harujion

いとしのヴァニーリア

14

デイモンと沢田が闘っている最中は恭弥と一緒に隔離されていて、倒されるまでは一緒にアクション映画を観ているようなものだった。
屋敷なんて跡形も無くなっていていつのまにかだだっ広い光景が広がっていて、俺と恭弥はようやく終ったのかと無言で顔を見合わせた。

恭弥は皆の方に近寄らないつもりみたいだから、俺は一人で横たわる骸の傍による。
デイモンはもう逝ってしまったのだろう。
頬を撫でて髪の毛を梳くと、クロームとムクロウが傍によってきて、骸の身体を一緒に見ていた。クロームはぼろぼろになった骸が可哀相なのか泣いていて、骸自身はさほどダメージを受けていないようで落ち着いていた。
「骸……ごめん……」
「クフフ……なぜ謝る」
沢田が近寄って来て骸に謝った時、俺が見下ろしていた骸の顔が動いて、痛みに顔をゆがめつつも笑った。
「うわ」
「うわってなんですか」
骸を撫でてやるつもりは無いのですぐに手をぱっと放したら、不満そうに言葉をかえされた。
守護者達の肉体が強靭すぎて俺は引く。こんな身体では普通喋れない。
沢田が骸と喋っている間に、沢田の持っていた懐中時計をさりげなく奪って中を見ると、エレナと俺と、ボンゴレの守護者が写っていた。少しだけ色あせているけれど、皆の表情はよく見えた。アラウディの傍で、俺もやんわりと微笑んでいる。
頻繁に会うことはなかったけど、こんな風に写真を撮る程には構われていたなと、郷愁を感じつつ懐中時計をパチンと閉じた。
「左端のがお前か」
「そうだね」
リボーンは俺の目の前で俺を見据えていた。
「なっ、どういうことだよリボーン」
「デイモンがをヴァニーリアと呼んで、こいつはそれに答えていただろーがダメツナ」
やっぱりリボーンは覚えていたらしい。
「そもそもヴァニーリアって……」
「初代雲の守護者アラウディの弟であり、彼の諜報機関に在籍。いわゆる裏社会でスパイやってた人」
簡単に自己紹介をしてマフィアじゃあないよと付け加えたら、沢田はまんまるの目で俺を見た。
それがどうして俺になるんだってことだろう。俺の存在が幻術の類ではないことくらい、沢田の超直感でわかる。
「俺は別に……ただ単に、生まれ変わって此処に居るだけ」
「う、生まれ変わり!?」
沢田は面白いくらいにびっくりしてくれたけど、過去俺をマインドコントロールできなかった骸は、どうりでと余裕ぶって笑った。


内心、ヴァニーリアが後世に名を残してるのが意外だった。
自分でいうのはなんだけど、たしかに優秀だ。諜報活動に失敗したことはなく、いつも生きて帰って情報は持ち帰った。でも、だからこそ、名前は漏らさないはずだ。家光やリボーンはボンゴレに一応関係する人だったから、なのだろうか。
「ある時期をさかいに、消息を絶ったと聞いている」
リボーンがつぶらな瞳で俺をじっと見つめた。
消息を絶ったのは本当だ。
だがそもそもボンゴレではないので、反旗を翻したことにはならない。だからといって見限ったわけでもなく、仕方がないことだったのだ。それでも、それを知らないリボーンにとっては、俺はデイモンと同じに見えるかもしれない。戦闘力はなくとも、立派な裏の人間だから。

「リボーンと同じようにね、呪われてしまったんだよ」

ぎくりとしたリボーンのおしゃぶりを指でくすぐったら、ものすごい勢いで距離をとられた。今のは、隙があったリボーンが悪い。
その警戒心と動揺に少し笑いながら立ち上がると、ちょうど良く復讐者がやって来たので俺はその間に恭弥の方に戻った。


骸はあれから復讐者に功績を認められて釈放された。恭弥は心置きなく骸と闘えるといって黒曜ランドに向かってしまい、俺はその隙にヴァリアーに拉致されていた。なんでだか全く意味が分からない。
「なんのごようでしょう」
俺はほいほい誘拐される運命にあるのか、と自分の運命に思いを馳せる。昔はこんなことなかった。
スクアーロに飛行機の中に連れ込まれて、ヴァリアーの面々と顔を合わせる。ザンザスはいないらしい。
そういえば、現実でこんな風に顔を合わせたのは初めてだ。俺は未だに夢でみた情報が真実だったのかそうでないのかわからない。恭弥は俺に説明しないし、沢田たちとつるんでる訳じゃないから確認もしてない。
「あと、どちらさまでしょう」
一応初対面だしなあと思いながら皆の顔を見渡すと、ぽかんとされる。
「まさかお前覚えてないのか?」
「は?」
掴み上げられてるので宙ぶらりんのまま、スクアーロの顔を眺める。
ルッスーリアやベルまで俺の顔を覗き込んで来て、未来の記憶がどうとか言ってるから、もしかしてこの間の夢に関係があったのかと、首を傾げる。
「えー、やっぱり夢じゃなかったの?」
「覚えてんじゃねーかぁ!」
「あああー」
スクアーロにガクガクと揺さぶられたので藻掻いて逃れる。ベルがししっと笑いながら解放された俺を抱き上げたので、結局飛行機からは降りられなかったし、なぜかフランスにいるフランを捕まえに行く要員にされた。
「なんで俺まで」
「あなたは未来でも良いお仕事をしたからよん」
「ありがとう」
ルッスーリアにジュースを渡されたのでお礼を言いながら受け取る。
「良い子ねえ」
優しく頭を撫でられたので、ジュースを貰ったお礼に無抵抗を貫いた。
「良い仕事したって、今は環境が整ってないので別に情報はもってないですけど」
を連れて行けばフランも来やすいだろぉ」
「ああそういう」
俺はただの餌らしい。餌の役目を果たせる自信はあまりないけど。
難しく捉えるとめんどうなので飛行機やフランスの田舎を楽しむことにした。

フランの祖母の家には子供の俺と赤ちゃんのマーモンで行って来いと放り出されたので、俺はマーモンを抱き上げた。
「君、フランス語喋れるのかい」
「んーうん、多分」
最近喋ってないからなあ、と舌を転がした。
舌慣らしにフランスの民謡を歌いながら歩き、スクアーロに教えられたフランの祖母の家の戸を叩く。
聞いていた通りおばあさんが出て来たので、フランス語でフランはどこですかと聞く。いざとなったらマーモンが喋れるけど、赤ちゃんに喋らせるのもなあと思ったので頑張って記憶を呼び起こした。多少未熟な言葉遣いでも通じればどうでも良い。
「まあかわいい坊やと赤ちゃん。フランなら川の上流に遊びに行ってるわ」
俺とマーモンの組み合わせはたいそう油断を誘うようなので、おばあさんはあっさり教えてくれた。視線を外された隙に撤退したけど、ミルクを出してくれるという誘いはちょっと惹かれた。

情報通りに上流に向かうが、結構距離があるので俺は疲れてきた。おまけに滝まで駆け上がるらしい。
「もうやだ、俺行きたくない」
「あ" ぁそうだったコイツ……」
へこたれてしゃがむと、スクアーロが一瞬叱咤しようとしたが、すぐに俺が普通のチビだと思い出した。
「待機かおんぶ」
スクアーロにどっちがいいって聞くと、彼の答えを待つこと無くベルが俺を抱っこした。おんぶがいいんだけどなあ。

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じつはアルコバレーノでした。ようやく主人公が主人公らしく……なってきた?のかな。
May.2015