02
ドラマで、刑事をやることになった。
以前の撮影では一般人、ひいては犯人の役だったため少し新鮮だ。
話題にもなり、俺の演技はそれなりに好評だったと聞く。
しかし今回はそれとは似ても似つかない、年相応な人柄。コンビを組む刑事は同年代の俳優で、どうやらドラマ内ではコミカルな2人のようだった。
「ねぇねぇ〜」
リハの合間に俺の肩を指先でつついて来たのは、コンビを組む同僚役である秀星。元々明るい人物なので演技するときも自然に役に入っていく。
「なに?」
「警察の黒幕、またってこと無いよねえ?」
ドラマのメインはワイルドな狡噛さんと、クールな宜野座さんと、勇敢な新人であるヒロイン常守さんが様々な事件を解決し、警察の闇に触れて戦うという話であって、俺と秀星はメインが所属する班の脇役であり癒し担当であり、お笑い係だ。俺もそこそこボケたことをさせられるし、秀星と二人で馬鹿な話をしたり、張り込み中に立ち食いラーメン入ったりする。正直、真面目に仕事してるシーンは極端に少ない。そんな俺が、悪役な訳が無いだろう。
「いや、禾生長官だって台本にあるよ」
「だーかーらぁ、また内緒にしてて最後の最後でってオチ」
「二番煎じすぎるだろ」
「ハマればセオリーっていうじゃん」
2人して机の端に行儀悪く腰かけて雑談をしてると、常守さんがやって来て何の話と首を傾げた。
「秀星が俺を疑うんだよ」
「え?え?」
「朱ちゃん観てない?知らない?が前出てたドラマ」
「あ、観てた観てた、もう犯人出て来るまでドキドキしちゃった。すごく面白かったよ」
「ありがとう」
「だからさぁ、今回もが犯人だったらどうしようって思ってさ」
「そういうこと?でも台本には……」
「っだー!わっかんねーかなあ?」
秀星は話が通じないのがもどかしいのか頭を乱暴にかきむしった。
あのドラマ、特番や番宣でスタッフや役者にも犯人役を知らされていなかったと話題にされていたので、秀星はそれも観てくれたのだと思う。
一方で常守さんはドラマしか観てないみたいだ。むしろドラマ観てもらっただけでも俺は十分なのだけど。
「あのドラマ、撮影の時も台本にも犯人は誰って書いてなかったんだ」
「え!?」
「疑い合う話だったし、驚き、不信感、油断してる表情とかをリアルに撮りたかったみたいだから、登場シーン撮るまで内緒にしてた」
「そんなことできるんだ……」
「台本にある犯人を追い詰めるセリフは抽象的で、俺自身が犯行を語るシーンが多かったし。途中まで犯人と思わせられる人も作ってたから隠れ蓑にしてたかな」
「そうだっけ……うう、観返したいかも」
俺が説明すると興味津々な常守さん。
「大変だったんだよ、内緒にするの」
「そっか、仕掛人側だもんね……」
「だから俺はを信じてないわけ」
「そうなっちゃうの?」
「そうなっちゃうの」
秀星はどうやら疑心暗鬼になっているようだった。
世間でも、また俺が悪役なんじゃないだろうな、という話が出ているらしいが。
「俺たちゃ相棒だよ?兄弟。信じられないなんて、どうしてくれるのさ」
「もう……秀星俺のドラマ観なければよかったのに」
「だって滅茶苦茶面白そうだったんだよ!」
ありがとうとお礼を言いつつ掴みかかって来た秀星の腕を捕まえる。
「信じてよ、秀星のことは絶対裏切らない」
「……」
「なにやってるのよ」
ふざけて見つめ合う俺たちの頭を鷲掴みにしたのは、六合塚さんだ。その横では唐之杜さんが笑っている。
「カメラのまわってない所でまでイチャつかなくていいわよ」
「カメラまわってるところでイチャついてる口ぶりじゃん……」
六合塚さんがの発言に、秀星がげんなりした。
俺と秀星はドラマの中ではトランプタワーつくったり、ペットボトルの蓋についたオモチャをデスク周りに並べてたりしてるような2人組である。
というか、ドラマ内でも外でも、イチャついてるのは六合塚さんと唐之杜さんのほうじゃないかなと俺は思う。別に仲が良いのならそれでいいけど。
撮影は、秀星が恐れるような俺の裏切りはなく、最初から最後まで元気な2人組のまま終わった。
ドラマの中でも撮影の合間でも、秀星はちょっと捻くれてるけどそこがまた面白くて、楽しい時間を過ごした。自分の友達に不満はないが、こんな友達ほしかったなって思うくらい。
「おつかれ」
「もね」
スタッフさんに花束をもらった俺たちは顔を見合わせる。
