Oculus 05
俺は基本的にキルシュと一緒に別室で待機している事が多い。キルシュが呼び出されたときは俺だけで留守番をする。
最近の仕事は、北村家と夜神家の映像を纏めて整理したり、カメラの具合をチェックしたりすること。
五日ほど監視したあとはまたカメラの回収に忍び込んだ。何故こんな泥棒まがいなことをしてるのかと遠い目をしかけたが、大量殺人犯になるよりはマシだと気づいて我に返った。
監視ではやっぱり月がキラである証拠は出なかった。
次にLは東応大に入学すると言うので俺は書類の準備に奔走し、キルシュの凄さと多忙さを思い知った。
入学式はこっそりなら見に行っても良いと言うので目立たない格好で会場に入る。月とLが並んで生徒代表の挨拶をしているのがなんだか面白かった。俺は前にこの光景はみられなかったし。
その数日後、俺はワタリとして留守番をしていた所に松田から通知を受けたのでかけ直した。電話のときの声は自動的に変えてあるので俺だろうがキルシュだろうが、皆ワタリと認識しているのだ。
松田からの報せは、総一郎が倒れた、ということだった。俺はその電話を切ってすぐにLに連絡を入れる。きっと今、月とLが話しているところなのだと思う。
「竜崎、夜神さんが倒れました」
『…………』
受話器の向こうから少し息をのむ音が聞こえた。それからもっと遠くで月の声もした。
すぐに電話は切られたので、一応メールで総一郎の入院している病院のデータを送っておいた。
第二のキラがさくらテレビで映像を流したときもホテルに待機し、数日後には海砂の監禁の準備をするように指示が来た。捜査状況は知ってるけど、この目で見てないから酷く遠くに感じる。
海砂の家宅捜索をしてもノートを見つけることができなくて、彼女はいつのまにか記憶も失っていた。
それから月と総一郎も監禁したので俺の仕事はささやかに増えた。
三人の監禁をしている間にもLの指示で作らせた高層ビルの建設がすすみ、八月には拠点を移した。俺は基本的に最上階の部屋に引きこもって監視と仕事と諸々の手配をこなしているが、同じ拠点になったからかキルシュが時折部屋に訪ねてくる。もっぱらご飯の心配とかなんだけど。
ヨツバグループの件で協力者にアイバーとウェディを呼びだした日、松田からのヘルプが入った。場所はヨツバの本社だ。
俺は下の階にいるLに連絡を入れる。
「竜崎」
『どうした?ワタリ』
「松田さんがベルトで緊急サインを送って来ました」
『………………どこから?』
少し呆れた声で問う。
「ヨツバ東京本社内のようです」
そのまま通信を切った。俺は全部屋の監視カメラ映像が見られるのでそこから先はマイクをオンにして見ている。
『松田の馬鹿……』
悪態をつく音声も、しっかり拾った。
俺は月の監禁時、時計からノートの紙を奪った。その所為なのか、火口は確保されても殺されることはなく、レムは十三日目に火口を殺したことで海砂の寿命を延ばした事になって砂となった。正直一か八かの賭けみたいなものだった。
レムがLとキルシュを殺しても意味がないと思わせなければならなかったのだから。
「ちょっといってきます」
「!?どこへいくんです!」
火口が死んで行くところをモニタで確認して、隣に居たキルシュを置いて部屋を出た。俺はもともと月のノートに触れて居たので、リュークの姿は見えていた。そのノートにつく死神がレムになったら、レムのことが見えるようになっていた。
キルシュもLも俺にノートを触れさせることはなかったから、こうやって動くことで俺が画策していたこともバレてしまうのかもしれないけど、この際仕方がない。
レムが監視カメラのない部屋に入って行ったのを俺はしっかり見ていたので、カードキーでその部屋に入る。灰みたいな砂に手を差し込んだらノートは残っていたので、それをとりだした。
一番に部屋に飛び込んで来たのはLだった。多分キルシュが伝えたのだろう。当然Lと月は手錠で繋がっているので、彼も居た。しかも、他の捜査員たちもやって来た足音がする。
「!」
「勝手な事をしてすみません竜崎、でもすぐに確保しなければと思ったので」
Lは俺を抱き寄せて顔を隠す。その行動は、月を疑ってのことなのだろう。
それからLは、俺が持っているノートを見てはっとした。
「これは……」
「竜崎、彼は誰なんだ?」
レムの砂と、無地のノートを見てLは口を開いたけど、総一郎が俺の存在に疑問を呈した。
「彼はワタリです……もう一人の」
「え!?」
松田の驚く声が背後でした。Lは俺の顔を見せるつもりはないようで、後頭部の掌は強く押し付けられている。
「シニアの手が離せない時にはジュニアが対応しています」
「な、なるほど」
「私は彼の存在を皆さんにおしらせするつもりはありませんでした。その方がどちらも安全だと思ったので」
ため息が項に零れたので、小さい声ですいませんともう一度謝った。
「僕は知らない……誰なんだ?」
かすれた甘い声が、戦慄くように震えていた。
その質問の意味がわからず、声の主であろう月を見ようとしたけどLはそれを許してくれない。
「夜神くん?」
「……前は、居なかった」
Lも意味が分からず首を傾げている。前は居なかった、なんて当然の言葉だったけど、俺は違和感を感じた。
不意に緩んだLの腕から抜けて、月の方を見る。ノートの記憶がないからなのか、兄にそっくりだ。
呆然として跪いている月の前に立ち見下ろしても、月はただただ俺を見上げていた。