56 接触
(ニア視点)
リドナーにメロが接触して来る可能性が高いと踏んでいたが、すでに接触していたようだ。盗聴器とカメラを渡して帰せば、メロに拳銃を突きつけられながら本部へやってきた。
「メロが色々やってくれたおかげで大分キラが絞れました」
「ニア」
背後で、銃を構えた気配がする。
「俺はお前のパズルを解く為の道具じゃない」
折角私を皆に下げさせたのに、もう一度銃を構え合う。しかしリドナーが止めに入ったことにより沈静化された。
「ニア、お前が持っている俺の写真を取りに来た」
「はい」
複製等はしておらず、裏にはメロが必ず来るだろうと思って書いた、DearMelloの文字。メロは、手を組む気はないが写真を貰って帰るだけでは癪だと言って、情報を渡した。
「殺人ノートは奪われた」
我々は目を見開く。デイビット・ホープの死やアメリカ中の殺人はキラによる物だと分かってはいたが、まさかノートまで奪われているとは思わなかった。
「俺が手にしていたノートが急に何かに引っ張られるように地面に落ち、急にその部屋に居た一人が死んだ。目を奪われている隙にノートは消え、部屋に居た俺以外の連中が次々と殺された」
「生き残ったのはメロだけですか?」
「いや、見張りをしていた連中が生き残っているが」
ありえない。アジトの場所は我々も日本警察も掴んでは居なかった。部屋に居たものだけが死ぬなど、その場で見ていないと分別はできない。そして、ノートが急にメロの手を離れて行くこともおかしい。
「俺たちの目に見えぬ何かが、居た」
「ば、馬鹿な……」
「誰がそんな事を信じるか」
「私は信じますよ」
レスターやジェバンニが、メロの言葉にたじろぐが、私はメロの言う事を信じる。
「人間以外の何かが居たなんて馬鹿な嘘をメロがついて何になるんですか」
どうせつくならもっと意味のある嘘をつく。つまり、そこには人間以外の何かが居たのだ。そして、おそらくキラに協力した。
つまりノートはまたキラの手元に戻ったと言うことだ。
「もうひとつ……仮のLがキラという件についてだが、おそらく、そいつは過去一度Lに疑われていた人物だ」
「!」
「それは、夜神粧裕から得た情報ですか?」
「そうだ。当時部外者だったにも関わらず、捜査に協力するほど優秀だったらしい」
あえて夜神ではなく粧裕と表現しても、メロは訂正をしない。あまり疑ってはいなかったが、やはり誘拐の件はグルではなさそうだ。
「メロ、夜神には会いましたか?」
「誰だそいつ……ああ、兄貴の方か。知らないな」
「あなたが誘拐したのは兄の方だったんですよ」
「はあ!?」
振り向けば、思い切り顔を顰めたメロ。
「……やっぱり男で合っていた訳だな。ったく……紛らわしい顔しやがって」
もっと冷静になって考えてみればすぐに気づくとは思うのだけど、という言葉は飲み込んだ。
「とにかく、俺が教えてやれるのはそれくらいだ」
メロは出て行く為背を向けた。そして、どちらが先にキラにたどり着くか競争だと言い別れた。
数日後日本のテレビではキラを正当化する者達にあふれ、とうとうさくらテレビはキラ王国なるものまで発足した。出目川という男は第二のキラのビデオを流したとされる、下衆な男であり、キラを使って視聴率を上げることを重点においている。キラの代弁者として、キラが選んだと言うのもまた変な話だ。ノートを全て手に入れているということからすると、挑発か。
確かにこの男はキラが言えば簡単に動くだろうが、おそらくズレが生じるに違いない。
まずメロの言っていた目に見えない何かが居るということを、直接聞く為に仮のLにコンタクトを取る。メロを捕まえたが逃げられたと報告すると落胆している様子がうかがえる。
多少の尋問が出来たと答えれば逃がしたのだと指摘されるが、正直に答えるつもりもないので嘘をついた。
「日本捜査本部にノートが戻ったそうですね」
「何を言っているんですか?ノートはメロに奪われました」
カマをかけてみたが、ノートは日本捜査本部にはないようだ。やはり、キラか。
「メロはノートを奪われました」
「!……それは確かですか?油断させるためでは?」
「いえそれは無いでしょう。ノートを持っているということが有利になるのに、奪われた事は何もなりません」
「わざわざそれを報告する必要はあったのでしょうか」
「不可解な事が起こったそうですよ」
「不可解……?」
「目に見えない、何かが居る———とか」
「目に見えない何か———、メロはノートに触れていないのですか?」
「!……なにか思い当たる節がありますね?L」
