harujion

Last Memento

57 観察
(L視点)

キラが殺す犯罪者は、悪人だった。罪を犯したものというのではなく、悪質な行為を行ったものというくくり。間違って人を殺してしまった人物や情状酌量の余地があるものは殺さない。だが火口は犯罪者ならば殺した。人間らしい感情が無いと言っても良い。キラと火口は違うことは明らかだった。
一年後に再び現れたのは、キラと同じ判別をしていた。だが、挑発や怒りなどは見えず、淡々と裁きを下して行くところはキラとは違う風に見えた。まるで、キラの教えのもとで人の名前を書き連ねるような無機質さ。
一年開けたのは、火口の死や、夜神月の監禁が開けてすぐだからということか。夜神月は大学に復帰し、夜神は受験で双方慌ただしい日常を送っていたであろうことで、休息を作ったのかもしれない。しかしキラとしては犯罪者の裁きを止めるようなことがあってはならない筈だ。キラの力を失い、再び得るまでに一年を要したということかもしれない。
キラは数年程ひっそりと、しかし着実に犯罪者に裁きを下していたが決して大きな動きはしなかった。また、新たに報道されて行く犯罪者には目もくれず、計画的にそれを行う。夜神であったのなら、当時イギリスで生活していた為に報道された人物を殺さなくても納得が行く。しかしキラ、夜神月の指示があればいくらでも新たな報道は知れただろう。それをしなかったのは、夜神月がキラではないからか。
夜神がイギリスから帰国し、日本で生活するようになってもその裁きの判断基準はかわらない。勿論、帰国と同時に報道された犯罪者を殺せばすぐに夜神に目がいく為控えたのかもしれないが。じっくりと、夜神を観察する必要があると思ったところで、今度は大きな動きがあった。
長官の誘拐と、おそらくキラであろう人物がそれを殺害したこと。
夜神にその情報は一切漏れていない筈であり、今の警察のセキュリティは突破できない。となれば、やはり夜神月に目がいく。このときから、本当のキラが戻って来たのかとも思えた。

犯人からの電話を切ったあと、すぐに夜神月は誘拐された妹の粧裕に連絡をとるが、数コールで電話には出た。しかし、夜神粧裕と共にいた夜神が代わりに連れて行かれたことを我々は知る。
相沢と夜神月で夜神粧裕は迎えに行き、事情聴取をした。勿論私もその様子を見て話も聞いた。
くんが、急に立ち止まって振り向いたら、外国人が二人程いて……ヤガミって言ったんです」
その言葉を聞いて、夜神は咄嗟に夜神粧裕を連れて走った。
夜神粧裕もも、兄や父が警察に居る事で、狙われる可能性が無くはないことは承知だった。そして狙われやすいのは女の方であり、より危険だということ。それを全て理解した上で、夜神は夜神粧裕のふりをして外へ出たのだ。
トイレに籠っているだけではすぐに見つかり、二人とも捕まる。幸い夜神の体格は華奢で顔立ちも妹と似ており、中性的な人物だった。運が悪ければ妹の方が捕まっていたが、それを阻止できたのは不幸中の幸いと言ったところか。
夜神は夜神月同様、冷静で精神力もある。年頃の若い女性が攫われるよりは大分マシだった。
だがしかし、一般人が巻き込まれたということは決して喜ばしいことではない。また、それを警察庁内部に通達すれば、またキラに情報が漏れて殺される可能性も高いと言う事で通達は控えた。
勿論私は、夜神がキラという可能性は捨てきれずにいたのであえて伝えることも考えたが、多貴村の情報は夜神にすら漏れていない筈の為、その案は捨てた。

ノートはみすみす渡してしまう事になったが、ミサイルで持ち出されててしまえばどうにもならなかった。帰って来た夜神の事情聴取を捜査本部の皆とともに聞いたが、臆面も無く、冷静に答えてくれた。
夜神は、犯人に覚えがあると言った。我々もおそらくそうだろうとは思っていた通り、メロだった。
三年前メロは夜神のアパートに一時的に世話になっていた。二日程寝泊まりし、数日間はホテルから通ったとの事だったが名前は教えていなかったらしい。呼び名はYou、「お前」で良いと適当に言った夜神をメロは律儀にユーと呼んだ。そして今回も私やメロに、ノートを手に入れた事を知らせるかのように、わざとチョコレートを食べたり夜神をユーと呼んだ。
夜神を最後まで妹の夜神粧裕だと勘違いしていたらしく、グルではないようだが、それもやはりメロに聞いてみないと確かめる事はできないだろう。

日本に帰国した夜神は、家族の強い勧めもあって仕事を休職させられ、暇を持て余していた。家に居るよりも働いていた方が気がまぎれると言っていたが、妹はやはり自分を庇って誘拐された兄に傷ついていたようで暫くは夜神粧裕を安心させる為に送り迎えに付き合い、家になるべく居るようにしたらしい。

