卯の花とみかづき 04
夏休みに入ったは下町の夏祭りに遊びに来ていた。
零がいつも世話になっている三日月堂という和菓子屋も出店することになっているので是非と言われたので、従兄弟も誘った。が、従兄弟は「対局がある日だし人混みなんかヤダ」と言って断った。佐為は残念そうにしていたが、それを伝えても結局面倒くさがりな彼は一緒に来なかった。
その話をした帰り道、従兄弟の幼馴染みの少女に会い、なんとなしに誘ってみれば行きたいと言ってくれたので、夏祭りは彼女とやってきた。
受験生のあかりは息抜きがしたい頃だったようで、誘ってくれてありがとうと笑った。
「ヒカルじゃなくてごめんね」
「え!?ちょっと、やだ、くんったら」
昔から従兄弟のヒカルに思いを寄せていたのを知っていたので、は少しからかうように笑った。
歳を追うごとに綺麗になって行く少女に目もくれず、碁盤を見つめるヒカルに呆れる半面、仕方が無いとも思っている。
「今日はめいっぱい楽しんで、ヒカルを羨ましがらせてあげようか」
「えへへ、うん、そうだね」
とあかりは笑い合って歩き出した。
様々な出店をまわりながらも、まず一番最初は三日月堂で食べようと思っていた二人は少し時間をかけて到着した。
中々の客入りのようで、列に並びながら先頭の方を見てみる。
中学生くらいの少女と、成人して少しくらいの女性が三角巾とエプロンを付けてよそい、にこにこと笑っていた。はお世話になっている人というのがどういう人物なのかは知らなかったが、彼女達に零は居るか聞くつもりでいる。
「味決めた?」
「梅シロップかミルクティー迷ってるの、くんは?」
「俺梅だから、ミルクティーにしな。はんぶんこしよ」
「やったー!」
あかりと相談して決めたところで、ちょうどたちの番がやって来た。
喜んだところを店員の少女たちが見ていたことに気づいたあかりは、口をそっと抑えて照れくさそうにする。はそんなあかりに小さく笑って二人分の白玉シロップを注文した。
「あ、あかり」
「はい?」
「うん?」
があかりを呼ぶと、返事がふたつ聞こえた。一人は連れであるあかりで、もう一人は白玉をよそっていた店員の女性だった。
「あら、ごめんなさい、同じ名前みたいですね」
「あかり、さん?」
ふたりのあかりははにかみながら見つめ合う。
「あ、そうだくんなに?」
「ヒカルにさ、ふくふくダルマ買ってこうか」
店員のあかりは申し訳無さそうにぺこりと頭を下げてから白玉をもう一杯よそう。
彼女は内心、に名前を呼び捨てにされて、あっさりと返事をしてしまったのが恥ずかしくなっていた。
二人の仲が良さそうな会話を聞き流しながら白玉を二杯分用意して妹のひなに渡すと、注文通りにミルクティーシロップと梅シロップをよそって準備する。おみやげのふくふくダルマは店内で購入できると案内したら、はほんのりと口元をゆるめて笑った。
見た感じではいつも夕食を食べて行く零と同じくらいの歳で、むしろ幼気な顔立ちをしている所為で随分と年下に見えるのに、喋り方や声があまりにも落ち着いて静かなので大人のように感じる。
「あかりさん」
「———わたし?」
「そう、ここに桐山零くんはいますか?」
身体をかたむけて店内の方を覗いていたは白玉の器を浮けとりながら緩く笑ってあかりを見た。さすがに、自分だろうと思いながらも確認すると小さく頷いた後に思いがけない知人の名前を出されてきょとんとする。
そんなあかりの後ろからひなは顔を出して笑った。
「零ちゃんのお友達?私呼んできます!」
「ありがとう」
幸いにも、後ろに並ぶ客人はいなかったため、たちはあかりの横に避けたところで待っている。
「同じ学校のお友達かしら?」
「クラスメイトです」
「そちらの、あかりさんも?」
「あ、私はくんとは違う学校で、その桐山さんって人には会ったことないんです」
「零がいつもお世話になってる人んちって、店員さんのうちだったんですね」
「ええ、私とさっきの子、ひなと、もう一人小さい子がいて三姉妹。ここはおじいちゃんのお店」
「零は詳細まで教えてくれなかったから」
はそういって、小さく笑った。
「あ、進藤!来てくれたんだ————あ」
程なくしてやって来た零は、の隣にいた少女あかりに目を見張る。まさか彼女を連れて来るとは思わなかった、というか彼女いたんだ、そりゃいるか、など色々考えを巡らせている。
「どうしたの零、好みだった?だめだよ」
「!!?!?いや、そ、そんなんじゃなくて!」
「くん!?」
零は慌てて、あかりは顔を赤くしてを見た。
私は別にヒカあか推奨してるわけじゃないんですけど(可もなく不可もなく?)、主人公はあかりをヒカルの嫁候補だと思ってます。
だめだよ(俺のだから)ではなく、だめだよ(ヒカルのだから)って牽制していて、零は前者で勘違いしてあかりは後者だと分かってます。
Jan.2016