07
花見をするために恭弥は桜並木一帯に人払いをかけた。買ってもらった三食団子を食べながら、桜をぼんやり眺めていると遠くから騒がしい声が聞こえる。風紀委員が人払いをしているので揉め事かと思ったが、別にどうでもいいので俺は団子を食べ続けた。
「騒がしいな」
しかし、恭弥は静かに桜を楽しみたいらしく、声のする方へ歩いて行ってしまった。俺は恭弥の背中と膝の上においた団子のパックを見比べ、食べかけの串だけ持ってついて行くことにした。
「何やら騒がしいと思えば君たちか」
「雲雀さん!!!……あ、この人風紀委員だったんだ!」
想定していたわけではないが沢田が居るのはもはやお決まりだった。恭弥は風紀委員を粛正してしまい、気絶したリーゼント頭を尻目に、沢田たちを見上げた。
「いやー、絶景!絶景!花見ってのはいいねー」
その時桜の影から酔っぱらった男性が出て来て、男ばっかりでやだねと笑った。Dr.シャマルと呼ばれたその男はたしか並中で養護教諭をしていたはずだ。聞いた話によると、彼は女生徒しか診ないらしい。もちもちと団子を咀嚼しながらシャマルを見てたが、彼の頭上の枝にリボーンが座っていることに、本人が口を開くまで気づかなかった。
「赤ん坊、会えて嬉しいよ」
恭弥はさらりと好意を示した。
本心はどうであれ、こんなに素直で優しい口調の兄を見た事が無い。
「俺たちも花見がしてーんだ。どーだ雲雀、花見の場所をかけてツナが勝負すると言ってるぞ」
「なっ、なんで俺の名前出してんだよー!!」
会えば大体リボーンがけしかけてくるので、恭弥と沢田は闘う事になってしまった。山本と獄寺もわりと乗り気なので呆れる。
ごくん、と団子を飲み込んだあと手元を見ると串だけになっていた。
シャマルが恭弥にぶっ飛ばされている音を聞きながら、俺は置きっぱなしにしてきた団子をとりにその場から離れた。
そして、戻って来たら沢田がパンツ一枚になっていて、恭弥は膝を地面についている。
「どうしたの?」
今度はパックごと持って来たのだが、事態が一変していてついて行けない。
聞けば、シャマルがトライデントモスキートとやらを発動して恭弥に桜クラ病という謎の病気をかけたらしい。最悪だ、俺の来年以降のお花見は無くなるってことか。
「約束は約束だ、せいぜい桜を楽しむが良いさ。……帰るよ、」
拗ねた恭弥はふらふらしながら歩いて行ってしまった。
支えてあげなくてはと思ったが、まず病気を治してもらわなければならない。
シャマルに近づき白衣やズボンのポケットに手を突っ込んだりぱんぱんと身体を叩く。ぎょっとして身を引かれたと同時にポケットに入っていたものをスった。しかし薬の類ではない。
リボーンはシャマルの後ろでにやにやと笑っている。俺がシャマルの携帯をスったのを見たのか、もしくは恭弥の様に何か蚊に刺されたのか。
「処方箋は?」
「残念ながら、持って来てねーんだ」
「俺にもなにかした?」
携帯電話を見ながら、シャマルに問う。今の所具合は悪くなっていないし、多分命に関わる病気ではないだろう。
「お、よくわかったなあ、お前さんは言葉が全部猫語になるニャンフルエンザをかけてみた。」
「なにそれー!?」
沢田がしっかり突っ込んでる。試しに口を開いてみると発症したらしく、本当ににゃーとしか言えない。ダセェと獄寺が後ろで笑い、振り向けば山本も笑ってる。山本の場合は馬鹿にしている訳ではなかったが。
意思の疎通が出来ないのは結構辛い。
「にゃー、にゃ(ちゃんと治してよね……)」
「んん?何言ってるのかわかんねーな」
呆れながらさっきから持っていた携帯を見下ろして弄くり回す。シャマルは楽しそうに俺を揶揄ったが、俺の手にしている携帯をみてたちまち顔色を変えた。
「あ!?おい、お前それ俺の携帯じゃねーか!」
とられそうになるので山本の後ろに隠れた。
「にゃー、にゃにゃ、にゃーん」
どうせ通じないだろうけれど、女のアドレス全部削除するねと言う。わかんねーよ!とシャマルが焦ってくれるのでちょっと嬉しい。
「『携帯に入ってる女のアドレス全部削除するね』だと。やべーぞシャマル」
