Honey 02
(ジーン視点)
僕の妹は、女の子らしくない。
ルエラが可愛らしい服を着せるのが好きみたいで、見た目ばかりは女の子らしいのだけど、椅子に座るのに足を閉じないし、あくびは口を隠さないし、時々下着姿のままで歩いてる。
今も、下着のまま濡れた長いプラチナブロンドの髪を広げてソファにだらりと体を投げ出していた。申し訳程度のタオルを肩や顔にかけているけれど、一番隠すべきパンツは丸見えだ。
出逢った頃、二歳や三歳の時は仕方が無いと思ったし、特に何も思わなかったけれど十歳になる女の子がパンツ丸見えっていうのは、見ていいのかどうか躊躇う。あまり気にしないようにしながら肩を揺さぶり起こすと、へろへろした動作で起き上がった。
肩にかけていたタオルをとって、腰にかけてあげてから、ようやく僕はほっとする。
「ちゃんと着替えてから寝なよ、メル」
「ああ……うん」
ごしごし、と目を擦りながら、あぐらをかいて座る。うん、やっぱり女の子じゃないよ。
タオルがめくれてパンツが若干見えてるし。
「もうすぐナルがお風呂出て来るよ」
言外にナルに怒られることを示唆すると、うわっと嫌そうな顔をした。それならちゃんとしたらいいのに、メルは欲望に忠実で、いつでもどこでもやる気が無ければだらだらしている。もちろん、用があるときはきっちり一人で済ませて来るあたり、何も出来ない子供じゃない。やる気の問題だ。
遠くで、がた、という音がした。それはお風呂場のドアが開く特有の音で、ナルが出て来たのだと分かる。
「ほら、もう出ちゃったよ」
「あー」
やる気の無い返事に、僕は肩をすくめる。
メルはのっそりとソファーから降りて、タオルを手に持った。僕の気遣いが儚く散った瞬間だ。
視線は上の方に向けて、なるべく下半身は見ないようにしておく。リビングからぺたぺたと歩いて出て行ったメルにほっとしたのだけれど、二階へ行く階段をあがるには洗面所の前の廊下を通るため、着替え終えたナルにばったり会って怒られている声が聞こえた。
「服を着ろ!」
「ナル髪の毛乾かしてない……」
律儀に立ち止まって、ナルのびしょぬれの髪の毛に対して注意しているけどメルが一番だらしないので、人の事は言えない。ドアから顔をだしてそのやり取りを眺めていると、ナルが僕に気がつき睨んだ。
「なんで服も来てないんだメルは」
「僕に言われても」
「ほら、ナル髪の毛乾かさなきゃ」
手に持っていたタオルをナルにばさりとかけてごしごし擦ると、ナルはぎょっとする。大丈夫身体は拭いてないやつ、と言っているがそう言う問題じゃない。何故メルは人に対しては世話を焼く癖に、自分のことに関しては気にかけないのだろう。
「僕はすぐに乾く。お前の方が濡れているだろう」
「はいはい乾かしますよ」
ナルがメルの手を掴んでタオルから逃れるように顔を上げた。するとあっさりと諦めて、メルは洗面所に向かった。
「その前に服を着ろ」
「パジャマは部屋……。服を着に行ったらそのまま寝る自身がある」
「横着しないの。僕が脱いでる間に服着てきて、シャワー浴びてる間に乾かせばいいじゃないか」
「見ないから後ろで脱いでていいよ」
くい、っと親指で後ろをさすメルに、僕とナルは溜め息しか出ない。女の子ってこんなにだらしないものだろうか。いや、メルは特別だらしない。男だったとしても結構だらしないと思う。
ナルと僕がなんとか説得して、メルは溜め息をつきながら階段をぺたぺた上がって行った。僕はほっとしながらナルと場所を交代して洗面所に入った。
シャワーを浴び終えてドアを開けると、丁度メルがパジャマを着て立っていた。
「わぁ!メル!?」
咄嗟に声をあげて素早く浴室に戻った。驚きのあまり心臓がドキドキ言っている。
メルは何も言う事無く、洗面所で髪を乾かし始めた。ドライヤーのブォォという音が聞こえる。
そっとドアから顔だけ出してメルの様子を見ても、こちらを見向きしない。
「ね、ねえメル、タオルとって」
「?はい」
なぜ、と思っている顔のまま、メルは僕にタオルを差し出した。体を軽く拭いて腰にタオルを巻いてから浴室を出てもメルは特に僕を気にかける事は無い。見ないから後ろで脱げと言っていた通り、見ていないから後ろで着替えろと言う事なのだろう。否、見ないようにしているそぶりすらなく、いつもと変わらない。本当にデリカシーの無い女の子だと思った。
「僕がシャワー浴びてる間に済ませておかなかったの?」
「パジャマ着てベッドに入って寝てた」
「で、ナルに見つかったんだ」
なんとなくメルとナルの行動が予測できた。ナルもメルがあのまま寝ると思ったからわざわざ部屋に確認に行き叱咤したのだろう。
色々と足りないことがおおすぎるメルに対して、ナルも気にかけている節がある。僕も十分構っている方だけれどそれだけじゃメルは補えなくて、僕たちは二人でメルの世話を焼いていた。ある意味ナルにとっては良い傾向なのだけど、メルの将来に一抹の不安を覚えた。
ぱんつのはなしばっかりですまない。
Nov.2014