harujion

Mel

Honey 01

俺は、女として生まれた。生まれたときからなんとなく違和感は感じていたのだが、如何せん赤ん坊の手足で身体をまさぐることもできず、半年くらいは自分が女の子だという事に気がつかなかった。
気づいた時、それはもうびっくりしたし、ちょっと落ち込んだ。

母は俺をメルと呼んだけれど、本名はという男のままだった。戸籍は見ていないけれど、俺がだということは幼いながらも知っていた。というか、だったから女の子だと気づくのが遅れたと言っても良い。何故にしたのかは分からないが、結局母は俺をメルと呼ぶので大して気にしていない。

メルと呼ばれる度、あたたかな愛を感じた。しかし、幸せな日々は長く続かなかった。一歳になった頃、俺は静電気を発するようになったのだ。その異常な所為で母は段々と病んで行った。俺に暴力を奮った事は無いし、憎しみの視線を向けた事も無い、とてもよく出来た人だったけれど、心の弱い優しい人だった。
体調が悪かったりするとすぐに母に静電気を当ててしまい、俺たちはいつしか触れるのを恐れ合うようになった。

触らないで、と先に言葉にしたのは俺の方で、母はその言葉を聞くと酷く悲しんで泣いた。俺の拒絶の言葉に、喜び、傷つき、苦しんでいた。
だから母と俺は別れた。
母はこれから先どんなプレゼントもしてあげられないからと、小さいけれど本物のダイアモンドのピアスを俺にくれた。それから、母の香りが残る蜂蜜色のブランケットを巻き付けて、孤児院の前でキスをして別れた。

迎えてくれた大人は、決して良い人ではなかったし、俺も良い子供ではなかった。けれど衣食住を与えてくれる程度には責任感があった。ただし一緒に住む子供達は、電気体質の俺を敬遠したし、時にはいじめようとした。もちろんそのときは防衛本能で電気が出るので俺よりも加害者の方がダメージを受ける。一ヶ月もすればほとんどの子供が俺を遠目から見るようになって、寄ってくるのは孤児院の問題児仲間である双子くらいだった。

ナルとジーンと俺は、四歳の頃デイヴィス教授に引き取られてアメリカからイギリスに引っ越した。メルと呼んでくれる家族が増え、俺の異常な電気体質も解明されつつあり、そこそこに幸せな人生を歩んだ。
八歳になったあたりで、俺はまどかとリンを紹介された。まどかはナルとジーンにゴーストハントを教えてくれるらしい。リンは、俺とナルに気功法を教えて電気やポルターガイストを抑える訓練をしてくれる、大学生だった。

リンは最初のうちは小さな女の子である俺に人見知りをしていたが、俺は慣れなければならないほど偏屈ではないので徐々にリンの堅さもとれて来たように思う。そもそもリンは無駄口は叩かないタイプなので、俺が時々漏らす雑談にこたえたりするだけなのだが。
「足を閉じて座りなさい

リンの溜め息まじりの言葉に、きょとんと顔を上げる。何の事だか分からず、自分の足を見る。
そこでやっと、ああと納得して、両足の太ももをぴたりとくっつけた。
下着が見えていた訳ではないが、見えそうなくらいにぱっかりと足を開いて座っていたのだ。
しかし足を行儀良く閉じたままにしているのには限界があったので、少し膝を開いて、足首をクロスさせた。それでもリンはそっと溜め息をつく。
「しょうがないでしょ、ルエラがスカートしか履かせてくれないんだもん」
「そう言う問題じゃありません」
女の子の服を買うのが楽しいのか、ルエラが俺に買い与えるものはスカートばかりで、俺のクローゼットにはジーンズが一本もない。ショートパンツやキュロットならあるのだが、そればかり履いていられないし、ルエラの希望通り可愛らしい格好に身を包んでいる。これは結構な譲歩だと思う。
「スカートなんだから、ちゃんとするべきですよ。下着が見えてしまいます」
そもそも貴方の普段の振る舞いはスカートを気にしていなさすぎです、とぶつぶつ怒られる。そのお小言は耳にタコが出来る程聞いた。
面倒くさいなあと思いながら、椅子から降りてリンの傍に寄る。そして、膝の上に向かい合って股がると、リンはぎょっと驚く。膝の上になんて普段座らないから、この反応は仕方がないのだが、傍から見てると俺がとても甘えているように見える。

「これなら足を開いて座っていても下着見えないよね」
「はしたないですよ。それに人に見られたら変な噂が立ちます。教授にご迷惑がかかるでしょう」
すぐに脇に手を入れて持ち上げられたので、大人しく地面に足をつけた。
「別にリンがロリコンだなんて思う人居ないと思うけど」
「ロ……!……っ」
「普段からおんぶもだっこもされてるし、その時足とかお尻とか触るし」
「……」
思い出したのか、リンは苦い顔をする。勿論リンは子供に興奮なんてしないので、いつも慣れた手つきで俺を抱き上げたりする。さっきだってあっさり脇に手を入れて持ち上げたのだ。
今更膝に乗せていても、何とも思われない程リンは俺係として認知されている。
しいていうならナルとジーンがリンに甘えっぱなしの俺を窘めるくらいだろうか。
「もっとしっかりしてください……」
はあ、とリンが溜め息を吐き出した。

後日、トイレから戻って来た俺はリンに大層大きな溜め息をつかれるはめになる。
何故かと言うと、パンツをはく時にスカートを巻き込んだ為にスカートが捲れてパンツを見せながら研究室に戻って来たからだ。口に出すよりも先にリンが俺のスカートを引っ張ったので、ようやくパンツと地肌の間にあった布がスカートの裾だということに気づいた。
「ズボンだったらこうはならなかった」
「気をつけて過ごせばこうはなりません」
パンツを披露しながら廊下を歩いて来たのかと若干後悔しながら、遠い目をしてズボンに思いを馳せた。

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Nov.2014