harujion

いとしのヴァニーリア

05

年が明けて学校が始まったある土曜日、並盛中学校では授業参観が行われた。
俺は相変わらず応接室で仕事を手伝っていて、恭弥は町に見回りに行くと言うので応接室には俺一人きりである。
ふかふかのソファにノートパソコンを置いてデータ入力をしたり統計を取ったり、予算をまとめたりするのが俺の主な仕事内容だ。時々恭弥に言われて情報収集をするが、裏には一切踏み込まないようにしていた。しかし最近並盛にマフィアがよく出没しているらしく、どう調べるべきか迷う。
リボーンがボンゴレ九代目の信頼する凄腕ヒットマンだとか、イーピンが香港の人間爆弾の殺し屋だとか、アルコバレーノの風が師匠だとか、そういう簡単なプロフィールは調べた。検索するだけなら俺の立ち位置と簡単な技術でも出来るからだ。実際ボンゴレの内部について調べようとすると目を付けられそうだから絶対やらない。
恭弥ががっつりリボーンに目を付けられているので無駄なような気もするけど。

目が疲れたのと、きりが良かったので休憩と称して学校内を出歩く。途中で教員とすれ違ったりするけれど、俺の存在は知っているし風紀委員の腕章もつけているので声をかけられるどころか逃げられる。
沢田たちのクラスを通りかかると、笑い声や授業の声等が聞こえ、普通にやってるんだなと頷く。しかし何気なく覗いてみた瞬間、立ち上がって何かを答えようとした沢田の頭に小さな草履がブチあたった。
人の合間を縫って教室の後ろに行くと、リボーンが和服来ておばちゃんみたいな格好をしていた。沢田以外には怪しまれていない。
「はーい、100兆万です」
「ランボ!!」
沢田が再度答えを求められている所に乱入してきたのは、もじゃもじゃのランボで、それを止めようとしているイーピンも傍に居た。担任はランボを宥めようとしているが、空気のよめない子供なので阿呆なかけ算と、もじゃもじゃ黒板消しを披露した。笑いそうになってなんとか口元を抑えていると、沢田の母親らしき人物がランボを抱き上げに行った。しまいには獄寺の姉というビアンキまで登場し、教室がはちゃめちゃになった。
俺は風紀委員として動くべきだろうかと思ったが、俺が何をしても意味が無い気がしたので腕を組んで後ろで見ていた。
リボーンが代打教師として黒板に難解な数式を書き始め、正解したら良いマフィアの就職口を紹介すると宣ったので教室が静まり返る。反抗的な態度を取った生徒はチョークの餌食となり、その保護者も気絶させられて教室が恐怖で支配された。
「どーだ、答え分かる奴いねーのか?」
誰かが息をのむ音が聞こえる。その時リボーンは俺を見た。
「おい、おめーはどうだ」
「え」
ばっちり指名して来たリボーンに思わず固まる。生徒と保護者の視線を一身に浴びた。ひそひそと、風紀委員じゃねーか、あんな子供なんかいたっけ、雲雀の弟だろ、なんて会話が交わされる。
「いや、」
「はいはーい!!」
俺の言葉を遮って、いつのまにか戻って来たランボが教室のドアの傍で大声を上げた。
「うんこ」
生徒達はショックを受け固まってしまい、リボーンはペケと言いながら爆弾を投げた。
俺は、予算の計算がやり直しかもしれないなあと思いながら耳を塞いだ。修繕費は今度から沢田宛に請求しよう。
第二弾は、これまたいつの間にか戻って来て答えた、既にマフィアであるらしい獄寺に向けられた。断末魔と爆音と、沢田が必死で獄寺を呼ぶ声は耳を塞いでいても聞こえて来る。
俺はこの騒ぎに乗じて、教室から逃げる事にした。

それから数日後、学校内に子供の姿を見かけた。イーピンやランボも頻繁に学校に出入りしているらしいので大した問題にはなっていないが、それよりも少し大きな俺と同年代くらいの少年だった。
ちょっと観察してると沢田に付き纏っているようなので、またマフィア系だろう。深く関わるのはよそうと思っていた矢先、廊下を歩いていた俺は角を曲がった瞬間、少年に真正面から遭遇した。
俺は気配なんてよめないし、警戒してい生きている訳じゃないから仕方が無い。
ぱっちりと、つぶらな瞳が俺を見ている。
「きみ……」
声をかけようとしたが、少年は急に虚ろな瞳になり、髪の毛や彼のマフラーがふわふわと中に浮いた。
「優秀なスパイランキングは二十五位……この歳でこの順位はすごいや。悪用しない情報屋ランキング三十五位、情報屋の総合ランキングは……!?」
ぶつぶつと何か呟いた末に、少年は我に返った。
そして俺をまじまじとみて、ばっと両手を握る。
「総合ランキング、僕よりも上だ……!こんなに小さいのに!」
同じような年の子供に、こんなに小さいのに!とは言われたくはないが目の前の少年は確かに俺よりも身長が高かった。俺って発育悪いのかなとこっそり思うがまだ八歳なので望みはある。あるったらある。
「でも、僕の方が希少だよね!」
「え?何?」
ころりと表情を変えて、一人で勝手に話を進めている。
「あのー、君は誰?どこの子?」
「フゥ太!何やってんだよもーってギャー!?雲雀さんの弟!!」
いい加減答えてくれないだろうかと思いながら、少年に掴まれている手を逃がした。その時、少年の向こう側から沢田がやって来て、俺の存在にビビって尻餅をついた。
「あ、ツナ兄」
フゥ太は再び俺の手を掴み、沢田の方へ駆け寄った。当然俺も引っ張られている。
「お前なんてことしてんだよ!」
「この子フゥ太って言うの?」
「うん、僕フゥ太!よろしくね」
溜め息を吐いてると沢田がごめんと謝って来るのでつい首を傾げた。
「なにが?」
「え、あ、いやうちのフゥ太が迷惑を」
「僕……迷惑だった?」
子犬のような顔をして俺をじっと見つめるフゥ太に、早く帰れとは言いづらい。
「別に迷惑じゃないけど」
「わぁい!僕もっととお話がしたいんだ!同じくらいの年の同業者って初めて!」
「え!?って情報屋なのー!?!?」
ショックを受けたような顔で沢田が大きなリアクションをとる。
「別にそんなんじゃないよ。じゃあ俺仕事あるから」
「あ、待ってよー」
「こら、フゥ太よせって」
俺は繋がれていた手を引き抜いて、踵をかえした。
後ろでは沢田とフゥ太の声が聞こえていたが恭弥に怒られるよりはマシだと思って無視をした。

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主人公は情報屋っていうより諜報員なのでね……ちょっとニュアンスが違います……。
子犬と子猫コンビいいな……って。
Mar.2015