harujion

いとしのヴァニーリア

13

未来の夢を見てから数日後、並盛中に集団転校生がやって来た。
至門中学校という名前に思い切り聞き覚えがありすぎて、嫌な予感もする。ボンゴレファミリーじゃないとはいえ、俺は随分色々使いっ走りをされていたのでシモンファミリーの名前も知ってる。デイモンが裏切ったことを調べていたのは何を隠そう俺である。
シモンと俺に友好関係はないけれど、顔を見たことはあった。ボスのコザァートは古里にそっくりだし、他の連中も面影を残している。ボンゴレといいシモンといい、まるで先祖帰りのようである。

山本が負傷した後、継承式に出席する立場ではないのだけど恭弥の付き添いとして連れて行かれた。
さらに襲撃を受けて、俺はクロームと一緒に誘拐されてしまった。
誘拐したのはジュリーという男だったけど、すぐに正体は分かった。
「デイモン……」
「久しいですね、ヴァニーリア」
意識を失ったままのクロームの脇で、俺はぽかんとジュリーを見上げる。名前を言い当てたから、ジュリーはデイモンの姿をとった。
「今は、でしたか……ヌフフ」
頬を撫でられて、気持ち悪さとくすぐったさに顔をしかめる。かわりませんね、と言った瞳だけは優しい。
クロームのようにマインドコントロールができない俺は腕と足を縛られているだけだ。これだけの拘束で済む俺はちょろいのか、逆に厄介なのか甚だ疑問なところだ。
「さて、いきましょうか」
デイモンはジュリーの姿に戻って俺を抱き上げ、マインドコントロールしたクロームを起こし、屋敷から外に出た。
律儀にアーデルハイトが恭弥に負けたと説明してくれるのを聞き、森の中を抱かれて進む。
正直俺は皆の前に顔を出すのが嫌だ。恭弥は俺が誘拐されたことを怒ってるに違いないし、ジュリーもといデイモンは俺がヴァニーリアだと言うことを知っているために何か余計なことをいいそうだから。

恭弥達の前に現れたときは当然、恭弥が思いっきり不機嫌な顔を向けて来た。帰ったらまた行動制限をかけられるのだろう。
「全てはボンゴレのため」
ジュリーからデイモンの姿をとった彼は俺を地に降ろして沢田たちに相対する。
手だけでなく両足も縛られているので、あちらに逃げ出すこともできそうにない。飛び込めば恭弥がキャッチしてくれるかもしれないけど、後ろから刺される可能性を考えたら大人しくしてるのが得策だと思って、逃げるのは諦めた。
「ボンゴレを作った一世という男は優れたリーダーではあったが、欲に欠けていた。しかしマフィア界においては強欲と力こそが絶対的正義……」
デイモンの裏切りは知っていたけど、理由は知らなかった。悪役よろしく、淡々と語るデイモンを見上げながら、俺は過去を思い出す。
デイモンは心優しい青年で、弱者の味方だった。エレナと二人で、仕事以外で出不精になっていた俺を連れ出すなど、普通の一面もあった。
エレナを喪った哀しみは、ここまで人を変えてしまったらしい。
水野や山本がやってきて闘った後、最後の勝敗が決したと復讐者が記憶の断片をファミリー達に見せた。俺は生憎ファミリーではないから見られないけど、内容は知っている。
「ボンゴレ一世は初代シモンを裏切らなかった!!二人の友情は変わらなかったんだ!」
「おのれ一世!コザァートの死を偽装するとは!!」
喜ぶ声と悔やむ声で、皆が見た記憶を察する。
リボーンは、戦いの後も生きていたコザァートがなぜ歴史にないのかと疑問に思って声を上げた。
「この私ですら今の今までコザァートの足取りを知らぬ……まさか、ヴァニーリア」
「え?」
ここにきて急にデイモンが俺をばっと見る。思わず返事をしたので皆も俺を見た。
「確かに死は偽造したけど、消息を絶ち隠れてきたのはシモンの実力だよ」
単純な情報操作程度のことしかしていないと、まるで弁明するように語った。山本は笑って、なんでもいいじゃねーかと軽いことを言ったので場は和ませられたけど、今普通にヴァニーリアって呼ばれたことを俺だけはしっかり覚えていた。
デイモンが撤退する時にさりげなく俺を置いて行ってくれないかと思ったけどそんな希望は虚しく散り、クロームと一緒にまた屋敷に戻った。

屋敷では、デイモンが骸をおびき寄せて戦った。その隙に身体を乗っ取る手はずなのだろう、あっさりと勝敗は決した。
「ありがとう」
「相変わらずのんきな子ですね、簡単に誘拐なんてされて」
転がっていた俺の縄を取り払ってくれた骸にお礼を言うと、呆れたような眼差しを向けられる。
そんなところに沢田たちがやってきて、骸の姿に驚きの声を上げた。
「おやおや、愚かなマフィアがぞろぞろと……」
「早く帰りなよ骸」
「……助けてもらっておいてその口ぶりはなんです」
「親切で言ってるの、に」
頬をつねられている所にトンファーが飛んで来て、骸が打ち落とした。
思わず骸の陰に隠れてしまったのでひょっこりと顔を出してトンファーを投げて来た兄を見る。
「噛み殺そうかと思ったが、それだけ体力を使い果たしていては勝負にならないな」
俺に怒ってるんじゃなくて骸に対して喧嘩を売っていた。
「あとはやくそれ返して」
「君のものではないでしょう」
しっかり骸を盾にして服の裾まで握っていたので、さすがに恭弥に睨まれた。ぱっと放して恭弥に近づいて行くと手が伸びてくるのできゅっと目を瞑る。アイアンクローの覚悟をしていたが、頭をぐるりと一回転触れられるだけで終った。
「怪我は」
「してない」
「そう」
どうやら触診だったようだ。その後に続いた問診にも答えると、恭弥はふんと息を吐いた。

気づいたら骸はクロームに身体を返して消えていたけど、デイモンは抜かりない男なので身体はもう乗っ取られている気がする。
ほっとした和やかな空気を見て、俺はため息を吐く。
不意に、ばさばさと骸のフクロウが羽音を立てて飛んで来た。おかしい、と喋ったのでお前が一番おかしいと言いたかった。

ムクロウが俺の傍まで飛んで来たので手を伸ばすとあっさりと抱かせてくれた。もこもこしてあたたかい。

「だから早く帰りなって言ったのに」

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展開はジャキジャキ削る。
May.2015