「どう?これで俺の事信じてくれた?相棒」
「超信じたよ、兄弟」
俺の言葉を聞いた秀星は、一瞬きょとんとしてから笑った。
どうやら俺が根に持ってると思ったようだった。秀星自身はいつのまにか余計なことを考えなくなっていたらしい。
数日後、常守さんたちのクランクアップをお祝いして打ち上げに行くため、俺と秀星はロケ現場に来ていた。待っている間、メイン3人が今度番宣に行く番組からのインタビューを受ける事になっているため会議室で2人並んで座った。
共演者にお話を聞いてまいりました、と言って流れるやつだ。
「撮影現場での思い出に残るエピソードとかありますか?」
ファッションモデルみたいな女の子がニコニコしながら俺たちに聞いて来た。
「うーん、宜野座さんの前髪が鬱陶しいとか?」
「え、それ思い出?」
「というか印象的で。……宜野座さん本人も鬱陶しそうにしてて」
「あー確かに、ギノさんよく前髪触ってたねえ」
聞かれる内容も答える内容も、打ち合わせは全く無かったので、適当に答えてしまった。秀星が乗ってくれたしインタビュアーの子が笑ってくれたので大丈夫だろう。
「あれで眼鏡までしてたから、ダブルで鬱陶しいなって」
「、ギノさん嫌いなの?」
俺があまりに鬱陶しいというものだから、秀星は笑ってばかりいた。
宜野座さんの前髪が鬱陶しいのは、嫌いな父親と顔が似てるのを隠したい役柄だったからなので、俺があまりに文句を言っているのは失礼だろうか。
「いや、好きだよ」
「えぇ!?」
女の子は嬉しそうに身を乗り出して来た。
「二人だけのシーンやった事あるんですけど、あったかいコーヒー奢ってもらいました。ご恩は忘れてませんよ」
「しょぼい上にちょろいなぁ」
最後はカメラ目線で、いつかこの映像を見るであろう宜野座さんに向けて笑った。
横で秀星は呆れたように頭を掻いている。
そして後日、俺は放送された番組を見て、ワイプで照れてる宜野座さんを写真に撮っておいた。
「なあ、知ってるか?お前、漫画のキャラクターのモデルになってるんだぜ」
「へ?」
「ほら、これ」
実家のサロンで髪の毛を染められている最中、フレッドが思い出したように話題にして、ジョージが週刊誌を持って来た。
美容院なだけあって色々雑誌は揃えているけど、この少年誌は多分一部の兄弟が回し読みをしているのだと思う。
膝の上に置いた少し重たい本を見下ろすと、漫画のキャラクターが飛び回っていた。どうも俺は鳥人間らしい。丁度カラーの表紙だったから確認したけど、赤毛の三つ編みに青い瞳のキャラ。その色合いや容姿には覚えがある。
三年くらい前、いつものようにサロンにやってきて髪型会議をしている最中、長男であるビルが顔を出したことにより、エクステでビルよりも長いヘアスタイルにされたことがある。当然、エクステ作業中に俺は寝た。
つまり、その時期の俺を、作者はテレビで見ていたのだろう。
ぱらりと捲りながら、俺らしきキャラクターを追う目を止めた。
「あれ?」
「どうした?」
フレッドは手を動かしたまま、俺が思わず上げた声を拾った。
漫画の中の俺は、主人公を助けてくれるキャラだった。挫けて闇に呑まれそうになったとき、腕を引っ張り上げて助けるのだ。
『ここまでよく頑張った、エライぞ』
そして、少しの弱音を聞いてやり、流れた涙を拭ってやる。
『泣いたって転んだって夢持ち続けられたら、勝ちなんだ』
『それで、人に夢見させた奴が"ヒーロー"って呼ばれる』
背中を叩いて主人公を激励したシーンを見て、既視感を覚えた。
───その日、朝から事務所に顔を出すように言われていて、電車は通勤ラッシュの所為で混雑していた。
乗り換え駅で降りるのも困難で、人の波を藻掻いて脱出を試みる。
その時ふと、へばってる高校生の姿目に入った。
あっ、とか、うぅ、とか呻いているけど、誰も声をかける様子は無い。ただ人混みの間から腕がでて藻掻いているのだ。目が回っているみたいに見えた俺は、その手を引っ張って引き寄せた。
ここが降りる駅だったとしても、そうじゃなかったとしても、この中から出さないといけない気がして。
案の定、少年は限界ギリギリだったみたいで、ホームにへたりこんで肩で息をしている。
ベンチまで何とか誘導して座らせると、彼はおどおどしだす。
おそらく知らない人間に付き添われている事態を飲み込めないのだろう。
「大丈夫?」
「あ、エト、……人混み苦手……、でっ、」
