58 相沢
(相沢視点)
月くん、仮のLがキラであるはずがないとずっと思っていた。正義感に満ちあふれ、人を想い、ちょっと度を超えた弟好きの優しい青年だ。Lに匹敵するほど、そしてキラをやってのけられるほどに優秀だが、彼がキラではないと思いたい。だが、状況はそれを信じさせてはくれない。
自らLを下りたいと言っても、どうも釈然としないのは、ニアがこうして揺さぶりをかけたからだ。信用しきれない自分を恥じるが、その恥を忍んででもニアとコンタクトをとり、情報を共有し、真相をしりたい。模木の死は、それほどまでに私の背中をおした。
だが、実のところ模木は生きており、ニアを信用して良いものかと一考する。しかし模木が死んだと言わなければ私もこうして動く事はできなかった。やはり最初思った通り、とりあえず情報共有をし様子をみようと思い、ニアと対面することにした。
目隠しをとると、明るい色の癖毛の子供の姿。くんと同年代、いや、くんはあれで成人しているから、もう少し年下くらいの少年。Lの様に表情はぼんやりとしており、挙動が少し似ていた。
協力と言ってもまだ、全面的に信用したわけではないし、私は日本捜査本部の一員であり出来る事と出来ない事がある。ただ、ニアがにおわせた十三日のルールがもし死神による手助けのものだったならば、仮のLがキラである可能性がないわけではないと考えて来た。
「十三日のルールは嘘の可能性が高いですよ、他のルールには四十秒、六分四十秒、と数字が細かくしていされていたにも関わらず、持ち主の生死に関わることは十三日とおおまか。しかも実際に火口が死んだのは十三日目ではありましたが正確には十二日と三時間です。その後死神が姿を消していることも、怪しいです。きっとキラが目を盗んで殺せといったからあの時間に死んだのでしょう」
ニアの説明は、確かに頷ける事が多かった。
「しかし、死神が居たのならその場に居た全員を殺してしまうこともできましたが……キラの真意はわかりません。メロからノートを奪った際も、メロを殺しませんでしたし」
「それは私にもわからないが……」
「はい、この辺は一人言でした」
ニアは背を向けたまま、指で癖毛をいじる。
「夜神はLの命令と、自分の采配で情報を喋ってくれました……重要な事は喋りませんでしたが」
「ああ……くんは時々本部に遊びに来ていた程度で……」
「なぜキラの捜査本部に、たとえ夜神次長の息子といえど、一般人が遊びにくるのですか?」
「Lが友達になろうと言い出したんだ」
「……で、夜神が仮のLですか?」
「いや、違う。彼は今も一般人だ。それに今はほとんど捜査状況を知らされていない筈だ。誘拐された時にも仮のLは居ただろう」
「一応確認の為です。で、誰なんです?仮のLは」
「……それは言えない」
「仮のLは監禁された人物ですよね。夜神の話では二人くらいと大まかな数字でしたが」
「二人だ……当時さくらテレビで騒がれていた第二のキラ。その人物はもう捜査本部に居ない」
さすがに月くんの素性を喋ることは、たとえニアでもできない。今の時代は命に関わることだからだ。
「十三日のルールが嘘であれば……ほぼ嘘確定ですが……監禁された二人で決まりじゃないですか」
あのLが監禁した時点で決まりですけど、とぼやきながらニアはなにか箱を弄っている。しかし我々にとっては月くんは次長の息子であり、普通の青年だった。いくらLがそうしたから決まりと言うのは強引だったと答える。
ニアは十三日のルールが出て来るよりも前に、五十日以上監禁した二人を解放したわけを聞いた。もちろんこの理由はくんは知らないため、ニアが聞いて来ることは当たり前だろう。
理由としては手も動かせない状態で監禁してもキラの裁きは止まなかったから解放すべきと我々が詰め寄ったこと、次長に一芝居打たせたことを告げる。
「キラもたいしたものだ……監禁を利用して自分を無実にした」
ニアの話すキラの策略はとても凡人が考えつくようなものではない。ましてや実際に実行しようなんて思えないほどに難易度が高い。月くんの頭脳ならあるいは……と考えてしまってかぶりをふる。
「まさか、その容疑者自分から監禁される様しむけてたりしませんよね?」
「それはない!最初から最後まで自分はキラではないと言いつづけていた」
「……そうですか。では、Lの行動を読んだ、相当な頭脳の持ち主ということです」