口ぶりからするに、何かを知っている。
「私たちは、死神という存在を一度目にしました」
一呼吸追いてから、Lは答えた。
死神はノートにつき、所有者の最後を見届けなければならないと言う。当時火口についていた死神はそう言ったが、火口が死ぬとノートを残し姿を消した。その後四年間保管され、メロに渡った。
メロはその効力を試していることから死のノートであることは間違いない。
「なぜ見えなかったのでしょうか」
「それは私たちにも分かりません。私たちはノートを手にしたときから見えていたのですから……」
「死神……私も会って色々聞いてみたかったです」
「私たちだってまだ色々聞きたい事はありましたよ」
「その死神が存在したとして、メロの周りの者を殺す事は容易い……見張りに出ていた者たちは死なず、あえてメロの居た部屋の中だけの被害でした。つまり、死神はキラの言う事を聞いてメロとその部屋以外に居た者を生かした。メロを殺さなかったことなんて、挑発以外のなにものでもありませんね」
急に何を言い出すのかと、SPKの皆も、捜査本部の皆も押し黙り私の言葉を待つ。
「そこで、ノートに書いてあるルールが全て本当ではないのではないかと私は考えます」
「何故ですか?」
「死神がキラに協力の姿勢を見せているからですよ。都合のいいルールがひとつありますね、そう、十三日のルール」
「死神は肯定しましたし、以前のノート所有者は十三日で死亡しています」
「ですから死神の言葉は信用できません。キラの味方だと考えてください。そして、その死亡時間に疑問は抱きませんでしたか?所有者が最後に殺した者と、所有者が死んだ時間は、三一二時間の間をおいていません」
その事を話せば、周りもざわつく。
当時監禁されていた者はこの十三日のルールによって潔白を証明したが、そこも今となっては信憑性が薄い。
「ニア、言い分はわかりましたが嘘を確かめる術はありません」
確かに、ノートはすべて、キラに持って行かれている。私たちはノートに目がくらんでキラを見る事を忘れていたのか。しかし死神という存在、その死神の協力も得ているとすれば、かなり厄介だ。私たちには死神の姿が見えないのだから。
おそらくメロは前に捜査本部でノートを所持していた時のことや、仮のLや監禁されていた人物を調べるにあたって、日本捜査本部に接触をして来るだろう。そう思っていたが本当にあっさりと、模木という人物がメロによって連れられて来た。
仮のLではないかと一度Lへ接続をすればLは居た。つまり、模木はLではない。
「こんにちは、はじめましてニアです」
模木の携帯は繋がったまま、Lに聞こえるように話した。
Lをや模木を煽るだけではなく、捜査本部に居てこの会話を聞いている全員に揺さぶりをかける。十三日のルールが嘘であれば、監禁した人間はキラに決まりだがどうか、と尋ねるが模木捜査官は沈黙を貫いた。こちらが監禁の事を知っているのは一応承知していたようだ。夜神が情報源としてLに派遣された話は皆了承しているためだろう。しかし夜神も、模木も、誰が監禁されたのかは言わなかった。
夜神は知らなかったという筋はとおるが、模木は捜査員であり、知らないなんてことはない。もしやすでにキラに操られているか。操られているならば間違いなく捜査本部にキラはいる。ノートの力じゃなくとも、操られているというのは確かだ。
「ニア!外が……」
二日も模木は何も喋らなかった。操られていないとしたら大したものだ。あと何日もつか、いや、何を言って揺さぶりをかけるかと考えていたがカメラに映る外の様子がおかしい。
民衆が押し寄せて来ている。
出目川がSPKのアジトを突き止めたと中継をしていた。
「どうなってるんだ、ニア?これはメロの策略か?それともメロはキラに操られているのか?」
一般人にありかを知られるようなシステムしかとれていなかったのか、と最後に冷静に疑問をぶつけながら、Lが連絡を入れて来た。こいつ、白々と……。
「ニア、とにかく今はそこから逃げる事を」
「よく言いますね、キラのくせに」
「な、何を……!まだそんな事を言っているのか?そのままではこちらの模木も殺されるんだ」
「そのMr.模木が来た途端これです……」
我々のアジトにピンポイント、それもこのタイミングで来たと言う事はもうこのLがキラで決まりだと言ってるようなものだ。
Lじゃなかったとしても少なくともその中にキラは居る。日本捜査本部の皆にそう告げ、大量の金をばらまいて群衆の目をくらませ、上手く逃げる事に成功した。
十三日のルールと死神の存在はほんのりと。
feb-may.2014