harujion

Last Memento

Oculus 04

養護施設を出る事になった十五歳の頃、キラは日本でひっそり誕生していた。
日本語は覚えさせられていた……というかもともと知っていたので、日本で捜査を始めると言うLについて行く事になった。

キラになった月は、もう俺の兄ではない。
母だった人は知らない女性で、父だった人は同じ捜査をする刑事、妹だった人はただの一般人となった。
愛着がない訳ではない。でも、俺がどんなに愛着をもっていようと、彼らが俺を知る事はない。ただし、死んでほしくはないと思う。
Lもキルシュにも、死んでほしくない。
だから俺の知っている未来には絶対にさせたくなかった。

リンド・L・テイラーは俺の知っている通りに死んで、Lはキラを挑発する中継を流した。それを見ていた俺は、やっぱり月で間違いは無さそうだなと、こっそり肩をすくめた。
秘密裏に日本へ投入したFBIの捜査官が全員死亡し、日本捜査本部と対面することになっても、俺は人前に出るように言われなかった。
ワタリとLが対面していある間、俺はこっそりと警察庁に向かった。全身黒尽くめの女性を確保したかったのだ。名前は南空ナオミ。前に俺が言葉を交わす事無く殺した人だ。
別に、罪悪感があって彼女を助けたいわけじゃない。俺はいまL側であり、彼女は重要参考人なだけだ。

今は捜査本部に人が本当に誰も居ない状態であることを俺は知っている。なおかつ彼女と月がタイミング良くくることもだ。確か相沢が戻ってくるまでそうかからない。
俺は警察庁に入ろうとするナオミの肩を軽くつっついた。
「あの、英語、わかり、ますか?」
「え、あ、……ええ」
なるべく片言に喋ると、彼女は拍子抜けしたように頷いた。すぐにでも警察に行きたい所かもしれないけど、人が良ければ俺の相手をしてくれるだろう。
『道に迷ってしまって……警察いったらすぐ教えてくれると思ったけど、受付の人英語わからないみたいで』
あははと笑うと、こういうときは警察庁じゃなくて交番に行くのだと教えてくれた。
その時、月が本庁に入って行くのを見えたけど、すぐにナオミに視線を戻す。
『用事あったんですよね、ごめんなさい。でもすぐ済ませるから』
両手を合わせるとナオミは優しく笑って、外に向かって一緒に歩いてくれる。
適当な行き先を告げると、彼女は懇切丁寧に駅への行き方と、路線や方面などを教えてくれた。指をさして、あっち?と一回くらいとぼけてみたりして時間をかけたら月はあっさり帰って行く。
それとなく向こうを見て誤摩化しながらのんびり頷いた。

月が居ないからあとはもういいだろうか、と思ったけど出来れば相沢が戻って来るころまで引き止めたい。人が居ない本部に行かせても仕方がないから。
『あなたは警察に何しに行くの?』
『え』
『貴方も迷子?』
何も知らない子供みたいな顔をして聞いてみた。
『違うのよ、捜査の役に立てればと思って』
『へえ!かっこいいね』
しゅんとしたナオミに対する俺は、まるで空気の読めない馬鹿みたいだった。
途中で相沢が本庁に足早に戻って行くのが見えたので、俺は彼女の肩をぽんぽんと叩いた。
『がんばって捕まえてね!ありがとう』
俺は駅の方に足を踏み出しながら、ナオミに手を振った。

その後待機場所に戻ってキルシュとLからの連絡を待ちながら雑務をこなしていた。ナオミは無事に相沢に相談を出来たらしく、後日報告が上がって来た。その流れで夜神家と北村家に監視カメラを取り付ける事になったから俺は早速カメラの手配をした。

留守中とはいえ我が家に入るのが懐かしい。家宅捜索をしろとも言われているので色々物色する。月はまた同じ所にグラビア雑誌を隠していた。それから、机の引き出しの裏には小さな穴があいていた。興味が膨らんだのでボールペンの中の芯を差し込んで二重底を持ち上げた。ノートと、薄いビニールに入ったガソリンまで発見した。ノートの中を見ようかと思ったけど後々痕跡を探されたら嫌なので、手の甲で触れるに留めた。多分今後リュークが見えるんだろう。大丈夫、知らんぷりは得意だ。
二重底もボールペンも元通りにして、カメラをしっかり隠した。部屋のドアノブの件は知っていたけどあえて全部戻しておいた。

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