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恭弥がバトルに参加しない筈はないだろうな、と俺は予測していた。
リボーンの誘いを断ったのは群れるのが嫌だからというのもあるけど、より多くの敵と戦うため。なら、誰とも組んでいないアルコバレーノが恭弥に声をかけるだろうし、恭弥もそれに応じるだろう。
アルコバレーノは裏では有名なため、簡単なプロフィールくらいすぐに調べがついた。マーモンとユニとは所属がある為すぐ除外できたし、スタントマンや科学者が恭弥と組む筈はない。コロネロは所属ではないが声をかける相手の検討はついた。
最終的に残ったのは風だ。彼は武闘派だし、誰とも関わりがない。
「あなた、武術はからっきしじゃないですか」
風にコンタクトをとったら、まずこう言われた。恭弥との相性はいいかもしれないけど、俺は別に彼にとって魅力的な所はない。というか全員、俺に声をかけようなんて思う者は居ないだろう。情報が欲しいとか、調べ事して欲しいならともかく。
「この戦いはとても危険なのですよ」
参ったな、と唇を摘んで考えている俺をよそに、風はくどくど説教をしていた。興味本位で参加したいと言い出した子供だと思っているようだ。
リボーンは恭弥には俺が生まれ変わりだと言ったかもしれないけど、アルコバレーノ達には言わなかったのだろうか。そもそもリボーン本人が俺にアルコバレーノについて深く聞いて来ないのも変だ。呪いを解く為の代理戦争なんて信用出来ないのだから、まず俺に聞いても良いだろう。それをしてこないのは、この代理戦争について察しがついているからか。
「俺、皆の先輩なんだからね」
早くお家に帰って寝なさい、みたいな事を言ってた風に、こほんと咳払いをしてから言う。口をちょこんと開けて目を丸めてしまった風に小さく笑いが零れてしまった。赤ん坊だからそういう動作がいちいち可愛いのだ。
「おしゃぶり守り続けて生きてたんだから、時計くらいどうとでもなるよ」
「まさか……」
「チェッカーフェイスも人が悪い。俺にも時計を渡してくれたらよかったのに」
おそらく数十年程アルコバレーノをやっているだろうから、子供の姿である俺に違和感を感じているに違いない。
「俺、アルコバレーノの任期を終えてから死んで、生まれ変わってんの」
「そんな、信じられません……」
「生まれ変わるなんて稀なケースだから信じなくてもいいけどね」
ある程度の情報を提示すれば風は俺が普通の子供ではないことは分かってくれたようだけど、結局俺に武力は無いと言って時計を渡す事を渋った。それでも、恭弥を味方にするには俺が居た方が良いし、俺は極力戦わない方向でいると言えば時計を渡してくれた。
「ボスウォッチくれてもいいよ?」
「それはできませんよ」
「そう。でも恭弥は戦いの邪魔だと判断したら壊すかも」
「え……」
人の決めたルールは嫌いで、自分自身がルールな男なのだ。
予言にも似た助言をして、俺は時計だけ持って家に帰った。
恭弥は俺が時計を持っていることに何も言わなかったけど、バトル開始の日から一日中俺を連れ回していたので一応心配をしているらしい。
運がいいのか悪いのか、初日に恭弥が見つけたのは山本と獄寺と笹川だったので、俺に被害が来ることもなかった。恭弥も山本の雨のせいで力が出ないまま終って、俺としては良い結果に終った。恭弥だけは戦えなくてムシャクシャしていたけど。
ところが二日目は欲求不満の恭弥がディーノを襲撃しにいくといって高級ホテルに向かった。ディーノだけなら俺に手を出してくる事も無いだろうし、多分恭弥に大怪我させることもなさそうだったんだけど、同じホテルにヴァリアーが泊まっている情報を得ていた俺は正直行ってほしくはない。しかしそんな俺の要望を聞く男ではないのである。
唯一の救いは、風が大多数を一瞬にして片付けてくれたことだ。
「なに余計なことしてんの?」
「あなた一人では危なっかしくて、見てられません」
さりげなく俺を戦力に数えてないけど、まあそれは良いだろう。
俺は別に戦うつもりがあるわけではなかった。なら時計なんて要らないだろうって話だけど、それじゃあいざってときに手出しが出来ない。時計をしていれば恭弥を連れて無理にでも逃げたって良いし、爆発起こしたり敵を足止めしたって良いのだ。
「二人でかかってくる分にはかまわないぜぇ、三枚ずつ六枚におろしてやる!!」
スクアーロまで俺を計算に入れていないが、まあ、俺の攻撃なんて猫パンチレベルだと彼も知ってる。侮られるのはとても有利だ。
とりあえず俺は攻撃があたらないように部屋のすみっこに居る事にして、事の成り行きを見守った。
風が赤ん坊に戻ってしまった後、一瞬恭弥が危機的状況に陥ったので杖を出したけど呪文を紡ぐ前にディーノの鞭が恭弥を助けた。恭弥は不満そうにしているが、俺はこっそりほっとする。
どうやら恭弥を助けたのはディーノのただのおせっかいではなくて、リボーンの意向だったらしい。つまり、リボーンは恭弥と沢田を戦わせたいということだ。その底にあるリボーンの意志を察すると、俺にアルコバレーノのことを聞いて来なかった理由もなんとなくわかる。多分、アルコバレーノの呪いなんて、どうでもいいんだ。なげやり、という意味ではないけど。
俺は相変わらず部屋の隅っこにいたし、ザンザスや恭弥がどうやって戦おうと爆発しようと、自分の身くらい守れたんだけど、部屋一帯をふっ飛ばそうとしたとき、ディーノが俺を抱えて外に飛び出した。爆風のなか風と目が合ったので、杖をひょいっと振って守りの呪文を唱えれば、破片は俺たち三人を避けて落ちて行った。
鞭でぶら下がってるディーノは俺を抱いていたからあまり見えていないようだけど、風は俺をまじまじと見ていた。
結局戦いは引き分けに終ってしまい、納得のいかない恭弥は俺の予想通り、自分のボスウォッチを叩き割った。腕につけたまま、割る程トンファーを叩き付けるとか信じられないと思った。
「……優勝したら私と戦うという約束はよかったんですか?」
「僕は戦いたい時に戦う」
風が可哀相だなと思ったけど、恭弥の潔さに笑みを禁じ得ない。
くすくす笑ってるとディーノが俺の後頭部をぽすぽすと撫でて、苦笑していた。
ところが和んでいる場合ではなく、恭弥に応じようとしたザンザスが暴れ、戦う相手の居ない恭弥はディーノに戦意を向けている。
風においでおいでと手招きをしたら肩に乗って来たので腕に抱き直し、ディーノに向かって行く恭弥の背中に投げかけた。
「恭弥俺お腹減ったから先に帰るよ」
「うん」
風ちゃんもっと愛でて仲良しにしたかったんですけど断念。
でも家に連れて帰って盛大におもてなししてます。寝かしつけるまでやります。中身が大人だと知っててもなあ!
May.2015