harujion

芸能パロ

03

芸能人が多く通う高校があり、同じ事務所のアイドルや、CMで見かける女優、俳優、タレントなどが同学年に当たり前のように居る。隣の席の女子が朝ドラヒロインだったりすることもある。
そんなわけで、世間でも結構有名な高校なのだが、もう一つ芸能関係で有名な学校がある。それがシャイニング事務所の社長が理事長をしている、『早乙女学園』だ。

前述した学校は既にデビューしている芸能人になった子が多く居る高校であったが、早乙女学園はアイドルとしてデビューするために入る学校だ。
くくりとしては専門学校である。競争率200倍と聞いたときは思わず声をあげた。

卒業生がデビューするのが毎年恒例のシャイニング事務所だが、今年は異例のグループデビューだったらしく、大々的にテレビで報じられた。
グループの名前は『ST☆RISH』。
彼らはまだ在学中だったころに学園の生徒を代表するメンバーとしてテレビに出ていたくらいの精鋭だ。
アイドルのはしくれとして彼らには注目していたが、縁が無くバラエティや音楽番組、ドラマなんかでも会う機会は全くなかった。しいていうなら、メンバーの一人である一ノ瀬さんがHAYATOとして活動していた時には何度かテレビ局ですれ違った事がある程度だろう。
同じ芸能界に居る以上、いつかは会うだろうと思っていた俺と彼らが初めてあったのは、『ST☆RISH』がデビューしてから半年以上が経ってからのことだった。

俺はその日、生放送の音楽番組に出演する予定になっていた。『ST☆RISH』も同様で新曲を披露する。
メンバーが楽屋で待機している間、俺は少し席を立ちトイレに行っていた。その帰り道に廊下で鉢合わせた少年が、ぱちぱちと瞬きをして俺を見ている。赤い髪の健康的な肌色をした彼はたしか───、一十木さんだった筈。『ST☆RISH』の他のメンバーは居ないらしい。
「どうも」
「あ!今日は宜しくお願いします、『ST☆RISH』の一十木音也です」
「『マーズ』のです、よろしく」
体育会系なのか、ばっと頭を下げられる。
「一人?」
「あ、ちょっと迷っちゃって」
「じゃあ一緒に戻ろ、詳しい場所わからないけどどうせ同じフロアだろ」
俺は一十木さんの背中をぽんと叩いて歩くように促した。
彼は人懐っこいタイプみたいで、にこにこしながら話を振って来た。ちなみに俺たちの楽屋には、俺がトイレに行っている間に挨拶に来ていたらしい。
言い訳させてもらうが、俺はトイレが長かったんじゃなくて、途中で妹から電話がかかって来たから話していて遅くなっただけだ。
「それ、ワールドカップのやつですよね!いいな〜」
衣装が日本代表のユニフォームを模したものなので、多分それのことを言ってるのだろう。
俺たちが披露する曲はサッカーワールドカップの応援ソングとなっている。
「サッカー好き?」
「はい!」
「じゃあ次はテーマソング担当できると良いね」
「はい!あっ、楽屋ここだ。ありがとうございますさん」
素直な彼は年下らしくて大変可愛らしいと思った。
楽屋に届けるついでに、俺だけは皆に会ってないのでついでに顔を出させてもらうことにする。
「ただいま〜」
「あ、おせーぞ音也!もうすぐスタジオ入り───って、」
一十木さんの後ろに続いて、上半身を曲げて部屋の中に顔を出すと、メンバー全員が固まって俺を見た。
「さっき挨拶に来てくれてたと聞いたので、俺は不在だったので挨拶にきました」
「『ST☆RISH』です、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
俺が名乗る前に、一ノ瀬さんが代表して頭を下げると、皆も同じようにぺこりと頭を下げる。
「『マーズ』のです、よろしくお願いします」
俺も挨拶を返していると、近くに居た来栖さんから視線を感じた。
「それ、ワールドカップの」
一十木さんと同じ事を言うので笑いそうになって堪える。それでも、ぷっと息が漏れた。
俺が笑うと来栖さんは照れて、さっきの自分を思い出したらしい一十木さんは苦笑を浮かべた。
「あ、……そうそう」
俺はふいに思い出して、衣装のパーカーを脱いで、白いTシャツになった。ほら、と言って背中を見せたら、うわっと声が聞こえて誰かが背中に近づいてくる気配を感じた。少し振り向いたら一十木さんと来栖さんがキラキラした顔でTシャツを見つめていて、他のメンバーも気になったのか後ろから覗き込んでいる。
「日本代表のサインだー!」
一十木さんの言葉通り、俺の背中には日本代表の選手から貰ったサインが書かれている。一度会ったときにサインくださいと言ったら、全員して背中に書いてくれたのだ。ちょっとごちゃごちゃしたけど、脱いでみたら壮観だったので後悔はしていない。
ついでにそのときマーズのメンバーも、選手の奥さんとか娘さんの為にサインを書いていた。
どうやらサッカー好きらしい2人はしきりに、いいないいなと言って俺を離そうとせず、写真を撮らせてほしいと言いだしたところで一ノ瀬さんと神宮寺さんが引きはがしていた。
別に態度や熱意はかまわないのだけど、そろそろ戻らなければならなかったので彼らと別れた。