声をかけるともごもごと事情を話してくれた。
俺は落ち着かせるために少年の背中をさする。具合が悪いというわけではなさそうだ。
軽く身の上話を聞いてみると彼は言葉に躓きながらも素直に答えた。
どうやら漫画家になるために青森の田舎から東京にやって来たらしいのだ。
まだ高校一年生という年齢には早すぎるような気もするけど、俺も事務所に入ったのは高校に入るよりも前だったので、あまり人の事は言えない。
まあ、高校卒業するまでは一人暮らしはしなかったし、今も部屋を借りてるくせに実家には頻繁に帰っているけど。
都会の喧騒や、慣れない環境に対して、一番の解決策は慣れることなので明確なアドバイスができるわけじゃない。
でも、夢を追いかけて、ここまでやってきた少年を励ましたかった。
俺が今触れてるお世辞にも逞しいとは言えない背中が、なんだか愛しく思えて、今までよく頑張りましたと背中を叩いて褒めた。
「ふえ」
手がバウンドするのと同時に、少年はびくっとはねて俺を見る。緊張が解けた、ぽかんとした顔は赤ん坊みたいに無垢だった。
「今できない事がたくさんあって落ち込んでたり、疲れてるんだろうけど、それは駄目なことじゃないよ。君にはやりたいことがあって、夢を叶えようとしてる気持ちがあるなら大丈夫」
俺も日常生活や仕事でだって出来ないことはたくさんあって落ち込むことあるけど、それでもこの"アイドル"で居たいって思い続ける気持ちが失われない。そのことに価値がある。
「おに、さんも……ある?ですか?」
「あるよ。俺の夢は、たくさんの人に夢を見させること」
かっこいい……と、少年が呟いた。
真っ青だった顔は今度は赤くなって、目がキラキラしてた。
じゃ、お互い頑張ろうねと彼の背中をもう一度叩く。俺はアイドルとして、彼は漫画家として、人に夢を見させる仕事を目指した同志である。そんな気持ちで励まして、別れたのだった。
───あの子を思い出した。
作者の名前を見ると新妻エイジと書いてあるが、俺はあの少年に名前を聞かなかったから確かめようがない。でも少年漫画を描いてるって言っていたから多分そうだろう。
「そっか、俺たち……ヒーローを目指してたのか」
「え?なに?」
俺が彼を知ってるかもと言うと、フレッドもジョージも頭上で驚き、そしてはしゃいだ。会いに行ってみればとか、またエクステつけてコスプレするか、とか。
「おかっぱの可愛い子だったけど、元気にやってるかな」
「え、可愛いって女の子だったのか?」
「いや男だけど、子供っぽくて可愛かった」
「へえ」
「サインもらっておけばよかったなあ」
と、そんな話をしたばかりの俺に声優の仕事が入って来た。それも、新妻先生の漫画の、俺をモデルにしたと噂があるキャラクターだった。
出番は少ないけど一話と佳境のシーンに出て来る。しかも主人公の憧れるキャラクターであり、ファンからの人気もある重要なポジションだ
「そう、あなたをモデルにしてるって作者が公言してるんだけど」
「知ってます」
「すごく似てるねえ。ただ見た目だけを似せてるわけじゃないんですって?」
営業部の人が、資料を見ながら微笑む。
「昔、たぶん、作家さん本人に会ってるんですよ」
「覚えてるんだ」
「漫画の存在は兄弟に聞いて……実際に読んでみるまで忘れてましたけど」
「で、どう?やってみる?」
「───やります」
もしかしたら喜んでくれるんじゃないかと、驚いてくれるんじゃないかと思って受けた。もちろん、声優としての仕事も楽しみだったけど。
実際に声優さんたちに会ってみると気さくな人ばかりで、俺を知ってくれている人が話しかけてくれたので楽しかった。演技のことで話し込んだり、撮影の裏側の違いで盛り上がったりした。
今回のキャラクターは俺をモデルにしたという通り、しゃべり方のイメージはまさに自分に近いのであれこれ悩まずやってみたが、短い収録を終えると、もっといろいろなチャレンジがしてみたかったという思いが残った。声の仕事にも興味がわいた瞬間である。
俺の収録がもう終わりということで、何人かのスタッフさんや声優さん、それから原作漫画の担当編集さんがお祝いをしてくれた。
担当さんは特に、ちょっと違う業界だからか俺へのテンションが些か高い気がした。
アイドルみたいに『くん』とよばれて手を差し出されたので、つい握手してしまったのは後で誰かに話して聞かせたい笑い話だ。
