08
夏休みになって、並盛町の祭が開かれる事になった。毎年風紀委員がショバ代を徴収して活動費に当てているので今年も例に漏れず恭弥と出かける。
俺は威圧できないので、店のリストをチェックする係だ。
チョコバナナを売っている店には沢田と獄寺と山本がおり、恭弥もそれを分かっていながら近づく。
「五万」
ただ金額だけを無愛想に言った恭弥に、沢田がぎょっと驚いた。
山本と獄寺も雲雀の登場に表情を変えている。
「払えないなら、屋台を潰す」
「チョコバナナ一本」
向いの屋台が潰されてるのを尻目に、山本にお金を出しながら言うとあっさり一本売ってくれた。
「あんまり食べ過ぎないでよね」
「うん」
恭弥は徴収した五万を数えながら俺に言いつけるので、俺は頷きながらバナナを食べつつ、甚平のポケットから町内会の屋台リストを出す。そして沢田たちのチョコバナナの店に済みの印を付けてまた仕舞った。
「美味しい」
「お、そうか!フランス製のチョコなんだぜ」
「ベルギーだっつってんだろ」
一言感想を言うと、山本が俺の頭を撫でる。横から獄寺の訂正が入るが正直どっちでもいい。産地にこだわりは無い。
「今日は制服じゃないんだな」
「制服?制服なの……あれ」
甚平姿だからか、山本はにかっと笑った。
確かにいつも会うときは恭弥みたいにワイシャツとスラックスだったり、学ランを着ているけど。
たしかに風紀委員の制服といったらそうなのかもしれない。
「並中生じゃねーの?」
「並小生だよ」
「あはは、いつも並中に居るから勘違いしてた」
どんな勘違いだよ。
「いつまで油売ってるの」
山本と会話をしていると隣の屋台からショバ代を徴収した恭弥が俺を睨んでいるので、三人に手を振って屋台から離れた。
それから数時間後、ひったくりの噂を聞いたが風紀委員のお金は恭弥が持ってるので絶対安全だろうと思いながら綿飴を食べていた。大きな綿飴にかぶりついた瞬間に誰かにぶつかられて、俺はあっさり尻餅をついた。
「ぁ……俺のわたあめ……」
地面の上にぼとりと落ちたそれを見下ろす。
「よそ見してんじゃねーよクソガキ」
日焼けした肌、脱色した汚い髪、顔には傷があるのかガーゼをつけている。見るからにチャラチャラした男が俺を見下ろして不愉快そうに顔を歪めていた。盛大に舌打ちをかまして、同じような格好をした男達と連れ添って歩いて行ってしまった。
立たせてくれとは言わないが、心配の一言もないなんて。
気分の悪い奴らだと思いながら彼らの背中を見送ってると、傍でじゃりっと土が踏まれる音がした。
「なにやってんの」
「……転んじゃった」
恭弥がいつの間にか戻って来ていたらしく、俺を見下ろしていた。
「早く立ちなよ。汚れる」
「うん」
立ち上がり、尻と手についた土をぱんぱんと払う。手には石粒が食い込んでぶつぶつと跡が出来ているが傷は無さそうだ。
綿飴って以外と高いのになあ、あんまり食べてないのになあ。
落ちてる綿飴を拾って、傍にあったゴミ箱に捨てた。戻ってくると恭弥はじっと神社の方を見ていた。さっきの奴らが歩いて行った方だ。
「さっき君にぶつかった群れ、うまそうだね」
見てたのかよ、と思いながら恭弥を見上げる。ご褒美に綿飴もう一つ買ってあげるよと言われて俺は素直に喜んだ。
俺に綿飴を買い与えた恭弥は、じゃあ行ってくると歩き出したので一応着いてくことにした。
「ひったくり犯はいいの?」
「あのうまそうな群れを噛み殺してからじゃないとね」
「ふうん」
「ついてこなくていいけど」
「綿飴の恨み」
ぐっと拳を握ると、恭弥は趣味悪いと拗ねた顔をした。お前に言われたくないわと思いつつ恭弥に少しだけついて行ったあと影に隠れた。最終的にひったくり犯とうまそうな群れの両方を見つけることができ、偶然にもボコられそうだった沢田を恭弥が助けた。本人は助けたつもりはないのだろうけれど。
「たしか君だね、にぶつかったのは」
「え?」
影でこっそり見てると、恭弥が頬にガーゼつけた男を見てにやりと笑った。
沢田が隣で困ったように反応してる。
「ムカツクアホがもう一人。ちょうどいい」
ドン、と沢田を押して男は恭弥に向き合う。その時神社にたくさんの男達が押し寄せて来て、恭弥と沢田を囲った。
「中坊一人しとめるために、柄の悪い後輩を呼び過ぎちまってな」
得意気に人をそろえているようだが、恭弥にはそんな人数通用しないだろう。
綿飴を食べながら見学しているとリボーンがいつの間にか隣に来ていて、沢田に死ぬ気弾を撃ち込んだ。初めて撃ったところを見たが、さすがだなあという感想しか浮かばない。俺も遠方武器ということで射撃の練習はしていたが、足元にも及ばないだろう。
最終的に山本と獄寺が参戦していた。
俺は綿飴を食べきったので割り箸を咥えたまま、ひったくり犯が盗って来た金庫を漁り金銭をまとめて巾着袋に入れる。
リボーンは俺の後をついて来たのでその様子を見ているが、口を出して来ない。沢田達のは要らないのだろうかと思ったが、リボーンに聞くよりも沢田の立場になって考えてやった方が良心的だと思い考え直した。
「沢田さんのは残しておいてあげる」
「サンキュー」
結果、どう考えても沢田のは残してやった方が良さそうだった。持てるのかわからないが、金庫ひとつだけリボーンに差し出し、残りの金はすべて俺が巻き上げた。
沢田は俺に感謝すれば良いと思う、と勝手に恩を押し付け、恭弥と合流して風紀委員の活動費ゲットを報告した。
「帰るよ」
「たこ焼き」
トンファーを仕舞った恭弥に、まだたこ焼きを食べていないと主張するが、りんご飴とチョコバナナとかき氷と綿飴を食べた俺は、恭弥の許容範囲を超えていたらしくあまり良い顔をされなかった。
「却下、夕飯は家で食べる約束でしょ」
「ええ……そんな」
普段使わない表情筋を駆使して目一杯悲しい顔をすると、恭弥は一度ぐっとおしだまった。しかし無言で俺の手を引いてバイクを停めてある駐輪場まで連れて行ってしまった。
結局、食べさせてくれないらしい。
でも、次の活動時のおやつはたこ焼きだった。
お祭り限定でくいしんぼさんになる弟を、お兄ちゃんは心配しています。
帰りにバイクに乗せる時に(ちょっと重たくなってる……)って思ってる。
Mar.2015