結局月くんがキラである可能性が高くなってきてしまった。
しかしニアが言うほど、月くんは怪しい行動はしていないのは、私たちが捜査員が一番分かっていることだ。
ノートも奪われてしまった今アメリカに拠点を置く必要はない。いずれ日本に戻ることとなるだろう。そうなった暁にはもういちど第二のキラと疑われた、弥を調べようと模木と話し合う。月くんのことはまだ私たちは信じていたいし、大きな動きはできない。
捜査本部に戻って、私は正直に模木の生存とニアへの協力の話を全員が聞いている中でした。
どんな話を?と月くんが聞きかけたが、疑われている自分には言わない方がいいかと自己完結してそれ以上説明を求めなかった。
「十三日のルールのことですね。それが破れるなら月くんや弥を監禁した意味が無い」
しかしモニタの向こうからLが意見した。
「……ああ。しかし私は月くんがキラではないと確信を持ちたい。しかし竜崎やニアの言ってた事を考えると全くないとも言い切れない」
竜崎の言葉に肯定し、月くんには監視をつけ、弥について再捜査したいと申し出た。
「わかりました。大丈夫です。僕は今まで通りキラを追うだけです。海砂の方は日本ですし、キラも日本で活動しているので我々も日本に捜査本部を移しましょう。いいかな、竜崎」
「はい。そうですね」
そしてニアには日本へ戻ると告げて帰国準備をしていたある日、出目川をはじめとするキラ王国の幹部たちが死亡した。キラがキラを支援する者を殺した、と動揺が走る。直接命令を出していたのではなかったのか。それとも、第二のキラのようにまた別の者が現れたのか。
そして日本に戻ってすぐ、さくらテレビではなくNHNの高田アナウンサーが新たなキラの代弁者となることが決まった。
「月くんと同じ大学の人でしたよね」
「……ああ、少しの間交際していた」
もう生身では出て来ないかと思っていた竜崎は、日本の捜査本部に姿を現した。そしてまっさきに高田と月くんの関係を指摘する。月くんもあっさり認め、模木は当時見張りをしていたらしく後で確認をとれば確かな情報だった。
「だが……同時期に海砂の猛アタックを受け、すぐに竜崎の監禁、最終的には自然消滅です」
「気まずいですね〜それは」
松田が苦笑いを浮かべる。
「連絡先もまだ知っていますが……彼女はプライドが高いから僕を恨んでいるかもしれません」
「月くんが連絡を取れば彼女は喜ぶと思いますよ」
自信がなさそうな月くんに対し、竜崎は言った。確かに私も、その意見には賛成だ。女心というものはこの歳になっても分からないが、月くんのような青年に連絡をされて喜ばない女性は少ないだろう。ましてや一度好意を持っていたのだから。プライドが高いからこそ、自分から連絡できずに待っているという可能性もある。
「しかし、彼女はかなりの———キラ崇拝者です」
その場に居た全員が目をむいた。いや、竜崎は相変わらず無表情だったが。
「ならそれを利用しましょう」
ぽとん、と竜崎は角砂糖をコーヒーに入れた。
今、日本警察はキラに賛同する形をとっているが実際に何もしていないだけで、キラへの行動を示しては居ない。そのため、どう動くべきか指示を仰ぐのだと言う。キラを崇拝する彼女に取っては嫌な話ではなく、警察への指示を待ち彼女を通してキラに近づく、という案だった。
「まさか竜崎、僕を高田さんに近づけさせるつもりか?」
「はい。やってくれませんか?」
「海砂のときも言ったが、人の気持ちを利用するような行為は———」
「何も恋愛しろと言っている訳ではありません。友人として親しくしつつ情報を引き出すことは人道に反しません。高田清美は今のところ代弁者であり、キラが捕まった後でも月くんと高田清美は友人として仲良くし続ければ良いのです。利用しているのかしていないのかは、事件後も関係を継続するかしないかであり、月くん次第です」
竜崎は上手い事月くんをやりこめて、高田への接触をさせることにしたが、はたしてキラと疑われている月くんを動かしていいのだろうか。やはり竜崎のやる事は大きい。
しかし月くんにしか出来ないであろうことは我々も分かっている為、盗聴器やカメラ等を付けることを約束して準備に取りかかった。
月を疑うには月は白すぎるような気もするけれど……。
feb-may.2014