61 女神
(清美視点)
キラは素晴らしい考えを持っていた。
私は、そのキラの言葉を世界中に伝える代弁者。いちアナウンサーとして、いちキラ信者として、己の出来る事を全うしようと思う。
そんなある日、大学を卒業してからほとんど疎遠になっていた夜神くんから連絡がきた。たしか彼は刑事になったと聞いたけれど、それ以外は全く知らない。
今更という気持ちと、ようやくという喜びが、混じり合う。刑事として会いたいと言われて少し落胆もしたけれど、拗ねるほど子供ではないし、このタイミングからしてそうだろうとは思っていた。
内容によっては協力しかねるけれどと前置きをして、話を聞く事にした。
「高田さん、久しぶりだね」
「ええ」
大学を卒業して一年以上姿を見ていなかったけれど、あまり変わりはない。しいて言うなら、より魅力的になったような気がする。先生とは似ても似つかない容貌だと、ほんの少し顔を眺めてしまった。
「どうかした?」
「いえ、何でも無いの」
先生と関わりがあることはあまり言いたくはない。なんだか夜神くんのことを気にしていたようにも聞こえるし、他の男の話をして気を引きたがっている女と見られるのも嫌。
夜神くんは、大学時代キラを捕まえるべきだと言っていたけれど、警察に入り世界が良い方向に変わったことで、キラの素晴らしさに気づいたらしい。そして、キラに協力すべく警察として、夜神月として動いていると言った。
「それに———大学時代高田さんともっと仲良くしたかったけれど、できなかった。今思うと子供だったのかな。君は人として素敵な人だったから、尊敬していたんだ」
「夜神くん」
「よければ、また友達として仲良くできないかな?これからの世界の話も、君となら同レベルで考えて行けそうな気がするんだ」
あくまで友人として近づいてきたけれど、私はそれでも良いと思った。夜神くんは相変わらず他の男性の様にがっついていなくて、素敵。
夜神くんとの密会は数回行われたけれど、頻繁ではなかった。
でもそれで良いと思った。多く会えば、私は多くを望んでしまいそうな気がした。
「先生」
「高田さん、お久しぶりです」
月に一度、私は先生と食事をしている。代弁者となってからは難しくて深夜になってしまうけれど、先生は快く引き受けてくれた。
私は先生との事が知られたくなくて、わざわざ先生に携帯電話を一つ渡していた。これは私のものと同様、何処にも情報が漏れないものであり、私との専用の携帯だった。特別な感情は無いけれど、私と先生は同年代の男女であり、そこを勘ぐられるのは避けたかったからだ。
「月に会いました?」
言い当てられて、フォークを握る手に力がこもった。
「……夜神くんに聞いたんですか?」
「いいえ。この間のニュースの時、高田さんが意見を言っていたから……誰かの差し金かなって」
「それだけで?」
「誰かしら接触して来るとは思っていました。警察か、反キラ組織か、キラ。接触が早く効果もあるから知り合いだろうと思いました」
先生の洞察力に瞠目した。今まであまり鋭い事を言ってはこなかった。いや、気づいていたけれど黙認しているような態度だった。けれど此処へ来て、言い当ててみせるのは何故。
「月には……キラとの通信手段を問われます。まあ、上司からくるとでも言っておいてください……今後は高田さんの携帯にキラから連絡が来ますけど」
「え……なぜ、先生がそんなことを……」
「私がキラの使いの者だからです」
からん、とフォークをテーブルの上に落としてしまった。
「清美、惚れた男と、崇拝する神、どちらをとる?」
「———っ」
「女でありたいか、それを卓越した、女神になるか、選べ」
先生の喋り方は変わった。表情は消えた。でも、恐ろしいとは思わなかった。
眸の奥は澄み、優しく甘みを醸し出し、美しい。なんてことのない普通の黒目なのに、こんなにも綺麗。
彼は、手を差し出した。
「世界を良くして行く為には、神だけではなく、女神が必要なんだ……貴方は———希望だ」
ほんのりと、目が笑う。そして、薄い唇は少し弧を描いた。
その白い指先に、私の指が触れた。そして、絡めとられる。するりと、男性にしては滑らかな肌触りが私の手をなぞる。きゅっと握られたと思えば、先生は指先に口付ける。それは、賞賛のキス。
「良い子だ」
二つ年下でありながらも、彼がぐっと大人に見えた。初めて会った時から、年下という気はあまりしていなかったけれど、やはり彼は、私が先生と呼ぶに値する。
学力や財力ではなく、人間性。心が清く、正しいのだ。
そこから、キラと先生と私の、新たな世界への礎は築かれていった。
ちょっと芝居してます。
feb-may.2014