62 永久
(月視点)
僕はまたキラとして疑われはじめた。いや、最初から疑われていたといった方が正しいだろうか。五十日の監禁を終え、十三日のルールによって僕は無実を証明したが、今やそれは覆された。
火口が十三日で死亡したのは確かだが、その時刻には違和感があること。それから、死神が姿を消したこと、おそらくキラに協力していることをふまえれば、僕に都合の良すぎるあのルールはおそらく嘘。
日本に戻って来て竜崎はまた姿を現し僕たちと一緒に捜査をしたが、どうも消極的だ。
あえて僕を動かして様子を見ているかもしれないが、だとしても、少し竜崎らしくない。
疑問をぶつけてみれば、数秒黙ってからぽつりと零した。
「順番待ちです」
「順番?」
「はい、今ニアとメロが色々やっているので、私はそれを邪魔しないようにしています」
「確かにニアはやっているが……」
「私は負けず嫌いですが、人の邪魔になるような愚かな行為はしません」
おそらく自分はニアの策略の中には含まれていないだろうとまで言った。確かに今竜崎はほとんどLとして動いていない。そしてニアも竜崎が動かないと思っているのだろう。
「ニアやメロの作戦が終わって、もし失敗だったら今度は私の番です」
「わかった」
失敗、というのは深刻な事態ではあるが、僕たちは何度もキラに敗れている。そして何度も対抗してきている。だからこそ、次のことを考えられるのだ。
「それで、高田清美とはどうですか」
「どうも何も……見ているだろう?キラとの通信手段程度しか分かっていなしい、送信元は割り出せない」
「男女の仲にはなりそうですか」
「……ならないよ」
「ほら、焼け木杭に火がつくと言う言葉がありますし」
「大学時代付き合っていた事は確かだが……当時から恋愛感情というものはあまり抱いてなかった」
「———月くんってもしかして不能なんですか?」
他の捜査員たちは顔を背ける。僕は返事をする義務を感じないので辞めた。
不毛な言い合いになることは目に見えている。
高田さんの気持ちをもてあそぶような事はしていないし、それをしてしまえば間違いなく本当に高田さんに申し訳が無くなる。竜崎の言った通りあくまで友人として、捜査協力をしてもらっているだけだ。また、捜査がなくとも友人であり続ければ騙していることにはならない。それに、高田さんとは友人でありたいと本心で思っている。
なんとか罪悪感を押さえて、高田さんとは会っていた。
日本に来たと言うニアには、高田アナウンサーには自分が接触して情報を引き出していると言った。もちろん、僕が捜査をしていると言うことで、まわりも信用してくれるのではないかという思いもあったし、ニアはきっと僕の素性も分かっているだろう。
SPKもNHNに入り込む努力はすると言い、メンバーは四名、日本に入っていると報道させるように言って来た。僕はそこまで高田さんに発言権はないが、警察がつかんだ情報としてキラにささげると言えば報道はされる。
ニアは近いうちに顔を合わせる事になるだろう、と僕を挑発するようなことを言った。しかし僕は顔を合わせてもニアを殺すなんて発想は持ってない。
むしろ顔を合わせて、僕がキラではない事を証明したいくらいだ。いや、しかしなにものかが確実に僕をキラに仕立て上げようとしているそぶりがある事は間違いない。皆は僕を一番に怪しむが、僕本人からしてもらえば怪しいのは竜崎、もしくはニアかメロなのだ。
数日後、高田さんのボディーガードに元CIAのハル・リドナーという人物が加わった。SPKの一員だということが一目瞭然だった。
また、ニアは僕と高田さんのやりとりは何処まで監視されているのかを相沢さんに聞いたが、カメラも盗聴器も付けている事をちゃんと伝えた。もちろん本当につけているし、竜崎も相沢さんもきちんとそれを見ている。僕がキラだという証拠はひとつとして見つからない筈だ。キラではないのだから。
そして、僕の方は特に進展もないまま、年末を迎えた。新年は帰れそうにないと母に連絡を入れようとする前に、から珍しく電話がかかって来た。仕事中は基本的に連絡をとらないから、着信履歴に首を傾げる。
「もしもし?どうしたんだ?」
「父さんが……」
前も、はこんな電話をかけてきた。このとき父は心臓発作で倒れたと言う知らせだった。今日は、年末くらい帰って来いと言うことだろうか、いや、父さんのことだから激励か、だがそうだとしたら自分から掛けてくる筈だ。
まさか、
「父さんが倒れた」
「!!!」
がたりと立ち上がる。周りの捜査員たちも、僕を見上げて、どうしたのかと訝しむ。
父さんは心臓発作で倒れたと言う。そして、今処置中だ。
僕はなんとか冷静に病院の名を聞き、電話を切って捜査員全員の顔を見回す。
「———父が、……心臓発作で倒れ、病院へ搬送されました。相沢さん一緒に来てもらえませんか」
単独で行く事はできないと判断し、相沢さんに向き直る。皆驚いてはいたが、すぐに許可が出る。そして、二人で静かに車を走らせた。
病院に到着し、の言う集中治療室の方へ向かえば、廊下の椅子にはぐったりと座っていた。
「!」
僕の声に顔を上げるなり、くしゃりと歪めた。
「月……さっき————息を、……」
肩をおとし、俯くの言葉に、僕は走る。病室では、父が眠っていた。もう目を覚ます事の無い、永久の眠りについていた。
最近見ていなかったが、随分やつれて、随分老けた。粧裕と母は身を寄せ合い涙を流し、病室の外のは一人で悲しみに暮れている。相沢さんは、出入り口のところで立ちすくんでいた。
総一郎さんは心労で寿命縮まってると思いまして。
feb-may.2014