55 奪還
シドウとは別で、アメリカで集中的に殺しを行った。大統領も殺せばアメリカの副大統領は屈するかな、と期待を込めた。それから、ニアのSPKも孤立させたいし、これからの流れにそれは必要不可欠だ。
「すげえじゃん、」
「そう?簡単すぎるでしょこれ」
「余裕だな」
アメリカを屈服させた事に関してではない。Lを生かしたのに現状が変わらないことや、レムが上手い事俺に協力した事。そりゃあ、そうなればいいなと思って動いたけど、そんな簡単に行く事じゃない。Lは俺を疑うまで来ていたくせに、長官が俺の知る筈の無い間に死に、誘拐もされたから疑いを晴らしてしまったのだろうか。もともと月への疑いが綺麗にさっぱり晴れた訳ではなかった上、今の状況もまた月のほうが怪しいと見て俺から少し目をそらしたのか。
どちらにせよ、簡単すぎる。
しかし、そんなのは原作の本を手にした時点で決まっていたことだった。これはきっと物語だ。あの本の通りの事件をこなさなければいけないし、何もしなくても同じような展開になるのだろう。
「ただいま〜」
ニュースを切ると、壁をすり抜けてシドウが帰って来た。手にはノートを持っていることから、無事取り返せたようだ。
「おかえり」
「ちゃんとチョコレート食ってるやつ残しといた」
「えらいえらい」
「うめーことやったなお前」
リュークのその言葉は多分俺に向けての言葉だろうが、反応はしない。
取り返したノートは返すとして、俺に姿が見えるようにするためにシドウがついてるノートからシドウを解放しなければならない。一度俺は所有権を放棄してシドウにそのノートを返す。そしてそれをシドウがリュークにやって、人間界に落としたものをまた俺が拾った。
今度は二冊のノートにリュークはつくことになったのだ。
もうシドウの姿は見えないけれど、リュークが帰ったと言ったのを信じて一件落着だとベッドに寝転がる。これから、少し世間をキラでにぎわせ、出目川を使ってひっかきまわさなければならない。あとは、メロがニアに接触して写真をとりにいく。ただし十三日のルールが嘘だとか、死神が存在するとかは、メロも分かっていないだろう。また、キラが月だと考える線も弱くなったかな。
キラのノートを日本捜査本部に再び置かないと疑いは濃くならないのだ。しかも今の捜査本部にはLも健在だし、月だって油断ならない。今後の俺のやり方はまた月の行動に基づいていくつもりではあるが、容易くそれを行える立場ではない。月が前程疑われず、俺と言う存在をふまえて、ニアやメロ、Lや捜査本部がどう考えるのかは完全に俺が独自で想像しなければならない事だ。
まずは出目川にキラとして接触。数日後すぐにキラ王国は放送された。
嘘のルールや死神の存在を知られていないのだからキラに焦りはなく、ただの挑発として彼らの目に映るのだろうか。メロは知らないうちにノートを奪われマフィアも殺されたのだから尚更そう映ってもおかしくはない。
メロが模木に接触してニアのところへ連れて行く日は正しく推測する事は出来ないが、もう攫われている可能性は高い。俺は模木に発信器なんか付けていないので今何処にいるかはわからないけど、漫画でメロはニューヨークのNICK.Stの出口の前と言った。そして真向かいのビルに入るように指示をした。ネットの地図で見れば、全く漫画と同じような建物の出入口が見える。
「簡単すぎる……」
「ん?どーした」
「何でも無い」
簡単すぎるけど、そんなの最初からだと再度言い聞かせる。そして、簡単だけど、俺には確かめる術は無い。信じてやるしかない。実際にちゃんと火口にノートが渡るか、十三日でレムが殺すか、月がLに疑われるのか、すべて確証はないまま信じてやってきた。だから今回もそうするのだ。
SPKの本拠地だったらラッキー、模木もいたらもっとラッキー。
大丈夫、世界は俺の味方。
「ん?なにすんだ?」
「出目川に奇襲させようと思って」
「へー」
月はキラではない。そして、Lも生きている。ならば、死神のことはニアにも行っているかもしれない。なおかつ、模木に口止めをする必要はないか。
模木が居なければ捜査本部のものがSPKの本拠地を突き止めたと思ってもらえないのだけど、そこは大丈夫だろうか。
「考えてもしかたないな」
はあ、とため息を吐いて、出目川へのメッセージを送り、その数日後、ニューヨークでキラの信者による奇襲は行われた。
「あはっ」
大量のドル札が降ってくる映像を見て、思わず笑った。本当に原作通りだ。
「すげーな、りんご何個買える?」
「いっぱい買える」
この奇襲は間違いなくニアの居る場所だった。模木が居たなら確実に捜査本部にキラが居ると疑われただろう。
Lにも情報、状況はわかっている。今の状況からするとやはり一番怪しいのは月。俺もキラなのではないかと疑われていた事も合ったが、動きの無い数年の間の殺し方のみ。完全に俺を白だと思ってはいないだろうけれど、今起こっている騒動の影が大きく、やはりまた月を疑うかもしれない。
ニアがどの程度揺さぶりをかけたかわからないけど、相沢は月を疑い始めるだろう。もしかしたら海砂のことも。
「意地汚いな……」
札を拾いに行ってしまった出目川を見て、笑いをかみ殺した。
ミサの出目ちゃんって呼び方可愛いと思う。
feb-may.2014