15
「もうちょい体力つけた方が良いんじゃね?」
「はあ」
「ヴァリアー入ればオレが鍛えてやるよ」
「遠慮する」
崖をのぼり終わった後ベルはあっさり降ろしてくれたのでまた自力で歩く。
帰りはさっきの所を多分一気に降りるんだと思うと正直嫌だ。
「みたいに普通のガキならぜってー来れねぇな」
スクアーロが俺を一瞥して鼻で笑った。俺はインドアの仕事なんだからしょうがない。
「やっぱフランは普通じゃなくてアホってことだろ?」
「まったくだびょん」
ベルの言葉に返事をしたのは、ヴァリアーでも俺でもなく、向いの岸にいた男だった。たしか、城島犬という名前だ。彼の他にもMMと柿本千種と骸がいる。
「なるほど、そういうことですか。どうやらあなた達もフラン獲得に動いていたようですね」
「他の勢力っていうのは、六道骸一味だったってことだね」
「クフフ、相手にとって不足無し……ところで何故そこにが?」
「うわー……恭弥空振りだ」
足元がボコボコしてる所為で俺がよたよたしてるのを見かねてルッスーリアが手を引いてくれていたので、繋いだまま骸を見て静かに日本に居る兄を思い出した。骸に喧嘩を売りにいったのにその本人がフランスに居るんじゃあ意味が無い。おまけに家に帰ったら俺が居ないので、多分また機嫌が悪くなるのだろう。突然拉致されたので置き手紙もできなかったし、今も連絡を入れられてない。
骸と二、三日喧嘩をしててくれれば、その間に帰って来られたかもしれないのに。
自分の未来に思いを馳せていたら、無視された骸は不満げに俺の名前を向こうで呼んでる。これも更に無視しようと決めた。
「おっ、いたぜ、あれじゃね?」
都合良くフランを発見したらしいベルが声をあげたので、視線の先を追う。
そこでは、林檎のかぶり物をした子供が、川で遊んでいた。
もとからアホだったと聞いてるけど、記憶が無くなって更に厄介になったフランの引取先を骸とスクアーロは互いになすり付け合っていて、俺はルッスーリアに影に隠れてなさいと言われた。俺がいるからってこっちに来るとは思えないけど。
結局あみだくじで決めようということになったが、フランは自ら骸のほうを選択した。
帰り道はさすがにベルの細い身体じゃあ安心できないから、手を引いてくれていたルッスーリアにおんぶを強請ったら、あっさり負んぶしてくれた。しかし、そのまま日本に送ってもらえると思っていた俺の考えは見事に打ち砕かれて、イタリアのヴァリアー本拠地に連れて来られた。
「なんでだ……」
恭弥に怒られるのが一番怖い。アイアンクロー怖い。
ぷるぷるしながら、ふかふかのソファに座って俯いてる俺の頭に、ベルがどすんと肘をおいた。
「なんでっつってもなあ、九代目が連れて来いって言うんだ。しょうがねーじゃん」
「……初耳なんだけど」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「だとしても、フランスに行く必要ないよね」
「かぶっちまったんだもん」
優先事項がおかしいと思ったけどもはや口答えする元気もない。
ボンゴレに呼ばれた理由もよくわからないし、早く日本に帰りたいのでさっさと九代目に会えるように取り計らってもらった。
その日の夕方には九代目の守護者同伴のもと九代目に会うことができたけど、どうやら本題の用があるのはこの人ではないらしい。部屋に入って来たボロボロの服を纏う大層年を取った老人が、目を隠したままなのに俺を見て、少しだけ唇をわななかせた。
「おお……」
しわくちゃな唇から、しゃがれた感嘆の声が漏れる。
マントのようなものをさらりと開いて、うずうずと震えて今にも飛び出そうとしている、小さな杖を取り出して手に取った。
それは、俺の杖だ。
「まさか、……タルボ?」
「いかにも」
いやそんなまさか、と思いながらも覚えのある名前を口にする。
マフィアはすぐ死ぬ可能性があるとしても、ボンゴレは九代目にまで代替りしているのだから、タルボが生きているなんて信じられない。
「やはりきみは……ヴァニーリアなんだね」
九代目は俺の向かいに座って、にっこり笑う。俺はタルボの老いっぷりと、自分の杖をまじまじみつつ、九代目に頷く。
「うそ、本当にタルボ本人なの?」
「この杖が証拠じゃろうて」
「代替りはしないのか……長生きだね」
とりあえず俺は杖を受け取って、手で撫でる。
「じじ様、この杖は?」
「おお、これはなヴァニーリアの杖での。あの人が行方をくらます前に一つ預けてくれたものじゃ」
「スペアですけどね」
「杖……武器かなにかなのかい」
彫金師のタルボが持ってる意味などない、ただの木の棒にしか見えないそれは、俺にだけは意味のあるものだった。
試しに杖でグラスをつつくとウサギの形になった。
肉体は滅びても魔力はあったのか。癇癪をおこして魔力を暴発させたりしなかったから気にしていなかった。
「噂は本当だった、というわけか……」
九代目はぽつりと呟いた。
「———魔法使い、ヴァニーリア」
「やだなその言い方」
子供向けアニメみたいだ、と心の中で付け足す。
コードネームとして仕方は無いけど、俺と結びつける名前にはしたくないというのが本音だ。これは当時、髪が白金色で甘いものばっかり食べていた俺にアラウディがつけたコードネームで、他に特に希望がなかったのでそれのままにしていただけ。
ウサギをグラスに戻しながら、この杖は貰っていいのかとタルボに尋ねると、深く頷かれた。スペアの杖だけど、十分力になりうる。これから先、生きて行くにはこのくらい武器を持ってないと無理だ。あんなリングだとかボックスだとか炎だとか、俺にはついていけない。
「もう用ないなら、帰って良いですか?これ以上無断外泊が続くと保護者にメタメタにされるんで」
「ああ、すまない、君がヴァニーリアならばまだ聞きたいことが」
「?」
立ち上がろうとしていた所だったが、九代目に制されてもう一度ソファに身を沈めた。
「君の……行方不明後のことだ」
「−——ああ、」
なるほど、と唇だけで囁いて、苦笑する。俺がヴァニーリアだったことも、リボーンと同じ呪いを受けたということも、聞いてるんだろう。
「アルコバレーノのしくみは言えません。末路も、言えません」
でも、俺が赤ん坊になったのは事実で、その後五十年あまり、死ぬまで赤ん坊の姿のままだったことはきちんと伝えた。
ボクの名前は"ばにら"っ!ふつーの小学四年生のオトコノコ、、、だったんだケド、ある日突然、魔法使いになっちゃった!?並盛町の平和を守るため、ううん、大好きなお兄ちゃんのために、ボク……がんばるよっ!
魔法使いバニラ!毎週にちよう朝8時さんじゅっぷん!えくすぺくと・ぱとろーなぁぁむ☆(決め台詞)
May.2015