02
この世界は色々規格外で、許容範囲が広くて、ハチャメチャだ。
特定の家庭で頻繁に起こる爆発に警察が目を付けている様子が無いのだ。裏で規制をしているのかもしれないけど、だとしても噂にすらならないのはおかしい。住民の常識が歪んでいる気がする。
裏社会関連を探るよりまずは警察関連のほうが穏便に済むだろうと思い、俺は並盛周辺の事件を調べた。まあ大した問題にはなっていないが爆発や騒音騒ぎは数件。恭弥のくれた資料にあった三人の中の一人、沢田の家は特に頻繁に爆発していた。
「おお……」
データをみて小さく感嘆の声を上げる。数回は通報があったようだが近所も警察も段々相手にしなくなってきていて、ほんの一ヶ月程分のデータしかなかった。
入り込んだ形跡を消し、接続を切ってからパソコンをシャットダウンさせた。
ふう、と溜め息をつきながら背もたれによりかかり、ぼんやりと天井を見る。
気にされない程度に調べてはみたが、ボンゴレと言うマフィアは実在する。同盟の、俺も知ってるマフィアもあった。シモンは闇に葬られてしまっているが、無くはなさそうだ。
今のスペックで裏社会に首を突っ込むと下手を打ちそうだからこれ以上の詮索はしないことにした。
「、行くよ」
休日でも平日と変わらない時間に朝食をとり、恭弥に連れられて並盛中学校へ向かった。今日は体育祭なのだが風紀委員は群れないし、仕事は変わらない。
校庭では騒がしく体育祭が行われている中、恭弥は書類を、俺はデータ入力の仕事を片付けていた。
昼休みに入ったらしい放送が遠くから聞こえた直後、自分の腹からもくるくると昼食の時間だと報せる音が鳴った。草壁と恭弥に聞こえただろうか。ちらりと目を向ければ二人は動きを止めている。
「草壁」
「はい」
夫婦よろしく意思の疎通がスムーズな二人はその一言だけで会話を終了し、草壁は素早く応接室を出て行った。
戻って来た草壁の手には風呂敷に包まれたお弁当が入っていて、ふわりと食事の香りが鼻孔をくすぐる。
「いいにおい」
「お昼にするよ」
すんっと鼻をならすと恭弥が休憩を許可してくれたので、ソファに置いたまま作業してたノートパソコンを閉じて、テーブルの前に移動した。
昼食をとっていると、A組の総大将が今度は毒をもったぞ、という声が外から聞こえた。数分後には、各代表の話し合いにより今年の棒倒しはA組対B・C組合同チームとする放送が入った。
「なんかあったみたいだね」
食べながら話すと恭弥のトンファーで躾けられるので飲み込んでから口を開く。
「ああ、棒倒し」
「A組の総大将って沢田綱吉だね」
教えてあげると、恭弥は立ち上がり外へ出て行ってしまった。草壁は俺をちらりと見て、行かないんですかと問うが俺はあいにく食事中である。草壁が入れてくれたぬるめのお茶をくぴくぴと飲みながら、一服していた。
恭弥が帰って来るまで仕事しなくていいやと思い、食後はソファに寝転がってうとうとしていたのだが、校庭から爆音がしてぱちりと目を開ける。
窓から外を見ると火薬の香りや熱風がぶわりと頬を撫ぜた。
「爆発オチかぁ」
「ただいま」
知らぬ間に帰って来た恭弥が、ぼけっとしてる俺の後ろに立っていた。
「おかえりなさい」
「仕事続けて」
「……うん」
多分沢田と闘えば赤ん坊が出て来ると思ったのに爆発でうやむやにされて不完全燃焼なのだろう。あとで風紀委員ボコボコにされるんじゃないかなと思いながら、不機嫌な恭弥にあまり触れないように仕事に戻る事にした。
一段落したころ、トイレに行く為に応接室を出て廊下を歩く。今は体育祭の後片付け中だろうから廊下は無人だ。
手を洗ってトイレから出ようとしたら、風が俺を追い抜いた。
(窓、開いてたっけ)
「ちゃおっス」
「!」
振り向けば小窓の桟に赤ん坊が居た。
立って喋っているという異様な光景の筈なのに、違和感を感じさせない雰囲気に包まれている。黄色のおしゃぶりが無ければ普通に会話を続けてしまいそうだった。
口を開かずじっと見つめていると、赤ん坊のつぶらな瞳も俺をじっと見つめていた。けれど小さな口はあっさりと開かれ、可愛らしい声を発した。
「雲雀」
恭弥の事も知っていたから当然俺の事も知っているだろうと思っていたから名前を呼ばれても驚く事は無かった。
「なにか」
ゆったりと首を傾げると、赤ん坊はニヒルに笑う。
「ツナのことを調べていただろ」
「……うん」
隠しても仕方の無いことだったので、素直に頷いた。
「恭弥が君の事を知りたいんだって」
「そうか」
「お名前は?」
「オレはリボーンだぞ」
「わかった」
もういいやと思ったのでトイレから出ようとすると、リボーンは飛び跳ねて俺の肩に乗った。俺の肩幅は狭くて安定しないだろうと思い、彼の脇に手を差し込んで腕に抱く。
「今度うちの恭弥とあそんだげてよ」
「いいぞ。丁度頼みてーことがあったしな」
「へー」
廊下を歩きながらのんびりと会話する。調べものについて深く聞いて来ないのは分かっているからか、何も思っていないかのどちらかだ。しかし俺の経歴は恭弥の弟ということ以外は普通のものだ。能力は八歳児らしからぬ所もあるが、兄がメチャクチャなのでその辺は緩和されてる気がする。
リボーンは今度の日曜日に沢田にドッキリを仕掛けるらしいので、信憑性を持たせる為に恭弥を呼んでほしいと言った。
「借りを作ってやる」
「わかった」
一応メールアドレスを教えた後、リボーンは俺の腕からぴょこんと飛び降りた。
「会ってかないの?」
「ああ、今日はな」
「機嫌良くなると思ったのに……ま、いっか」
あと少しで応接室だったというのに、リボーンは帰ってしまった。しかし恭弥もリボーンからの頼み事を聞けば機嫌も回復したようで、厳しい目つきの恭弥と仕事をしなくて済んだ。
日曜の朝、リボーンと思しきメールアドレスから連絡がきた。今日は頼むぞ、という一言だけの内容だ。つまり、計画実行である。
「行くよ」
「うん」
相変わらずノーヘルで乗る恭弥の後ろにしがみつき、沢田家の前にバイクが到着した。待ってなよと言われてバイクにまたがったまま恭弥が塀やら屋根やらに飛び乗って二回の窓に顔を出しに行くのを見送った。わずか一分程で恭弥は再び飛び降りて来たが、その後すぐにダイナマイトの雨が降り注ぐ。
「わ」
「そう死に急ぐなよ」
逃げようか迷ったが、恭弥が余裕綽々にトンファーでダイナマイトを打ち返してしまったので俺たちは熱風を受ける程度で無傷に終わった。
「これで良かったのかい」
「うん」
リボーンから上出来だぞとメールが来たので、恭弥の問いかけに答えながら携帯電話をしまった。
リボーンさんとお会いします。お話はさくさくすすめます。
Mar.2015