「捜査本部は人を救うけど、Lは世界を救ってくれるんだね」

やはり彼と居ると調子が狂う。キラである筈の無い人物だということがひしひしと伝わって来る。もちろん正義感に溢れてまっすぐな夜神月とて、キラである筈の無い人物かもしれない。だが夜神月は優秀すぎるが故に完璧に嘘を隠し通しているように見えた。
夜神は心の底から素直で、"自分"の為に生きているような人物。だが冷静にあたりを見回し、人を推量る目は大したものだ。また、ちょっとした事では動じない精神力も持ち合わせており、やろうと思えば夜神月に劣らない力を発揮する筈だ。しかし、やはり自分の為に生きているので、そんなことにはならないのだろう。
再び大きく動き出したキラと、夜神はまた離れて行く。この三年間まるで機械のように人を消して行っていたキラがまた殺意を露にした。
キラによりアメリカ中の犯罪者や一部のマフィア、大統領が殺された。メロは大統領を脅し利用しようとしていたため、メロの仕業ではないことは一目瞭然。よって、キラだ。
そして、キラはどういう訳かあっさりとメロからノートを奪ってみせた。日本捜査本部にあったときは何もアクションを起こさなかったというのに。
悪に渡ったからと考えるにしても、その情報を知っている事がまずおかしい。
メロとニアによる情報提供で、死神らしきものがノートを取り返したことを知る。まさか、レムがまた現れたと言うのだろうか。メロもノートに触れていたと言うが死神の姿は見ていないことから、レムではない死神かとも推測する。ならば、キラのところに居る死神が来たのではないか。
そして、死神はキラの言う通りに動いた。あえてメロを殺さず挑発をしているのだ。

後日SPKのアジトが襲撃を受けた。それも、丁度模木がメロによりニアの元へ連れて行かれた隙にである。誰がどう見ても、このタイミングはおかしい。模木の尾行に行かせた相沢と伊出にはカメラと発信器は付けさせていた。つまり、この捜査本部から漏れたと考えるのが妥当か。
この襲撃でメロとニアを殺し、日本捜査本部は後で殺す。そして私も、死神の協力を得て殺す算段だろうか。もう、我々はキラの掌の上に居るとしか思えない。
夜神月の逃げろと言う言葉が白々しく聞こえる。

ニアは機転を利かせて逃げ、数日後再び連絡が入った。
「Mr.模木が心臓麻痺で死にました。遺体は数日中に日本警察に引き渡します」
その言葉に、全員が驚いた。実際に内部の映像はないが、皆が息をつめている様子は手に取るように分かる。心臓麻痺で死んだとなれば、キラと考えられる。ということは、確実にこの捜査本部の者が口封じの為に殺したとしか思えない。
ニアは、おそらくそれを狙って嘘をついている。確かにキラはSPKのアジトを襲撃させ皆を殺害しようとしていたが、こんな見え見えの口封じは絶対にあり得ない。
だが、今までぬるま湯につかっていたかのような日本捜査本部に冷水を浴びせられるのは良い傾向であり、私も夜神月の反応を見たいが為に、ニアの言葉は嘘だと進言するのはやめた。
この事で捜査本部にキラが居ると思った者の協力が欲しいとニアは募り、電話番号を教えて通信を切った。夜神月はその後すぐにそう思ったならそうして構わないと言った。これはLとしそう言わなければおかしいからかとも思ったがニアと通信を切ったあと夜神月として、私たちに言った。
「僕は、竜崎に戻って来て欲しい」
「なっ、何を言うんだい月くん」
夜神月びいきの松田は真っ先にとりなす。
「僕は竜崎に一度疑われているし、ニアだってそう思っている。自分が怪しいと認めるのは……癪だが。しかし僕はキラではない。誰かが僕を嵌めようとしている。いや、この際どっちだっていい。どちらにせよ、僕は仮のLをやる資格がない」
「……」
「竜崎、お前はキラに関する事で別件を捜査するといって僕たちとは別行動を取った、しかし進展はあったのか?何か浮上したのか?いつになったらそれを僕たちに教えてくれる?それとも最初から僕を疑ったまま姿を隠して様子を窺っていたのか?」
夜神月の声は、冷静に言葉を続けた。
「私は、夜神を疑っていました」
「……!どういうことだ!?が疑われるのは全て僕と竜崎が引っぱりこんだ所為だぞ……!?」
言いたい事は分かる。夜神は一度も自発的に捜査状況を尋ねてはこなかったし、今だって夜神には知り得ない状況になってきている。ニアもメロも、夜神の前に顔をさらしている。私の行動により、危険に晒されていると言う事だ。だからこそ、夜神への接触はもう私とワタリだけで行ったのだ。
「はい、ですからもう一切情報を与えてはいません」
への疑いは晴れたのか?」
「灰色と言ったところですね。月くんがキラだったのならくんを信頼して仕事を任せることも考えます」
「!……わかった、もう良い。それで、竜崎は戻って来てくれるのか?」
「戻るも何も、私は最初から捜査本部に居ましたよ」
「……」
「言うべき事があったら言っていますし、月くんのしている事が間違っていると思っていません」
そして私は今、ニアとメロがどう動くかも見ているのだ。
新たな事実や発見、状況の変化があるかを観察している。

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ニアとLの推理かくのたいへん……。
feb-may.2014