「んな!?」
リボーンは猫語もわかるのか、読心術なのか、よくわからないがとにかく俺の言葉を代弁してくれた。
「にゃあにゃあ、にゃん、にゃあ」
「『それとも、全員に"別れよう、好きな男が出来た"って連絡しようか?』……おもしれーな、やってやれ」
にこにこ笑って山本の後ろから顔を出すと、シャマルがショックを受ける。その間にも俺は、ポケットに入れてるマイクロSDを携帯に差し込んでハッキングウィルスを注入すると同時に、バックアップをとった。本業の方の携帯ではないようだが、多少の弱味は握れるだろう。
「あの一瞬で携帯をスって弱味を握るとは中々筋がいいぞ」
「俺に攻撃してなかったらスられなかったと思うけどね……あ、治った」
シャマル自身この病気を長引かせるつもりはなかったようで、リボーンが関心しているうちに俺の言葉は戻った。ハッキングはしたけどアドレスやデータに手を付けずに携帯を返すとシャマルは疲れた顔をしてがっくり肩を落とす。
「本番だったら猫語どころじゃないし」
一般人の子供だから油断していたことと、殺しの場面ではなかったことが大きい。苦笑して、置いておいた団子のパックを拾い上げる。
桜クラ病は来年の春までには治すようにと言い残して、俺は恭弥の去っていった方に走った。桜の周りから抜ければ多分通常の体調に戻っている筈なので、あまりに遅いと怒られそうだ。
しかし案の定、道の端で俺を待っていた恭弥の頭をぱしんと叩かれた。トンファーじゃないのは助かるが拳も十分痛い。
「に"ゃん"!」
「なんだいその鳴き声は」
「〜〜〜〜、」
ニャンフルエンザの後遺症の所為なのか、反射的にでる悲鳴が大変屈辱的な猫語になってしまった。それから毎日のようにまだ治ってないのかと恭弥に攻撃をされるわ、転ばされるわで大変だった。痛い思いと屈辱のお礼に、シャマルの携帯電話のアドレス帳のデータを遠隔操作で全削除してやった。
ようやく俺の猫語後遺症が完治したころ、新学期は始まった。
俺は進級したのだが、恭弥は進級しなかった。卒業式も全然関係無さそうな顔をしていたし、学校を出て行く様子も無かったが、まさか新学期も居座ると思っていなかった。好きな時に好きな学年なんだと言われて思わず聞き返しそうになったが、我慢してそうなんだねと頷いた。
「が入学したときは一年生になってあげても良いよ」
「弟と同級生って悲しくない?それに授業出ないだろ……」
出来ればその頃には卒業しててほしい。
恭弥が風紀委員の見回りというなの憂さ晴らしに行ってしまった後、俺はのんきにコーヒーをいれていた。不意に、良い香りじゃねーか、と声をかけられて驚く。応接室に人が入ってくる音はしなかったのだ。
「なにやってんの……?」
「ピラミッドパワーだ」
三角の入れ物に入ったような格好で浮いているリボーンに、とりあえず尋ねる。たしかにその通りな返答をされたが、コスプレに着いていけず、ごまかすようにポットを掲げて尋ねた。
「コーヒー飲む?」
「折角だが今日はやめておくぞ。雲雀はどーした?」
「見回り行ったよ」
また何か沢田にやらかすために恭弥が必要なのだろう。
窓に近づいて外をぐるりと見渡すと、裏庭で恭弥が人をぶん殴っている光景が見つかったので指をさした。
「ほら」
「お、ホントだ。じゃーな」
「ばいばい」
リボーンが当たり前の様に浮いたまま窓から出て行くのを、手を振って見送った。
その後裏庭を見下ろしていたが、最終的に沢田ともう一人がボコボコにされて恭弥は校舎に戻って来た。リボーンは沢田を打たれ強くしているのかな。
「同級生になってあげてもいいよ」きょうやくんの渾身のデレ。
にゃん語はあざといの極みで、なんか申し訳ありません。今回主人公ショタなのであざとさの塊です。でも、よくかんがえたら、雲雀さんには敵わないな〜って。あの人はあざとさの化身。つまり、主人公は雲雀さんの付属品なんです。雲雀さんのあのキャラ付けに”ショタを連れてる”っていうのが足される、……主人公があざといんじゃなくて、雲雀さんがあざといんだと思うんです。
Mar.2015