎めた。しかしそれには応じず夜神の様子を見る。きょとんとしてから、苦笑し、口を開いた。
「グルではないと証明はできませんが……ひとつ」
「はい?」
「犯人は最後まで粧裕を勘違いしてたと思います」
メロは写真でしか確認していないのだろう。しかもおそらく暗がり。夜神粧裕と夜神は次長曰くとても似ている兄妹であり、夜神を見れば多少女性と勘違いされてもおかしくはない容貌をしている。
「——そうですか」
しかし、一晩同じベッドで寝ておきながら、女だと信じてしまったとは。
「おもしろいね」
夜神はなんの悪意もなく、メロを馬鹿にして笑った。
ノートが奪われてからすぐ、SPKの大半が殺された。
スパイを捜し出しそこからメロへと思っていたが、先を越された。仮のLと協力する気はなかったが、ノートを取り戻しキラを捕まえるべく多少の情報交換をすることになった。
仮のLは自分が本当のLではない事は素直に認めているし、Lともコンタクトをとっている。仕方の無いことだし、どうせ分かることだと思い私がニアであること、メロという存在を明かした。
「夜神は一度Lの使いとして私たちの前へ寄越されました」
「……」
「彼は適度にキラや捜査本部の情報を持っていたこととで情報提供を。そして、説明が下手くそだった為に私たちに試練として立ちはだかりました」
ちくちくと仮のLと、おそらく聞いてるであろう本当のLに刺す。
「自分が分かる情報を吐きおえ、知らない事、疑問ばかりを残して私たちの前からあっさりと帰って行ったのです」
「……そうですか」
仮のLは少し呆れたような声色で相槌をうった。
「明らかに情報は足りませんし、おそらくもっと突き詰めて行けば夜神からもう少し有益な情報は得られたと思いますが私は追いませんでした。ですがメロは行動力の塊なので、追って行った様です。それ以降の彼の行方を私は知りません」
だが夜神は肝心な事を知らない為、メロは私のところにスパイを送り情報を得た。
スパイを消し、夜神次長に娘や息子の命と引き換えに情報を引きずり出す魂胆だ。メロが夜神を夜神粧裕だと間違えているようなので名前を書かれても死なない可能性はあるのだが、一度も夜神粧裕の本当の写真を見ていないとは確定できない。
また、夜神粧裕の写真を見ていたとしても夜神を見れば夜神粧裕だと勘違いしてもおかしくない程に、彼らは似ていた。並べてみれば違いはわかるのだが、さして接触の無い、東洋人の顔を見慣れていないであろうメロにはわからなかったかもしれないのだ。つまり、名前を書かれたら夜神粧裕が死ぬ可能性は大いにある。
これからのメロの行動はまだ推測できないが、目的の為なら手段は選ばない彼のことだから、危険な事や無茶なこともするだろう。仮のLにそう報告した。
数日後、仮のLから、メロがデイビット・ホープを脅している様だと報告を受けた。SPKが見ている映像や資金や武器等々の要求。私の持っているものをメロは全て欲しいらしい。
どうしたものか、と思っていた矢先、アメリカ中のマフィアや犯罪者が一斉に、大量に死亡した。そして、デイビット・ホープも拳銃自殺を行ったと報道された。
マフィアということからメロかと思ったが、デイビット・ホープの死もノートによるものだと思えば、これはメロではなく、キラの犯行だ。
その後、アメリカは副大統領の宣言でキラに屈した。
キラは三年間淡々と犯罪者を殺し続けていたと思えば、ノートの争奪が行われた途端大きな行動をした。しかし今まで捜査本部にあったことはおそらくキラも分かっていた筈だ。それに、ノートが誘拐犯に奪われたと知っているのは捜査本部と、我々のみ。やはりキラは日本警察に潜伏していると見ても良い。多貴村のことといい、今回の事と言い、キラは動き過ぎて自分の存在を主張しているようなものだ。
「キラと日本捜査本部はグル」
「グル……?」
レスターに意見をあおがれて答えると、戸惑いがちにリドナーは反復した。
「いや……本部内にキラがいる……とすれば……キラは仮のL」
「ま、まさか……」
「実際に指揮しているのは確かに仮のLだが本当のLも居ると言う話では?」
「ならばLもその仮のLを疑って様子を見ているのではないでしょうか」
「本気で言っているのかニア?」
「はい。本気と言っても……7%くらいです」
もともと仮のLには違和感を持っていた。自分たちを探られては困るような物言いだった。私たちを信用できないから全て話さないともとれるが、何かを秘密にしている可能性がある。
「ニア……少し決めつけ過ぎでは?」
「……レスター指揮官。捜査というのは、決めつけてかかり間違っていたらごめんなさいでいいんです」
決めつけて再捜査、と言いたいところだがこの国の正義は崩壊し、SPKは非公式となってしまった。アメリカ警察や日本の協力を全く得られない現状では難しい。しかしこれは良い機会だから一度解散した方が良いと私は考える。メロはおそらく誰かに接触をしてくるだろう。
して来ると思ったら、一番可能性が高いのはリドナー。女性ということで油断が生じることが大きい。
盗聴器やカメラを付けて生活をして貰うことを提案すると、彼女は数秒考えてから了承した。
「でもLがキラなんて、キラがこの世に現れたときからあった説を信じるでしょうか?」
「信じますよ?おそらくメロも今のLが本当のLではないと分かっていますから」
それに、火口が捕まる前に一度監禁された人物が居ることを、私たちは知っている。それが誰なのか、夜神はおおくの質問の答えとひっくるめて知らないと言ったが、おそらく今も、その者はLの傍に居るのだろう。
主人公が帰りさえしなければ、ちゃんと情報は得ようとしてたと思います。
feb-may.2014