harujion

いとしのヴァニーリア

10

骸の事件の後俺はフゥ太に滅茶苦茶謝られた。
俺の名前がもれたのは確かにランキングの所為だったかもしれないけど、恭弥の弟だから目をつけられていたかもしれないし、結局加害者が悪いのである。
「ごめんね、ごめんね」
ぐすぐす泣きながら俺に首にしがみついて来るので重たい。ちなみに、フゥ太が重いというより俺が耐えられないだけである。
「わかったわかった、わかったから」
「………………
後頭部をぽんぽん叩いてなんとか宥めると、不機嫌な地を這う声が俺を呼んだ。
そうだ、ここは恭弥と俺にあてがわれた病室で、入院中なのだ。俺はちょっと衰弱してただけで入院する必要もなければ、ボンゴレの医療班の治療を受けるほどでもない。なのに恭弥がどうせ家に帰っても仕方ないからって俺も同じ病室に寝泊まりしてるのだ。
仕方なくないけど、反論を聞き入れてもらえていない。
「いつまでそうしてるつもりなの」
「……フゥ太、沢田さんの病室に戻りな」
群れてるのが気にくわないみたいで、じろりと睨み付けられて俺はフゥ太を引き剥がした。
も行こうよ!ツナ兄たちも心配してたんだ」
「行かないー」
ベッドに寝転がりながらフゥ太の誘いを断ると、仔犬みたいな顔でなんでと問われる。
もちろんマフィアに自分から関わるつもりはないからだ。ろくなことにならないのは知ってる。
「元気ですって言っておいて」
緩く笑みを浮かべてさりげなくフゥ太を追い払ったら、恭弥の機嫌もいくらか直った。
「もう人質になんかならないでよね」
「それは難しいなあ」
読んでいた本をぱたんと閉じながら恭弥は呟いた。
あれは回避不可能だったし、人質になるのは大半恭弥の所為だ。あと今回のは人質としての役目はあまり果たせていないように思う。
、君、しばらくは一人で行動するの禁止ね」
「えー」
不満たらたらな顔を向けたけど通用せず、俺は反論をのみこむことにした。


恭弥の怪我が治って平和な日常が戻って来たけれど、またも災厄はふってきた。
ボンゴレリングが恭弥の手にあったのだ。
「は?」
思わず指輪を凝視すると、恭弥が瞬きをして俺を見た。
「ほしいの?」
「いやいらない」
ノーサンキューのジェスチャーをしながら、恭弥から一歩離れた。
これで恭弥も十代目のファミリー決定か。よくみたら半分になっていたから、なにか試練があって残り半分を手に入れなければならないのかもしれない。こんなことでやられるタマではないことは知っているけど、そろそろ本格的に身を守る為に周りを見た方が良さそうな気がしてきた。

