66 カウントダウン
父の死後、Lやワタリは生きていることを確認して安心した。もちろん一番の優先は月や家族だけれど、俺が生かした彼らの存在はイレギュラーであり、これから死ぬかも、俺の邪魔をするかも、わからない。けれどどうやらキラ以外に脅かされるような存在ではなさそうだ。
父のは、もうキラが現れたときから、いや、むしろもっと前から決まっていた寿命だったのかもしれない。もちろん俺の所為であり、力不足を痛感したけれど。ここまで来たら終わりに向かって歩くだけだ。
回避する方法はいくらでもある。歩くのを辞めれば良い。けれど、おそらくそれをすれば俺の心臓は止まるだろう。
そしてこのまま歩き続けても、結局俺の心臓は止まる。ノートを拾ったときからすでに、リュークに奪われているようなものなのだ。
迷惑な死神。と心の中で悪態をつく。
その迷惑な死神のお陰で全世界に俺が迷惑をかけているのだけど。
魅上には偽のノートを作らせ、十二月に入る前から清美と連携をするように指示してある。また、清美にはあくまでも月に従い多少自分の意見を言っても構わないと教えた。やはりキラ崇拝丸出しの意見を言っているが頭に全く入って来ず流れて行った。
海砂は紅白に出場しないためニアに誘拐されたかは分からないけど、多分されてるとふまえよう。
俺のやる事は全部もうやった。指示も全て出し尽くした。でも、Lやワタリがいて、俺という最もイレギュラーな存在が居る。世界は当たり前の様にまわって行くけれど、やっぱり俺には未来がわからない。
「怖いなあ」
今までで一番怖いかもしれない。息をひそめて機会を待つだけではなく、自分で色々動かなくてはならないからだ。
俺の呟きに、リュークはにんまりと笑った。
「珍しいな。見つかるのが怖いのか?」
「そうだね、見つかるのも、捕まるのも、死ぬのも———怖いなあ」
「なんだ、怖いのか」
「俺を何だと思ってんの」
ため息を吐いてリュークを睨め付ける。
「てっきり俺は兄貴を死刑台に送ってやりたいのかと思ってたんだが」
その言葉に、ぶっと吹き出す。そう見えるのか。でも、確かにそうだった。今月は大犯罪者として疑われている。全員の目が、彼に行っている。Lだけは俺を観察しているかもしれないけれど、この物語自体が終わるまで手は出して来ないと思う。
「家族は大事にしてるじゃない」
「あ?あれ大事にしてんのか?お前の感情はわかんねえな」
リュークは俺がぼろぼろ泣き出した事すら、嘘だと思っているようだ。どれだけ酷い奴なの。
俺はまだ、人間でいたいよ。
新年を迎え、粧裕の成人式が終わった。月は相変わらず仕事で帰ってこられなかったので、母に俺と粧裕のツーショットを撮ってもらって写メを送ってあげた。次の日には、待ち受けにするよと返信が来て、粧裕と一緒に相変わらずだなと笑った。
数日後、清美を通して魅上からノートのすり替えを確認した旨を知らされて、ちゃんと物語が進んでいる事をにほっとする。
二十八日のYB倉庫はおそらく決まりだ。清美には魅上と落ち合う場所を伝えさせた。
二十二日の朝には清美は誘拐され、一味の一人である身元不明の男性は射殺された。
その日の午後、清美の名前をノートに書いた。遺体の発見は一体ということで、おそらくメロは逃げただろうと判断する。生き延びたなら、約束の倉庫に来るのだろう。Lも、ワタリもくるのだろうか。彼がニアやメロの前に姿を現すのかは確証がないけれど。できれば全員が居ればいいなと思う。
二十八日の昼、魅上と久しぶりに合流した。ノートの入った鞄を大切そうに抱き、俺に会うなり恭しく頭を下げた。
そして一緒に倉庫へ向かう。
一時半をすぎた頃、車が数台停まった倉庫の前に到着した。出入り口は一つだけ、そこからのぞき、全員の名前を書くというのが魅上の仕事だった。けれどその前に、キラの名前を教えてあげた。
「夜神月が、あなたの求めていた神様です」
「わかりました」
重たいドアを少しあけて、中をのぞく。そして、床にうずくまって名前を書いた。
「削除……」
上から見下ろすと、どうやらメロも、Lも、ワタリも来ているようだ。月以外の全ての人物の名前を書き終えた。
「うん、いいね」
リュークはくくくくと笑っていた。
俺は開いたドアの隙間から漏れて来る、ノートに細工をしたという話を聞く。
「魅上照、もしよかったら中に入って来てくれませんか」
魅上は急に呼びかけられ、目を見開く。そして俺の意見を窺うので、掌を出して促した。
「神———仰せの通りに……35、36、37、38、39———」
俺は中をのぞいていないので、魅上の声しか聞こえない。
いきなりクライマックス。マットはごめんね。
feb-may.2014