本番が始まり、トップバッターは『ST☆RISH』、間にバンドや女の子のアイドル、シンガーソングライターが入って、最後は俺たちとなったのだが、歌の前に少しトークする時間が設けられている。俺がイメチェンしたときはその話題を振られたり、メンバーの誰かがドラマに出てたらその話だったり、記入したアンケートやマネージャーからの情報を元に俺たちの話題をひろげたり、である。
今回はやっぱり、サッカー選手と交流した時の話を聞かれた。
「空き時間にボール触らせてもらってたんですよ。それで、パスとかリフティングとかしてたときに……」
メンバーの一人、光也がすぐにエピソードを話し出した。うちで一番運動神経が良い飛鳥がリフティング勝負でぶっちぎりだった話かなと思っていたら、オチに持って来られたのはわずか三回で勝負が終了した俺の話だった。
「あはは……さんはサッカーが苦手なんですか?」
「サッカーは苦手です」
歌って踊れるアイドルなのに運痴だと思われるのが照れくさくて言い訳をする。隣に座っていた一十木さんが肩を奮わせているのに気づいて、ますます恥ずかしくなったので巻き込むことにした。
「わーらーうーなー」
もう歌い終わったから良いだろうと思って、彼の頭をガシガシ掻き混ぜてお茶を濁す。わああっと上ずった声をあげた一十木さん。今度は彼が皆に笑われているので俺は満足した。
、手を使った運動の方は器用なんだけどね」
リーダーの睦月が一言俺をフォローしてくれて、話がまとまったので俺たちは歌の準備に行く為に立ち上がった。そのついでにもう一度一十木さんの頭をお礼の意味を込めてぽんぽんと撫でておく。

あの収録以来『ST☆RISH』に会う事はあまりなかったけど、一ノ瀬さんはドラマで一度共演することがあった。俺が出ている刑事ドラマで、一ノ瀬さんは一話だけ登場する高校生役だから同じドラマに出てると言っても一緒のシーンはほぼない。あったとしても、俺はもっぱら相棒の秀星とカメラの端で遊んでいる役なので、一ノ瀬さんとの掛け合いは一度も無かった。
それでも顔見知りだったので休憩時間が重なったときになんとなく隣にならんで会話をする。
さんも、ああいう役やるんですね」
「まあ……役だから」
今回の俺は、うるさいとはいわないが、それなりに明るいキャラクラーだったので、普段の俺を知る人からすると意外な役である。
「HAYATOだってそうでしょ?」
目だけで見やると、一ノ瀬さんは苦い顔をしていた。キャラなんて当たり前にある事だから、恥ずかしいことではないのだけど。
むしろ出来る人は凄いと思う。ドラマの中で演じるよりも難しい筈だ。
「えーと、おはやっぷーだっけ」
「おはやっほーですよ」
しんどそうだから、やってみてとは言えなかった。俺も演技が終わった後は疲れてるから。
「前のドラマ、『微笑する死神』の時の演技、凄かったです」
「え、観てくれたの」
「竜崎さんと夜神さんのダブル主演となれば、業界内でも注目されていましたし」
確かに実力も認知度も高い2人でメインを張るのは見ものだろう。
俺も彼らが主役だと聞いてすごいと思った。
「やりがいのある役だったよ」
「そうでしょうね」
「でもお陰で秀星に、実は悪役で裏切るんじゃないかって疑われたり、ただ微笑んだだけでも家族に怯えられた」
一ノ瀬さんは最初微笑んで頷いていたけど、悪役をやった弊害を語ると、遠い目をして同情してくれた。


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ねえ、知ってる?ハルジオンでうた☆プリは書いてないんだよ(まめしばー)
アイドル同士の楽屋挨拶やら序列やらはしらねえ!!!!
Sep.2021