09
コンビニでアイスを買ってたら、誘拐された。
不意打ちで目と口を抑えられてひょいっと行かれたので、子供である俺には太刀打ちすることができず、あっさりと抱え込まれた。
恭弥関連での誘拐だったらもっと分かりやすいんだけど、急に確認もせずに連れ去られたのは初めてだ。
連れて来られた先にはフゥ太がいて、恭弥関連ではなくマフィア関連かとあたりをつけた。
誘拐犯は堂々と俺に顔を晒していて、髪を括ってヘタみたいにしてるところはデイモンに似ていた。
なんだ、ボンゴレの人か、と思ったけど沢田の周りでは見たことがない。
「こんにちは、雲雀くん」
「こんにちは」
クフフと笑う彼はやっぱりデイモンを思い出す。あの人はヌフフだった。
彼は丁寧な口調で胡散臭い笑みを絶やさない。わりかし丁重に扱われているので、心の中では警戒しつつも逃げる姿勢はとらないことにした。それに、フゥ太のことも置いて行けない。
俺を見てうるうるしてるフゥ太を見てからまた、目の前の人物に視線を戻した。
「フゥ太に、何を?」
「いやですね、手は出していませんよ」
暴行の跡はたしかに見えないけど、見えない所を痛めつける方法はあるだろうし、精神攻撃をしたかとしれない為その言葉は信用できない。それにしても、フゥ太はそもそも情報屋なのでこういう事態にまみえることは予想できるけど、俺は覚えがない。
「心を閉ざしたのはそもそも彼の意志ですよ?おかげでランキング能力まで失ってしまいました」
ふぅ、と困ったように息を吐く。
今となってはこれしか手がかりがない、と呟いて見せてくれたのは並盛中の喧嘩ランキングだ。何人かボンゴレファミリーが入ってるし、恭弥もいる。
下位の連中は此処最近で謎の暴行を受けている人物とも一致していた。
つまり、以前フゥ太がランキングした結果に俺の名前を見つけて攫って来たというところだろう。
情報屋というランキングに入れられたのがちょっと不満だ。前でさえ諜報員という立ち位置だったはずだ。情報で飯を食ってるわけじゃないのに。
俺はたいした情報は持ってないけど、彼の知りたいことを知っていた。フゥ太の様に沈黙を貫くつもりだったし、多少の拷問も覚悟してる。
爪を剥いだり皮膚を焼いたりされるかと思ってたんだけど、手っ取り早く幻術で直接頭に苦痛を強いられた。
正直肉体攻撃より精神攻撃の方が躱すのは得意なのでほっとした。ただ、効かないとバレるのは案外早かったので、やっぱり殴られるかなと思ったんだけどどうやらフゥ太のランキングからあぶり出す方法を施行中なので、俺への尋問は薄っぺらいものだった。
役目と言えば、恭弥が乗り込んで来た時に縛られた状態で吊るされてたくらいだろうか。恭弥は滅茶苦茶怒ってたけど、桜クラ病を治してもらってないのでやられてしまった。
兄が目の前でボコボコにされるというのは正直な話気分が悪いし、此処何日もまともに食事とってないし、フゥ太なんて眠るのすら耐えてるみたいだから可哀相でならない。
恭弥がどこかに幽閉されて、フゥ太が少し連れ出された後、沢田たちが乗り込んで来た。
その頃フゥ太にはマインドコントロールがかけられていて、全く俺の言葉に耳を貸さない。
マインドコントロールを解く方法を知ってはいるが、俺には出来ない。フゥ太の欲しい言葉が分からないのだ。それに、わかったとしても無理矢理解いてしまうのは精神に悪い。かけた本人が解くか、プロに任せた方が良い。
でも、沢田の言葉によって、あっさりとマインドコントロールは解かれた。しかし身体が衰弱していた所為もあって、フゥ太は案の定クラッシュしてしまった。
「そんな!フゥ太!?……ああ、耳からも!」
「彼はこの十日間ほとんど眠っていないようでしたしね、思えば最初から手のかかる子でした」
今更名前を知ったけど、骸はぺらぺらと事の様相を話している。俺はソファの下あたりで今も縛られて転がされてるので黙って聞いていたけど、不意に名前を出されて顔を上げた。
「ランキングだけでは心もとないので、くんにも来てもらいましたが……彼はさすがフゥ太くんより上に居るだけあって、マインドコントロールすらかけられない」
ふぅ、とため息混じりに俺をちらっとみた。
あと、リボーンの視線が痛い。
「まるで洗練されたマフィアのようですよ」
「マフィアなんかならないよ」
俺は一度だってマフィアだったことはない。
しいていうならスパイだ。
反論を口にすると、骸はきょとんとしてからクフッと笑った。
骸は名前の通り六道すべての冥界を廻った記憶が刻まれていると言っていたけど、俺は六道のいずれにも落ちずに生まれてしまっているから、ジャンル違いを感じた。
ご丁寧に六道を紹介しながら闘っている最中で獄寺と恭弥まで遣って来た。恭弥が獄寺に肩を貸していたので、あの一匹狼の傍若無人男が成長したなって思っていたら、獄寺をポイッと捨ててしまった。
「、帰るよ」
「大丈夫?恭弥」
恭弥はふらふらしながら簀巻き状態の俺を一瞥して、トンファーを拾う。
強がりなので骸を倒すまでは帰らないみたいだけど。
俺の問いには答えずにトンファーを構えて、二人で戦い始めてしまった。
闘い終わったと思ったら恭弥は倒れるし、骸が自害したと思ったら憑依弾とやらを使って敵味方関係なく憑依していくし、俺は相変わらず地に這いつくばったまま特にやることも無く汚い地面に落ちてる土ぼこりを吐息で払うだけだった。
本当に、なんでここに居るんだろう。
ボンゴレの医療班が到着して、縄を切って担架に乗せてもらってようやく身体は楽になった。
隣町の骸さん編。すんっっごくざっっっくり。
主人公戦えないから精神力チートです。
Mar.2015