「いやあ、ホント助かりました。新妻先生、どの人の声聞いてもしっくりこないみたいで」
担当編集は服部さんというらしく、ボリューミーな頭が特徴的だ。
まだ年も若そうで、溌剌とした印象を受ける。
「そうなんですか?……えと、俺の声はお聞きになったんですか?」
「もう、大興奮でしたよ。ありがとうございます」
「俺としても嬉しかったです、漫画のキャラにしてもらえて、声優としてのお仕事も興味があったんで」
「その、本当に会ったことあるのだとか……?」
「たぶんだけど。当時ご存じでしょうか……短い前髪のおかっぱみたいな子だったと思いますが」
「そうですそうです!今もです!いやぁ、新妻くん喜ぶぞ〜」
最初は新妻先生と呼んでいたけど、素に戻っているのか砕けた感じで呼びながらにこにこしている服部さん。
アニメの収録自体はまだ続くので、あまり長居もできずに会話もそこそこに、新妻先生によろしくお伝えくださいといって別れた。
それ以降、アニメに関してはインタビューやラジオ出演のオファーもあったけど、スケジュールがあけられず、コメントを送る程度のことしかできず、新妻先生やほかのキャストさんと会うこともなかった。
先生本人がテレビに出た時はお花を贈らせてもらって、そのお礼として直筆のイラストとサインが事務所に届いたから家に飾ってある。
アニメが終わってから半年がたち、年末。カウントダウンライブの為に忙しくなり、元日には特番が入っていたので家族とのんびりする暇もない。もう何年もこうなので気にしていないけど。
「くんそろそろ休みとろうか」
「あ、ホントですか」
事務所でスケジュールの確認をしていたときにマネージャーに言われてほっと肩の力を抜く。
実家の美容院はもう営業が始まってるが、まだ働いていない弟妹たちは冬休みだから遊びに行くくらいはできるかもしれない。
「あ、でも」
「ん?」
「新年会で歌ってほしいって呼ばれてるけどどうする?」
「え、そんな営業あるんですか?」
「いや普段ならしないけど、特別───出版社から」
どうやら新妻先生の漫画を掲載してる出版社の新年会らしい。
出版社に確かめてみたら特別ゲストとしての招待で、雑誌で頑張ってくれてる新妻先生へのご褒美ということらしい。
俺もいつか会いたいと思っていたし、仕事の入っていない日なので了承し、新年会当日は実家にハイヤーがやってきて、弟妹達が大歓声をあげて写真を撮っていたし、三つ子の兄弟が店から飛び出してきたので兄に怒られて連れ戻されているのを車の窓から、逆に見送った。
会場には早めに行って一度リハーサルをさせてもらう。それから参加者たちがくる前に鉢合わせないよう別室で待機。軽食も持ってきてもらえたが、歌った後は自由にパーティーに参加していていいらしいので控えめに腹に入れておくことにする。
「では、乾杯の前に一人ゲストをご紹介致します」
付き添いをしてくれた編集さんが俺をドアの前に案内すると、向こうからどうぞと聞こえたのでそっとドアを開ける。
ゲストという言葉にどよめいていた人たちが、俺を見てぎょっとしていた。中年男性が多いけど、中には若い顔や女性の顔もあった。
「アイドルのさんにお越しいただきました!!」
「こんばんは、です。本日はお招きいただきありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると、盛大な拍手がわき起こった。男アイドルとはいえど、一応顔も売れている方だし、歓迎してくれてるようだ。
「一曲、歌わせていただきます」
マイクを握り直して歌う準備をすると、会場から歓声が上がる。ライブになると一定数の人はテンションが上がるものだ。
仕事じゃないけど、ただ呼ばれてただ美味しいご飯を食べるのは気がひけたので、新妻先生のアニメのオープニングを短いバージョンで歌わせてもらった。乾杯がまだだったけど、一分ちょっとしかないので許してくれるだろう。
歌ってる最中に若い青年を数人みつけて目が合った。その中にテレビで見た新妻先生もいて、俺は歌いながら笑みをこぼして手を振るけれど、すぐに人混みの中に紛れてしまって見つけられなくなった。
乾杯をしたあと、俺は作家さんたちの中に紛れて一緒にビュッフェを堪能させてもらうことになった。編集さんも作家さんも物珍しげに俺に近寄って来ては軽く話をしてくれた。