放課後、応接室を訪れたら恭弥は居なかった。こういう時は草壁が待機してるはずなのにそれもない。しかたなく廊下をふらふら探し歩いていたところ、土木作業員のような格好をした男性に遭遇した。
小学生の俺が言うのもなんだけど、明らかに部外者だ。しかも、俺を見て一瞬きょとんとしてからにっこり笑った。
骸のそれとは違い爽やかで人好きのする笑みだ。
「よう、少年」
「こんにちは」
手をぱっと上げたので一応俺も挨拶をする。
「兄貴なら屋上にいるぜ」
「へえ。……おじさんだれですか」
軽快にこちらに歩み寄って来て俺の背中をぱんぱん叩きながら一緒に行こうと誘うので、とりあえず一緒に階段を上がりながら顔を見る。やっぱり知らない顔だけど、十中八九ボンゴレ絡みなんだろうな。
「通りすがりのおじさんだぞ、可愛い妻子持ちのな」
「……ああ、沢田さんちの」
ボンゴレリングに関わって来るってことは門外顧問が一番有力だったし、沢田家の普通の情報は得ているのであたりをつけた。間違っていたって問題の無いことなのでさらっと零したら、沢田の父、家光ははっと目を見張ってからにやりと笑った。
「さすがだな雲雀
「どうも」
さっきよりも強く背中を叩かれてつんのめりそうになったのを、たくましい腕に支えられた。おまけに抱き上げられたので少々不満である。子供扱いには慣れているけど、やたら構われることをよしとしたわけではない。ましてや初対面のおじさんに。
「ヴァニーリアの再来か」
家光は俺のかつてのコードネームを呟いたので首を傾げた。どういう意味なのか分からないからだ。
なら調べくらいついてるんじゃないのか?」
「なんのことだか」
俺がボンゴレの初代や当時の裏のことに詳しいのはその時代を生きていたからで、今のことは本当に一端しか知らない。
フゥ太のランキングは俺の潜在的な力量をランキング化しただけで、実績はほとんどないはずだ。少なくとも今の俺には。
今までは恭弥と並盛のことだけを考えて生きて来たのだ。
「初代雲の守護者にも弟が居てな。そのコードネームがヴァニーリアだ」
「へー」
何で俺が俺の話を聞いてるんだろうと、平淡な声で相槌を打つ。
階段ではなければ暴れて降りて一人で屋上に行くのに。
「お前さんは立ち位置といい手腕といい、よく似ている」
似てるって評する程にかつての俺と今の俺を知っているはずがないので、ふんと鼻で笑っておいた。
まあでも、本人なので似てるのは事実だった。

屋上ではなぜかディーノと恭弥が闘ってて、ロマーリオが缶コーヒーを飲みながら観戦してる。俺も家光に抱えられたまま陰から覗いていた。ところが家光はちょっと様子を見に来ただけのようで、俺を解放したらどっかに行ってしまった。
頭を撫でられて髪を乱されたので整えてからロマーリオの居る所に近寄る。
「ようバンビ、なんでこんな所に?」
だよ」
ロマーリオは笑った。そして恭弥とディーノも俺に気がついて手を止めた。
!」
「なにやってるの
ディーノとロマーリオは、恭弥と俺が兄弟であることは知らなかったらしく、恭弥が俺に声を掛けたことに少し驚いていた。
って、雲雀だったのか」
「うん」
久しぶりじゃねーか!とニコニコ笑って闘うのをやめたディーノは家光同様に俺の頭をぐりぐり撫でる。俺は嫌がる顔を惜しげ無く晒して恭弥の後ろに隠れた。
「うちの弟に気安く触らないでくれる?」
「つれねー兄弟だな」

恭弥は来る戦いの為なのかなんなのか、とにかくディーノと戦いつづけることを決めたらしいので、俺はそれまで特に仕事は無しだ。しいていうなら草壁の手伝いをしたり、ロマーリオと一緒に観戦したりする程度。
というか俺はリングの争奪戦を詳しくは知らなくて、ロマーリオに説明を受けた時、結構驚いた。知っていると思われていたことも意外だった。もともと俺はボンゴレをよく知ってる訳ではないので、口出しをするつもりはない。
その説明の末にされたのは争奪戦によって校舎を壊す可能性がある為、ディーノは恭弥を学校から遠ざけたいという事情だった。争奪戦を邪魔されては沢田たちの部が悪くなるらしい。
ディーノはなんとか連れ出そうとしていたんだけど、簡単な手段を思いついたらしく、ある日俺を攫った。
攫うというより、お願いされたので素直に車に乗ったのだ。学校から離れた場所に行き、キャバッローネのおじさんたちと一緒にお茶をしている写真を恭弥にちらつかせると、恭弥は俺を迎えにくるついでにディーノと闘うのでさりげなく学校から遠ざけることに成功した。
ただし、これが終ったらまた恭弥のあたりが強くなりそうな予感がした。
知らない人にほいほいついて行くなと言われて、四六時中一緒に居るハメになる。この間の骸の件も一週間は小学校じゃなくて中学校に登校させられたのだ。

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”〇〇の守護者”は創作しません。残念でした。(良い笑顔)
Mar.2015