なんだか以前もミュージシャンが来たそうだけどそのときより盛り上がったって言ってくれたり様々だった。
俺は一番に新妻先生の所に行かないと、と思ったんだけど、どうも見当たらない。周囲を見回しているうちに、皿に料理をのせられるし、サインを頼まれたり、業界の話を聞かれたりで話が途切れない。
せめてうっすら顔を覚えている編集の人とか、新妻先生の担当である服部さんくらい見つからないかと、人混みを避けて練り歩く。
「あの、さん」
「はい」
さっき歌ってる間に目に留まった、若い青年が俺に声を掛けて来た。同級生みたいな二人組で、作家さんだとしたら二人でやっているのか、それとも作家同士で仲がよくなったのか。
「新妻さん探してるんですよね?」
「うん、そう」
視線をさまよわせて歩いてたから、傍から見てもわかったらしい。照れ臭くなりながらも2人肯定する。
「さっきさんに手を振られて固まっちゃってたんで、相当ファンみたいですね新妻さんって」
「そうだったんだ」
「亜豆に会ったときのサイコーみたいな感じ」
「なんだよそれ」
2人の青年は俺なにやら内輪ネタで盛り上がる。黒髪の子がサイコーというのだろう。
「えと、2人は作家さんですか?俺あんまり詳しくないんだけど」
「あ、僕たちは亜城木夢叶っていうペンネームでやってる高木です」
「真城です」
「ああ!亜城木先生」
「え、知ってるんですか?」
「新妻先生がテレビで言ってたので」
悪いけど漫画はあまり読まないから、素直に答える。それでも二人は笑って許してくれた。
「多分新妻先生の編集さんが探して連れてくるだろうけど……あ」
「あ~くん!真城くんと高木くんといたのかあ~」
高木くんが少し伸びあがるようにして周囲を見ながら、言葉を止めた。すると人ごみの中から駆け寄ってきたのは服部さんだ。
「服部さんお久しぶりです」
「今日は来てくれてありがとうございますっ新妻先生にご紹介させてください」
「ぜひ」
どうやら服部さんは今まで新妻先生を探していたのか、こちらに来られなかったのか、とにかく忙しくしていたようだ。彼は主催側の社員なので苦労は推察できた。
「新妻くん!」
「あ、ゆーじろーさ……!!!」
パスタをほおばっていた青年は、服部さんに声をかけられ、振り向いた途端に固まる。
口の周りが汚れているし、スウェットだし、あのとき制服を着てた少年とはちょっと違う印象を受けるけど、そういえばテレビでもスウェットだったことを思い出した。
これが仕事着でもあり普段着なんだろう。
「お、おにーさん」
「ご無沙汰してます、先生」
「はひ」
服部さんが新妻先生の持っているフォークとパスタが載った皿を取り上げる。
勝手に手をとると、ペンだこが出来た指先の硬い手だった。細長くてごつごつしていて、少し汚れているけど構わず触れた。
「モデルにしてくれてありがとう。あの時の子がこんなに立派になってて、俺嬉しいです」
「お、おにーさんに、会いたかったです!」
「俺も会いたかったです」
手をきゅっと握り返されて、笑みがこぼれる。新妻先生、ファンの子と似た感じの反応なんだけど、俺のファンなのかな。
凄い緊張しているのか、勢いよく写真撮ってくださいって頼まれて、もちろんと応じた。
服部さんに写真を撮ってもらって、じゃあ……と話を切り上げたつもりだったけど、俺が隅に並べられた椅子に座っていると、隣に来てじっとしている。
動きがどこか動物的で面白いし、まだ口の周りにパスタソースついてるし。
「ごはんはもういいの?」
「?はい」
くすっと笑うと新妻先生はきょとんとして首を傾げた。
口の周りを気にしてないんだろうと思って、ハンカチを当ててごしごしすると、ぎゅうっと目を瞑って呻いた。
「はい、綺麗になった」
書きたいものを詰め込みまくりました。
ペトルーシュカだと弟だし態度も普通なんだけど、あえて憧れの人っぽくして挙動不審だったり、かあいいエイジくんが書きたくてこうなりました。本編(?)とはまた違った立場書くの面白いです。
コパスは主人公が途中で縢を庇って死ぬ役で、結局お前は裏切るのかよぉ!って縢をガチ泣きさせるのでもよかったけど、あえて普通にいいキャラで終わりました。縢くんとは友情を育んでるのでその後も仲良しです。こっちの主人公はなんか生活力なさそうなので、料理上手な縢くんに懐いて餌貰いに行ってもええんやないかな(関西弁)
Sep.2021